帰り道、デジモンの香りのする人とすれ違った

12月18日(月)

3万円を盗まれ(本当に毎日頭の中がそのことしかない)、それまでちまちまと倹約していたのが途端にアホらしくなったので、栄の三越で食べたいものを全部買うことにした。
2,000円になった。
アホくさ。3万円あれば15倍の量を買えたんじゃん。

職場の誰が盗んだのか犯人を探したい。全員の財布を勝手に開けて確かめてやりたい。
もちろんそんなことはしないけど、職場の誰かはそれをしたのだ。
勝手に人の鞄を開け、勝手に財布を開け、お金を盗んだのだと思うと、その理性のなさに吐き気を催す。人のお金で過ごすクリスマスはさぞかし豪勢なことだろう。

栄駅でイライライライラしながら電車を待っていると、後ろから「すみません」と声をかけられた。
僕は外で話しかけられたら無条件で無視をすることに決めているので…と書きながら自分の薄情さが虚しくなってきたけど、外で話しかけてくるのはオープンハウスか新興宗教しかいないから、こちらの精神を自衛するには全無視するしか方法がない。なので今回も何も聞こえてないふりをして電車を待った。

運良く電車に座れ、ぼんやりと何もせず(栄駅周辺はソフトバンクの電波が通じないためスマホが触れない)月曜日だけどお酒いっぱい飲んじゃお、と思って家の最寄駅のスーパーで目についた缶チューハイを買いまくった。607円。
アホくさ、パート2。(LIONのごきげんようシステム)
たまの贅沢で買う1000円台のワインも、盗まれた3万円があれば何リットル買えたんだ。
小林か?佐橋か?杉山か?誰が盗んだんだ。

イライライライラしていると、プツッと音が聞こえた。
一瞬、頭の血管が切れたのかと思った。
しかし冷静に考えたらそんなわけないので、どうせリュックの中の荷物が崩れた音だろう。家に帰ってからお風呂(シャワーのこと)するか、ご飯食べてからにするか、いっそ明日の朝にするか。なんだか雨が降りそうだ。自転車で坂道を下る大学生の存在を法律で禁止してほしい。今自転車にぶつかられたら何しでかすか、自分で自分が分からない。大学はもう休みじゃないんか。大学で就職の方法ばかり学んでないで交通ルールを学べ。実家帰れ。自転車のライトをお年玉で買え。そうだ、甥のお年玉用の千円札をどこかのタイミングで作らなければ。それにしても3万円があればお年玉もあげ放題なのに…。
とごちゃごちゃ考えていると、ふくらはぎが冷たい。雨が降っているのか。いや、お尻も冷たい。というかビショビショに濡れている。下痢を漏らしたのかとギョッとしたけどそんなことなさそう。
まず「栄駅で無視したときに腹いせで何か液体をかけられたのか?」と咄嗟に思い、次に「電車の中で不自然に空いていた座席で濡れたのか?」と思い、そのあとリュックに入れた缶チューハイが漏れていることに思い至った。
「さっきのプツッという音は、缶チューハイが鞄の中で爆発した音だったんだ!床に落とされて暴発寸前だった缶をつかまされたんだ!あ、な〜るほど(泣)」
半泣きで走って家に帰り、ビチョビチョのズボンと鞄と財布と折りたたみ傘を洗い、急いでお風呂(シャワーのこと)に入り、ベランダにズボンと鞄と財布と折りたたみ傘を干し、三越で買った食べ物を口に詰め込み、暴発した缶チューハイ(150ccしか残ってなかった)で流し込んだ。
寒くて味も分からない。

12月19日(火)

鞄からシークワーサーの匂いをさせながら出勤。

職場に佐橋という男がいる。僕と同年代で、左利きで、山陰出身で、少しなよっとしていて、何が言いたいかというと、つまり僕とキャラが被っている。
そのせいなのか、僕たちはあまり親しくない。というか積極的に仲が悪いといえる。
なのに髪を切るタイミングも同じことが多く、職場の人に「示し合わせてるの?」とからかわれることがあるけど、「そうなんです〜僕たち双子みたいでしょ(と、ピースを前に突き出してくっつけて2人でWの形にする)」と明るく返すこともなく、お互いムスッとして気まずくなるだけ。

その佐橋は僕からの業務メールを無視しがちで、さまざまな提出期限を守らない。そのせいで僕が怒られる。
期限が守れない種類の人間かと思いきや僕が介在しない他の仕事はテキパキこなしているので、意図的に僕の依頼を無視している可能性がある。
ムカつくのである。

…こいつか?

佐橋が職場の隅で、いけすかない同僚(会社のお金を自分のお小遣いだと勘違いしているのか、職場の消耗品を買って欲しいと相談すると「え〜?」と嫌な顔をして勿体ぶる。なのに仲の良い人には「いいよ〜」と笑顔で返す)とコソコソ声をひそめているのを見るにつけ、
「僕から盗んだお金の使い道で相談でもしてるのか?それで職場用の付箋や電池を買うのか?」
と勘繰ってしまった。
自分がどんどん偏執的になっていく。

12月20日(水)

お客様感謝デーだったのでイオンに行って、大晦日に蕎麦に入れる用のニシンとお正月用のニシン(昆布で巻いてあるやつ)と黒豆(煮てあるやつ)と蒲鉾とワサビの漬けものを買った。
蒲鉾は98円で、おかしいなと思いながら買ったけど、ちゃんと見たら12月30日が賞味期限だった。よくできてるね。

帰り道、デジモンの香りのする人とすれ違った。
デジモンの香りというのは、「小学生のとき、デジモンを初めて買ってもらった夏の夕方、逆立ちの状態でソファにもたれかかりながら、説明書のイラスト(ドット絵を拡大解釈したきらびやかなモンスターの絵)を眺めていたときに嗅いだ香り」のことを指す。
そうとしか言いようがない。白い花とか赤い果実の香りとか、甘い香りとか清涼感のある香りとか、別のもので説明ができない。
平常時はそれがどういう香りだったか少しも思い出せないのに、その香りを実際に嗅いだ瞬間だけ、まざまざとデジモンの突起の感触まで鮮明に思い出される。
デジモンの機器本体には、向かい合わせでくっつけて対戦させるための突起がついていたけど、僕には友達がいなかったので、その機能を使ったことがない。突起をいつも撫でるだけだった。
この香りの正体をいつか突き止めたい。

「何の香りなのか分からないけど好きな香り」というのがもう一つある。それはミュウツーの匂いと呼んでいる。

12月21日(木)

通勤電車のお供にしていた山本甲士『どろ』(小学館文庫)を読み終えた。
ご近所トラブルがヒートアップしていく様を描いた小説なんだけど、職場での地味なトラブル(処分予定のPCB機器が行方不明とかカスハラ、パワハラなど)や新聞に載るしょうむない事件(カラオケで自分の歌いたかった歌を先に歌われて暴行など)が関西弁で淡々と綴られて、面白かった。
山本甲士は『戻る男』をたまたま読んで、面白くて、『ひかりの魔女』を読んで、面白くて、『ひなた弁当』を読んで、面白くて、『迷わず働け』を読んで、この人めっちゃ面白い!好き!となった。
BOOKOFFではALWAYS 3丁目の夕日のノベライズ作家としてよく見る名前だけど、著書は面白いのでぜひ。

12月22日(金)

ガスコンロ用に単1電池を買いにダイソーへ行った。
ガスコンロ本体にはアルカリ電池を使えと書いてあったけど、ダイソーにはマンガン電池しかなかった。
「単1電池 アルカリ マンガン」と検索したら、ガスコンロに関連するページがたくさん出てきた。単1電池なんてガスコンロにしか使わないよね。

昔働いていたとき、「電池を100均で買う」と話したらバイトの大学生にものすごく反対されて、100均で買う買わないでもめたことがある。

明日は予約していたクリスマスケーキをもらいに行く。
今年全然面白くなかったけど、なんか急に楽しくなってきた!
それではさようなら。

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