心肺蘇生について

〈救命では誰もが当事者〉
こんにちは。お絵かきが趣味の医師、とくみず めいです。

先日、結婚式帰りに救急救命した経験談を寄稿させていただきました。その記事をきっかけに救急救命に興味を持ってくださった方もいらっしゃったようで、「自分も誰かがピンチのときは助けたい」といった感想もいただきました。
人が倒れている、死ぬかもしれない。そんな状況下では誰もが動揺します。そんなときに自分の気持ちを支えてくれるのは、事前のシミュレーションだと思います。
緊張状態では人の判断力は低下しますし、現場では色んなトラブルも起こります。想定外のトラブルが起こってから初めてその対処を考えるのではなく、「こういうことが起こったときはこうしよう」と事前に想定し、頭の片隅に残しておくことが現場での冷静な対応に繋がります。
救命は時間との戦いです。心肺停止状態では一分が人の生死を左右すると言っても過言ではありません。しかしその現場にプロの医療従事者がいるとは限りません。ここでは救命方法について基礎から現場でつまずきそうな細かいところまで紹介していきたいと思います。
皆さんが当事者としてこの記事を読んでいただけたらと思います。

〈全体の流れ〉
救急救命の全体は
1. 周囲の状況の確認と安全な場所への移動
2. 患者の状態を確認
3. 人を呼ぶ、AED手配、119通報
4. 呼吸の確認
5. 胸骨圧迫
6. AEDが到着したら装着する
7. 救急車が到着したら引き継ぎ
という流れになります。最近の大きな変更点としては人工呼吸がなくなったことが挙げられます。人工呼吸は確かに大切なのですが、人工呼吸の心理的なハードルの高さから救命自体をやめてしまう人が以前は少なくなかったのでこの項目が外れました。ただ子供の場合は人工呼吸がとても大切だったりもするので後の項目で一応紹介させていただきます。

<1.周囲の状況の確認と安全な場所への移動>

 まず人が倒れているのを確認したら、周囲の安全を確認して自分の安全も確認しつつ安全に処置が行える場所への移動を検討しましょう。どれだけ大切な人が倒れていたとしてもこの手順は欠かしてはいけません。救急の現場で一番大切なことは2次被害を出さないことです。
ま少し発展的な話になりますが、例えば階段の途中などの平らな床がないところで人が倒れて意識を無くしている場合も救急車やAEDを手配した上で移動させたほうがいいです。心臓マッサージは平らな床と救助者の体重で心臓を挟んで行うからです。また雨の日も雨の程度や周囲の状況にもよりますが移動を検討したほうがいいことがあります。雨は体温を奪ったり、AEDパットが貼り付けにくくなったり、除細動の電気が体の表面を流れて適切に作動しないことがあるからです。ただ移動先が遠かったり人手が足りなかったり移動に時間がかかりそうなら傘で濡れるのを防いだり、タオルで体を拭いたりしたほうが早いことも多いです。

〈2.患者の状態を確認〉
次に「大丈夫ですか?」と普通に声をかけます。疎通ができればとりあえず安心なのですが、反応がない場合は肩を叩きながら耳元で大声で呼びかけます。普段することのない大声での呼びかけはちょっと勇気が要るかもしれませんが、命に関わることなので恥ずかしがらずにやってみていただければと思います。

〈3.人を呼ぶ、AED手配、119通報〉
周りに誰も人がいない場合は大声で「誰か!来てください!」と呼びかけてください。そして人がいる場合は一人を指名して「そこの赤い服を着た人、AED手配をお願いします」等の声掛けでAEDを手配、119へ通報をすると教科書にはよく書いてありますが、私が実際に街中で救命したときは「OOの手配は済んでますよね?」と周りの人に声をかけまくって色んな人に何回も確認してもらいました。実は手配できていなかったという事態だけは避けたかったからです。
また少し発展的な話をすると、周囲に人がおらずAEDも近くにない場合、その場を離れてAEDを取りに行くのはやめた方がいいです。そういう場合はスマホで119を押して救急隊とハンズフリーで会話しながら救命措置を始めてください。そうすれば救急隊の人が次にどうしたらいいのか教えてくれる(一人のとき心強い!)上にAEDは救急隊が持ってきてくれます。

〈4.呼吸の確認〉
腹や胸が上下しているかを見ます。そして呼吸していない、変な呼吸である、10秒以内にわからない、の3つのケースのいずれかに当てはまった場合は呼吸していないと判断して胸骨圧迫を開始して大丈夫です。
以下は発展的で複雑な内容なので読み飛ばしても大丈夫ですが、人工呼吸については、通常はしなくてもいいのですが、人手があってやれそうなときはトライしてみてもいいです。人工呼吸2回に対して胸骨圧迫30回の割合で行います。まず頭部を後ろに曲げて顎先をあげ、気道を確保します。次に親指と人差指で鼻をつまみ口を大きく開けて患者さんの口をすべて塞ぎます。そして目は患者さんの胸を見ながら胸が上がるぐらいの空気を入れます。入れ終わったら口を離して患者さんが吐く息を頬で感じます。これを2回繰り返します。また子供の場合は胸骨圧迫15:人工呼吸2程度の割合が理想です。
ちなみにうまく空気が入らないときは気道確保がうまくいってない場合と、気道内に異物があるケースがあります。

〈5.胸骨圧迫〉
胸の真ん中を5cm以上沈み込むように押してから完全に力を抜いて戻すのを繰り返します。リズムはアンパンマンのマーチです。脳内で歌いながらやりましょう。
手は片手の甲にもう一つの手を重ねて腕を伸ばして体全体を使ってやるとバテにくいですが、とにかく絶え間ない胸骨圧迫をし続けることが何よりも大事なので、周りの人に協力してもらいながらやりましょう。
また冒頭でも書いたように背部は硬い床であることも大事です。胸骨圧迫だけで意識が戻ることもあるので、患者さんの声や動きが出ていないか状態もチェックしましょう。

〈6.AEDの使用〉
AEDは開けると電源が入って喋り始めるのでその指示に従って操作してください。電気ショックが必要かどうかはAEDが判断してくれるのですが、実際使ってみた感想としては人が多いときは周りの人の声にホントかき消されてしまいます・・・。周りの人は静かにするよう伝えたら意外と静かにしていただけるのですが、患者さんの家族の方がパニックになっているケースもあります。ご家族の心境を考えると「静かに」とだけ告げるのもすごく気がひける一方で、処置に集中しなければならないため、救助者として板挟みでした。だから人が多いときは誰かがつきっきりで家族さんの話を聞いてあげてほしいなと思いました。
またAEDについては貼り方トラブルシューティングを作成しましたので画像の方も参考にしてください。

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〈最後に〉
以上大まかな救命の流れと注意点をまとめました。細かいことも多く、完璧に出来ないかもしれませんが、それで大丈夫です。倒れている人を見かけたときに一番大事なことは無視しないことです。怖くて不安かもしれませんが、意識を失った方のその後の人生は心臓が止まった最初の数分間に何をされたかでほとんど決まってしまいます。どれだけ手順を間違えても救命措置に参加しないこと、脳に酸素が送られないまま放置し続けることよりも悪いことはありません。救命措置を行ったというだけで、結果の如何に関わらず救命上の最善を尽くしたといえます。だからぜひ勇気を出して救命に参加していただきたいと思います。この文章が誰かの命を救う助けとなれば私にとってこれほど嬉しいことはありません。

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