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トマス・クランマーの生涯 はじめに(4)

(3)の続き

 本文の中でしつこく繰り返されるある用語の使い方は、一部の読者には奇妙に感じるかもしれない。‘プロテスタント'や‘ルター派’のような、イングランド宗教改革の初期段階で問題となる用語を除いて、私は今日の多くのチューダー朝研究者と同様、1520年代から1530年代にかけて、イングランドで展開された宗教改革主義を‘福音主義(evangelical)という言葉で表現している。‘プロテスタント'という用語がイングランドで定着したのは、1553年以降のメアリー1世の治世になってからである。‘ルター派’という用語は、ヘンリー8世のイングランドにおける宗教改革者の見解の出所を許容できないほど狭めている。どちらの用語も中世からの伝統的な教会およびその前提となっているものに対する数多くの個々による反抗(しばしば混乱をもたらしたが、一過性のものもあった)の中での人々の見解を、過度に狙い通りに表現しているものである。福音主義とは、キリスト教が自らのあり方を確認するための主要な点に、‘良き知らせ’である福音(the Evangelion)、または一般的に聖書のテキストを置く宗教観のことである。なぜなら、福音主義という用語は、大陸の急進主義に向かって進んだごく少数のイングランドの宗教的反対者を除いては、全般的に適用できる、曖昧でありつつも包括的な用語なのである。19世紀の福音主義という用語は、英語圏でプロテスタント主義および英国聖公会の中での党派を表す言葉として用いられたが、チューダー朝イングランドの宗教史に有益な役割を果たすために再び自由に用いられ得るものである。

【続く】


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