『エイリアン:ロムルス』酸は精液、墓穴を掘る男根

『エイリアン:ロムルス』はシリーズのどの作品が好きな人でも概ね高評価の全方位満足型映画。監督のフェデ・アルバレスは持ち前のビジュアルセンスに加え、見たことのない映像や展開をつくるためのアイデアを豊富に持っている非常に優れた作家だと思う。故にサム・ライミ、デヴィッド・フィンチャー、リドリー・スコットという名だたる監督がつくったシリーズの後を継ぐことができる。

本作でも過去シリーズで見たことがなかったようなフレッシュなアイデアをいくつも盛り込んでいた。その中で、特にお気に入りで大きく言われていなさそうなものを一つ挙げる。

まず前提として、このシリーズはエイリアンの造形をはじめ様々なところに性的なモチーフをデザインとして組み込んでいる。その禍々しさと美しさが最大の魅力で、物語もそのような解釈ができるように作られている。

本作はエイリアンシリーズを知らない人が見ても大丈夫な間口の広い作品だ。しかし、シリーズを通しても屈指と言って良いほど性的なモチーフを強調した「キモチワルイ」見せ方をしている。

そんなエイリアンが無重力空間で撃ち殺された際に空中に漂わす体液は明らかに精液であり、それを女性主人公が避けて進んでいく。

これだけでも象徴的だが、本作はもう一つアイデアを見せる。

それはクライマックス、主人公とエイリアンの一対一での戦いの中にある。貨物庫に落ちた主人公は、付近に落ちていたエッグチェンバーのようなものをひっくり返し、こぼれた酸の体液によって貨物に穴をあけエイリアンを宇宙の彼方へ放り出そうとしたのである。これは即ち「告発」され地位や名誉や名声を自らの愚行によって失っていく哀れなるクソ男たちのメタファーではないか。エイリアンは自らが出した体液によって負ける。

今までずっとエイリアンをレイピストとして描いていた。しかし、倒す方法に性的な意味は付与されていなかった。本作はそこにこそ意味を込めた。テメェの出した精液の始末をテメェでさせて終わらせたのだ。これ以上ない素晴らしい勝利だったと思う。


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