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『ジャパニーズゴブリン』という「砕月アレンジ」「白上フブキ」「Unwelcome School」の要素を持つ曲がTikTokで流行っていたので徹底的に調べたら、さらにいろいろな要素が関わっていた話

※「長い!!簡単にまとめたやつくれ!!!」と言う人は目次から『まとめ画像』に飛んでください

 「東方の砕月アレンジ」と「Vtuberの白上フブキ」と「ブルアカのUnwelcome School」の3要素を持つ曲が2022年9月あたりからTikTokで流行していたという。まずはTikTokにおける流行の火付け役を見てみよう。

 TikTokのアプリの最大の特徴として他の動画の音声を引用して動画編集する機能があり、それによってこの曲を利用した動画が増えていった。

この音声の持つ要素を分けていこう。

  • 東方アレンジ『砕月 (ココ&さつき が てんこもり's 作業妨害Remix)』の歌詞

  • ホロライブのVTuber「白上フブキ」の歌

  • ブルーアーカイブの曲『Unwelcome School』

 これらの曲がどのようにして混ざっていったのか、その過程でどのような要素が関わっていったか調べて分かった範囲で説明していくのがこの記事である。

『砕月 (ココ&さつき が てんこもり's 作業妨害Remix)』 について

東方Projectと東方アレンジ

 『砕月 (ココ&さつき が てんこもり's 作業妨害Remix)』の話が一番長くなるのでこの曲から説明する。この曲は東方アレンジに分類されていてまず東方について話をしていこう。

 『東方Project』は同人サークル「上海アリス幻樂団」の主催「ZUN」氏が中心として制作している、ゲームや書籍などの作品群のことである。ゲームであれば同人ショップやSteam、書籍であれば一部の書店で買うことが出来る。
 東方Projectの魅力には 特徴的な音源と印象的なメロディの音楽、巫女/魔法使い/妖怪/神様など多様な種族のキャラクター、難しくも美しい弾幕STG、日本の文化や景観が現代化せずに残る幻想郷という世界観などがある。

 中心として、と付け加えたのは大半の東方Projectのゲームは 音楽/システム/キャラクター/絵/ストーリー をZUN氏のみで作っているが、一部のゲームや書籍において音楽/システム/絵などを別の同人サークルや別の作画担当と共同制作していることがあるからだ。

 そういった共同制作のゲームの一つ『東方萃夢想』は同人サークル「黄昏フロンティア」と協力して作った最初のゲームで頒布は2004年12月。そのBGMに「あきやまうに」氏が作曲した曲『砕月』があり、この曲は東方Projectの中でも人気の楽曲の一つだ。

 東方Projectの曲の半数は東方Projectに登場するキャラクターのテーマ曲で、その曲名や曲調はキャラクター性と結びつけられていることが多い。
東方萃夢想では『砕月』は「伊吹萃香」という種族が鬼のキャラクターの登場シーンでよく流れている曲だが、後の東方緋想天では砕月のセルフアレンジバージョンが「伊吹萃香のテーマ曲」として扱われるようになる。

 そして東方Projectには非常に多くの二次創作が存在する。その二次創作は「東方~」のようなジャンル名や作品名を持つことがあり、『東方』という言葉を「東方Projectの原作やその二次創作、あるいは文化やコミュニティの総称」という意味で扱うことも多い。
 原作者は二次創作を好意的に受け入れており、二次創作のガイドラインを出している。東方原作のゲームや書籍で共同制作している同人サークルや作画担当も東方二次創作をしていることも多い。

 その中に東方アレンジと言うジャンルがある。
 東方Projectの楽曲を原曲としてアレンジした曲のことで、非常に多様なアレンジが存在する。原曲に忠実なアレンジ、原曲から大幅に変えたアレンジ、複数の原曲を混ぜたアレンジ、アレンジしたうえで歌もつけたヴォーカルアレンジ などがある。有名な東方アレンジには『Bad Apple!! feat.nomico』『ナイト・オブ・ナイツ』などがあるが、人気の『砕月』にも数多くのアレンジが存在する。

そしてここでようやく出てくるのが『砕月』のアレンジの一つ、『砕月 (ココ&さつき が てんこもり's 作業妨害Remix)』である。
 同人サークル「あすとらるTrip」が2009年8月に頒布した東方Project二次創作ドラマCD『幻想郷ミソギバライ』に収録されている東方アレンジで、編曲&作曲(&作詞?)は「さつき が てんこもり」氏、歌っているのは「ココ」氏だ。
ショート版は公式サイトでダウンロードできる。(Disc2 Track04)

 英語でありながら日本語的な発音と特徴的なアニメ声で歌う「うぃーあーざじゃぱにーずごぶりん!」は種族が鬼である伊吹萃香が歌っているとした歌詞であり、いわゆる電波曲と分類される曲の特徴の一つだ。
 電波曲は”作業するために曲を流すと作業ができないほど印象が強い、中毒性が高い"として良い意味で「作業妨害」と形容することがあり、このアレンジ名の作業妨害Remixもそこから来ていると考えられる。
 この曲のように、東方アレンジは原曲のテーマとなっているキャラクターがいるため、そのキャラクターをモチーフとした歌詞やそのキャラクター自身が歌っているとした歌詞の曲は多い。

 同人CDとして頒布された当時の評価がどうだったのか、というのは2009年なので調べるのが難しいが、過去ツイートニコニコ動画の転載動画の過去ログが参考になるかもしれない。

 ここで要素となる曲の一つは出たわけだが、現在の流行に至るまでこの曲は何段階か派生していくことになる。

ニコニコ動画と東方アレンジPVリンク

 東方二次創作が多く作られている場所の一つに動画サイト「ニコニコ動画」がある。
 その中に「東方アレンジPVリンク」とタグ付けされた動画ジャンルがある。東方アレンジに映像をつけてPVやMVなどの動画にしたジャンルだ。その中には同人サークルが作る東方アレンジに第三者が映像をつけたものがある。これは同人音楽サークルの東方アレンジの多くがCDという形態で頒布されていて映像がついていないためだ。映像の内容はその原曲をテーマとする東方キャラクターが登場するものが多い。有名なものには東方アレンジ『Bad Apple!! feat.nomico』に映像をつけた『【東方】Bad Apple!! PV【影絵】』がある。

 そして『砕月 (ココ&さつき が てんこもり's 作業妨害Remix)』を使った東方アレンジPV2011年11月に投稿される。

 この動画は「Dance×Mixer」というツールが使われている。

 このツールは2009年6月に発売された3DCG動画制作ツールで、好きな音楽に合わせて3DCGキャラクターを踊らせてダンスPV風の動画を作ることができる。ダウンロードコンテンツによって「初音ミク」や「GUMI」が使えたり、アップデートによってユーザーの作ったモデルが一部使用できたりする。そして色々な既存キャラクターを再現した動画が作られた。ニコニコ動画で人気だった東方キャラクターも再現され、この動画の伊吹萃香も再現されたものである。

 この動画はニコニコ動画の東方カテゴリで人気であったとともに、ニコニコ動画の24時間リクエスト生放送サービス「Nsen」のch02東方チャンネルでも人気で、そこで何度もリクエストされて再生数を伸ばしていった動画の一つである。

 この曲が2022年に流行することになるのは、派生動画が約10年の月日を経て投稿されたことによる。

MikuMikuDanceと東方

 先ほどのDance×Mixerを使った動画から派生した、他ユーザーによるMMDでのリメイク作品がおよそ10年後の2021年11月に投稿される。

 この動画のサムネイルのキャラクターデザインを見て一部の人は察することがあるかもしれないが、その察しは部分的に正しく部分的に間違っていることは後で説明する。

 この動画は「MikuMikuDance(略称MMD)」というツールが使われている。MMDは2008年2月に公開された無料の3DCG動画制作ツールで、その名の通り「初音ミク」を躍らせるツールとして開発された。同梱されているのは初音ミクなどの3DCGモデルだが、他のモデラー(3DCGモデルを作る人)が作ったMMD用のファイル形式の3DCGモデル(MMDモデル)も使えるということで、多くのモデラーがMMDモデルを配布すると同時に、多くのMMDユーザーがその配布MMDモデルを借りて動画を製作しているツールである。

 MMDはニコニコ動画で生まれ広まっていったツールなので、ニコニコ動画で多くの二次創作が作られている東方と必然的に交わり、東方MMDという動画ジャンル、様々な東方MMDモデル、そして特殊な文化を作っていった。

 MMDモデルはキャラクターの種類を増やす方向に進むとともに、すでに配布モデルがある同じキャラクターでデザイン/キャラ付け/機能 が異なるMMDモデルが増える方向にも進んでいった。特に初音ミクのMMDモデルは把握できないほど多い。

 そこで生じた特性が「特定のMMDモデルへのキャラ付けの共有」である。全く別のユーザーの作品でも同じモデラーによる同じデザインのMMDモデルが登場するのがMMDを使用した作品の特徴である。そこで印象的な作品が出てくるとその作品と同じキャラ付けがMMDモデル自体に与えられ、別ユーザーの作品でも同じキャラ付けとして扱われたりすることがある。
 自分の作品なのに他人のキャラ付けの扱いをされるのを嫌うMMDユーザーもいるが、このキャラ付けを自分の動画に取り入れるMMDユーザーもいるため基本的にはそのキャラ付けの動画が増えて固定化される方向に進みやすい。
 これは二次創作のコミュニティで特定のキャラクターに二次設定が定着する現象とも似ているが、MMDモデルはキャラクターだけでなくデザインも同じであることで、キャラ付けの共有がされやすかった。

 そこで上記の動画に登場するMMDモデルの説明になるのだが、このMMDモデルのキャラクターデザインは極めて特殊な文脈とキャラ付けがあり、「東方キャラの伊吹萃香」とは区別して扱われることもある。
この事情は東方のコミュニティにおいて長きにわたって半ばタブー化している話なので、詳細はニコニコ大百科に任せることにする。

 しかしこの動画ではこのMMDモデルがまわりまわって「東方キャラの伊吹萃香」として扱われているのだという。その理由はこの動画がTouhouMMDであるからだ。

TouhouMMDと文脈の消失

 改めて先ほどの動画を見てみよう。

 この動画タイトルが日本語の『【東方】裸足Dの砕月 作業妨害ver DxM3DPVダンスをMMDでリメイクしてみた』になっているかもしれないが、YouTubeの言語設定を変えると英語の『WE ARE JAPANESE GOBLIN [MMD]』になっている。投稿者がYouTubeの言語設定に合わせてタイトルを変える設定にしているためだ。元の動画タイトルと動画説明文が英語であることや動画説明文で日本語が得意でないと書いていることから、この投稿者は海外のMMDユーザーと思われる。実はこれがこの流行に影響を与えている。

 MMDは日本語圏のニコニコ動画から広まったが、多様なMMDモデルやクオリティの高い動画が製作される中で海外のユーザーも増えていった。
 しかしMMDモデルに関する注意事項が日本語であったり、文脈やキャラ付けが共有されているコミュニティが日本語圏であったりして、それらを知らないユーザーや動画が海外のコミュニティで出てくることが起こった。

 この動画ではこのMMDモデルの持っていた文脈やキャラ付けを消失させる方向へと働き、投稿者はこの動画を「Ibuki Suika」の「TouhouMMD」として投稿していて、多くの視聴者も同じ認識をしているようだ。
 そういった認識であることは、YouTubeの海外圏での2022年に流行した東方動画のまとめ動画のサムネイルの中央にいることからうかがえる。

 一方でこの動画が海外圏の動画であることと、このMMDモデルのキャラクターデザインの持つ特殊な文脈を知っている人が多かったことにより、日本語圏の東方コミュニティやニコニコ動画の東方コミュニティで触れることが難しく話題に上がりづらかったのかもしれない。

 この動画は海外のYouTubeユーザーの間で人気になり「JAPANESE GOBLIN」というインターネットミームを広げていくことになる。

JAPANESE GOBLINと海外のインターネットミーム

 いったんインターネットミームについて説明しよう。「ミーム」は「模倣」という意味であり、「インターネットミーム」とは「インターネットを通して模倣されていく物事」という意味であり、日本語では「ネットミーム」や「ミーム」と略されることもある。しかし少し聞き慣れないカタカナ語であるため、日本語では同義ではないが部分的に要素が重なっていて分かりやすい単語である「流行」「ネタ」「ブーム」などの言葉で代替されていることも多い。(私個人の中では英語圏発祥のカタカナ語であるミームは海外発祥のもの、日本語である流行は日本発祥のものという使い分けのイメージが勝手に持っている)
 海外の動画系インターネットミームでは使われる手法がある程度決まっており、例えば曲を変える/音割れさせる/別の映像に切り替える/別の映像に合成する/曲を合成してマッシュアップなどだ。 

  YouTubeの海外ユーザーの間では『砕月 (ココ&さつき が てんこもり's 作業妨害Remix)』の曲自体はこのMMDリメイクより前にいくつか派生動画があり「JAPANESE GOBLIN」という海外ミームを作っていたが、MMDリメイクによってこの海外ミームはさらに広がり派生動画数と知名度を大きく伸ばした。海外のインターネットミームをまとめたサイトであるKnow Your Memeの記事には海外での流行の詳細がある。下の動画は派生動画の一部をまとめた動画である。

 派生動画の中には曲のボーカル音声のみ抽出して他の曲に合わせるマッシュアップという手法を使っているものがあるが、冒頭のTikTokの動画の曲も同じマッシュアップという手法である。

 ここにきてようやく『砕月 (ココ&さつき が てんこもり's 作業妨害Remix)』のマッシュアップという土台が見えてきた。
次はブルーアーカイブの『Unwelcome School』とどう繋がるか見ていく。


Unwelcome Schoolについて

ブルーアーカイブと二次創作

 『ブルーアーカイブ(略称ブルアカ)』2021年2月にリリースされた「NEXON Games」が開発し「Yostar」が運営しているスマートフォン向けのゲームアプリである。

 公式は「学園×青春×物語RPG」というコンセプトや「透き通るような世界観で送る学園RPG」というキャッチコピーを出している。
 ブルアカの魅力には 多種多様で癖(クセ/ヘキ)の強いキャラクター、キャラクターの魅力を引き立てるイラストや3DSDモデル、重火器を扱う生徒が集う学園都市キヴォトスを中心とした世界観、感情を揺さぶるストーリー展開、学園モノならではの友情と青春のドラマ、爽快かつノリノリなエレクトロ系の音楽などがある。

 ブルアカもまた多くの二次創作が存在している。
 ブルアカを運営しているYostar自体が二次創作を好意的に受け入れており、二次創作のガイドラインを出している。ときには二次創作しているイラストレーターに公式絵を依頼することもある。

 2021年時点でも二次創作イラストなどが多く存在していたが、2022年は二次創作動画の流行が顕著であった。
 ニコニコ動画でのブルアカの音MADは2021年も存在していたが、2022年は特定の動画が再生数を伸ばしそこから派生する形で同じ を使った音MAD群の流行があった。また下ネタなので閲覧注意だが2022年8月あたりから流行したブルアカを題材とした声真似シリーズやそのMADなどがある。

Unwelcome Schoolを使った動画

 しかし最も増えたのはBGM『Unwelcome School』を使った動画だろう。
 ブルアカのストーリーで主にギャグシーンで流れるこの曲はコミカルながらもノリノリな曲調で人気が高い。ゲーム内で使われる状況の印象から作曲者の「ミツキヨ」氏は「陸八魔アルが登場するときよく出てる魔法のBGM」とツイートしている。
 下の動画の後半で流れている曲が『Unwelcome School』であり、「陸八魔アル」はサムネイルのキャラクターである。よく白目をむいている。

 『Unwelcome School』を使った動画の日本語圏での流行を見てみよう。

 2021年3月ニコニコ動画では『Unwelcome School』を使った音MAD初投稿され、特に再生数の多い『ノリノリターボ』「ノリノリ○○シリーズ」タグで多くの動画に派生し、そのシリーズの中で帝京平成大学のCMをネタにした『ノリノリチョッパー』「University Schoolシリーズ」タグで多くの動画に派生した。前者はウマ娘人気と関連して再生数を伸ばし、後者は2022年11月に投稿された『テイキョウ・ヘイセィ・ダイガク』によって起きた帝京平成大学ネタの流行の影響を受けて投稿日時と時間差をつけて再生数と派生動画を増やしていった。

 さらに2018年11月のインスタグラムの海外圏のミーム「Let's Go Meme」と合わせた動画が2022年7月にTwitter/ニコニコ動画/YouTubeで投稿され非常に多く再生された。さらに「Unwelcome School」の作曲者であるミツキヨ氏はそれを受けてリアレンジである『unwelcome school 2022edit』を2022年8月にTwitterに投稿した。その前日には曲調が似てると言われていた「t+pazolite」氏がアレンジを投稿している。「Let's Go Meme」の動画や『Unwelcome School』のアレンジはそれ以前に既にあったが、この出来事を受けてさらに増加した。

 そして2023年に入ってもなおこの曲は新たな派生動画や流行を生み出したりしている。

 しかしここまでは私が日本語圏で見てきた話。海外ではブルーアーカイブはどういう状況だったのか。

グローバル版ブルーアーカイブと海外ミーム

 ブルーアーカイブのグローバル版リリースは2021年11月で、実はMMDリメイクのJAPANESE GOBLINと同じ月だ。

 ブルアカは海外でも二次創作があり、先述の2022年8月の出来事以前のUnwelcome Schoolアレンジの一部は海外勢による動画である。
 グローバル版Blue ArchiveのYoutube公式アカウントではゲーム内楽曲の1時間動画DJリミックスの動画などで音楽方面で積極的に宣伝しており、それが海外でのブルアカの音楽人気に繋がっていたのかもしれない。

 日本語圏と同様に「Unwelcome School」も人気で海外ミームとして派生動画がある。他のブルアカ関連の海外ミームには、2022年3月のTiktok発の海外圏のミーム「California Gurls」に合わせて踊るムツキのMMD動画が2022年9月に投稿されて派生動画を作ったことなどがある。

 2021年11月という同時期に海外で知名度を上げ派生動画を増やしていった「JAPANESE GOBLIN」と「Unwelcome School」がついに出会うことになる。

 上記の動画はどちらも2022年3月で少しだけ投稿日が違う。ただしわずかに音源が異なるため転載ではないようだ。流行している2曲をマッシュアップする発想が被っても不思議ではないので、いわゆるネタ被りだと思われる。ちなみにブルアカの他の曲と合わせた もいくつか投稿されている。

 そしてここまでのブルアカの海外ミームの流れは、日本語圏のブルアカ関連MADとは別にそれぞれ派生動画を増やしていっている。
 つまりUnwelcome Schoolを使った以下3つの派生動画の流れは交わっていないと思われる。

  • ニコニコ動画で音MADの曲素材として使われた「ノリノリ○○シリーズ」や「University Schoolシリーズ」

  • YouTubeでの海外ミーム系動画

  • 各所での「Let's Go Meme」を元にしたアレンジや音MAD

 全く異なる流行に進化した「Unwelcome School」だが、流行したサイトもまたYouTube/ニコニコ動画/Twitter/TikTokと全く異なる。もともと持っていた曲の良さから色々なサイトに広まったこの曲はそのサイトの特性に合わせた全く異なる流行に進化していったため、多様で多発的流行を起こしていったと考えられる。

 それではあと1つの要素『砕月 (ココ&さつき が てんこもり's 作業妨害Remix)』を歌っている白上フブキについて説明しよう。


白上フブキの歌について

VTuberと二次創作

 VTuberとは「バーチャルYouTuber」の略称である。「YouTuber」はYouTubeでの動画投稿や配信で広告収入を得ている人もしくはそれを職業とする人であり、扱う内容はさまざまである。そこに「バーチャル」という言葉をつけた「VTuber」とは動画投稿や配信をする架空のキャラクターによるYouTuberのことである。

 架空のキャラクターとは言ったものの、企画/ゲーム実況/雑談/SNS/歌/ライブなど現実の人間が行う様々なエンターテインメント活動をする点では架空とも言い切れない部分があり、これらは漫画やゲームのキャラクターのような現実とは異なる物語や世界に存在するという意味の架空のキャラクターとは大きく異なる部分である。
 ただし全てのVTuberが上記の特徴を持つわけではなく、YouTube以外にも活動場所を持つVTuberや、既存の漫画やゲームやアニメのメディア展開の一つとして作中のキャラクターによるVTuberなど、”動画投稿や配信をする架空のキャラクターによるYouTuber”という定義では括れないほど多様なVTuberが存在する。

 VTuberを扱う二次創作も多く存在する。
 中には二次創作用のハッシュタグなどを用意して二次創作を作りやすくしたり、二次創作を紹介したりして好意的に受け入れているVTuberもいる。
 VTuber関連の派生動画で特徴的な動画ジャンルが「切り抜き動画」である。これはVTuberの動画や配信の中で見どころであるシーンやお気に入りのシーンをカットしたり字幕をつけたりして再編集でまとめた動画である。基本的にVTuber本人と関係ない第三者が投稿した動画が多いが、VTuber本人が作った切り抜き動画もある。投稿される動画サイトもYouTubeに限らず、ニコニコ動画やTwitterやTikTokに投稿されることがある。
 切り抜き動画はさらに派生してイラストや手書き動画やMADが作られることや、切り抜き動画とその派生作品群がVTuberを知るきっかけになることなどがあり、VTuber本人の動画や配信と並んで大きな影響力を持つこともある。

 VTuberという言葉の初出は、2016年12月に「キズナアイ」が初投稿した動画内の「バーチャルYouTuber」という言葉だと言われている。似た活動はそれ以前にもいくつか例があったが、キズナアイとその活動が人気になっていく中で似た活動を始める存在が増えていき、VTuberは数を増やしていった。
 VTuberが増加していく中で、グループでデビューするVTuberも多くいた。この記事で説明する「白上フブキ」氏はVTuberグループ「ホロライブ」に所属するVTuberである。

ホロライブの白上フブキと東方

 ホロライブ所属のVtuberの中で白上フブキ氏と宝鐘マリン氏は東方が好きだと公言していて、それぞれニコニコ動画で東方動画を見ていたことを話したり、東方原作をプレイするゲーム配信したりしたことがある。縁あって東方Projectの原作者ZUN氏と生放送で共演したり、東方関連メディアである東方我楽多叢紙でインタビューが掲載されたり、東方二次創作同人サークルの協力で東方二次創作を出したりもした。

そんな東方好きVTuberの白上フブキ氏は2020年4月に以下の動画をTwitterに投稿した。

 ツイート本文にある通り、先述した『砕月 (ココ&さつき が てんこもり's 作業妨害Remix)』を歌った動画である。このアレンジを知った経緯が同人なのかニコニコ動画なのか、この動画を投稿した経緯は何なのかは確定情報が得られなかったが、東方好きであるがゆえの選曲だろう。
 また、Twitterで検索すると2019年10月時点で”『砕月 (ココ&さつき が てんこもり's 作業妨害Remix)』をアカペラで歌っていた”というツイートがあるため、この動画で最初に歌ったというわけではない可能性もある。(詳細を知っている人がいたら教えてください)


JAPANESE GOBLIN × Unwelcome School × 白上フブキ

最初の動画はYouTube

 VTuberのファンは海外にも多く存在し、先ほどの白上フブキ氏のツイートのリプライにも英語のアカウントがある。海外でミームとなっていた「JAPANESE GOBLIN」と「Unwelcome School」、そしてそのマッシュアップが海外のYouTubeユーザーによって投稿される中で「白上フブキ」氏が歌ったものをマッシュアップする動画が2022年3月にYouTubeで投稿された。

 この動画は現段階で7万再生あたりで多く再生されているものの、YouTubeでは色々な動画に派生するには至ってない。(ちなみに同じ曲のマッシュアップだがタイミングを少し変えた別投稿者による動画が2022年5月に投稿されている)

 ということで、『砕月 (ココ&さつき が てんこもり's 作業妨害Remix)』と『白上フブキ』と『Unwelcome School』の3要素を持つ動画は2022年3月にYouTubeに最初に投稿されたのである。

TikTokへの派生…?

 ということで先ほどのYouTubeの動画の曲に「れいるか」氏が描いた白上フブキ氏の絵を合わせたのが、TikTokで2022年9月に投稿されたこの動画である…と言いたいところだが実はそうではない可能性がある。
 YouTubeの動画の音源とTikTokの動画の音源が完全に一致しないのである。つまりTikTokの動画はマッシュアップを作り直している可能性が高い。この2つの動画の関係として考えられるのは次の2つである。

  • たまたまアイデアが被った

  • アイデアを借りて音源を作り直した

正直に言うとこれについては確定情報が無いので確かめる方法が無い。

そしてこのTikTokの動画の影響か分からないが、数日後には別投稿者がTikTokとYouTubeに次の動画を投稿している。この動画もまた、これまでの動画とは音源が異なる。

 この動画はYouTubeに投稿された同じマッシュアップ動画の中で再生数が最も多く、コメント欄には本家と思っている人もいる。しかしこの記事でここまで書いた通り、同じマッシュアップの中で最初の動画ではない。さらに動画タイトルにはフルと書いてあるが「Unwelcome School」の後半パートが無いためフルでもない。
 同じマッシュアップの動画の最初の投稿から日本語圏と海外圏やYouTubeとTiktokを飛び越えていること、元ネタが複数あること、さらに音源も異なり派生かどうかも分からないことで、元ネタが把握しづらく本家やフルと認識されていると思われる。

 TikTokの大きな特徴として、スマホアプリには動画編集機能が付いていて カット/エフェクト/字幕表示/字幕読み上げなどができて、さらにTikTokに投稿されている他動画から音声の保存や引用ができる。これにより、スマホさえあれば動画を撮って音声を引用して編集して投稿という派生動画をその場ですぐに作ることができる。TikTokの流行の速さもこの特徴による部分が大きい。
 この2動画の曲を引用した派生動画には曲に別の映像を合わせたものもあれば、『Unwelcome School』に合わせて『砕月 (ココ&さつき が てんこもり's 作業妨害Remix)』を歌うという歌ってみた動画なども存在する。動画やコメントを見ると、元が東方であることを知らない人もいれば、元は東方であると指摘するコメントや動画もあり、知らない人ばかりではない。

予想以上に複雑だった「ジャパニーズゴブリン」

 東方/白上フブキ/ブルアカの3要素を持つ動画であることはある程度調べれば出てくることであり、そのように説明した解説動画もあるためそこまでなら知っている人は存在する。私も最初はその程度の話だと思っていた。
 しかしよく調べていくと、東方/ブルアカ/白上フブキの3要素だけでなく

  • 音楽/アレンジ/動画/Dance&Mixer/MikuMikuDance/マッシュアップ/歌ってみた といった異なる作品形態

  • 同人/ニコニコ動画/YouTube/Twitter/TikTokといった異なる作品発表場所

  • 日本語圏/海外圏といった異なる言語圏

様々な境界を飛び越えて、様々な要素と関わりながら、派生していった先にある動画であった。(一部は本当に派生した関係なのか不明なところはあるが) 


まとめ画像

派生の流れを2枚の画像にまとめた。(拡大推奨)

この画像は転載して構わないが、できればこの記事とともに共有して詳細が見れるようしてもらえればうれしい。


あとがき

私の持論とか入っているから別に読まなくてもいいです。

「元ネタを理解する」とは

 私が書いたこの記事以外にも、このTikTokでの流行を解説した動画などはいくつかある。しかし元ネタとなっている要素を並べてこれがTikTokで流行ってた、という説明のものが多い。この流行の前にYouTubeでの海外のインターネットミーム「JAPANESE GOBLIN」を経由していた可能性や、ニコニコ動画での東方アレンジPVについて言及してなかった。そしてTikTok内外という線引きだけで語られ、ニコニコとYouTubeの線引きや日本語圏内外の線引きなどを越えて派生したことについて語られてなかった。

 「元ネタを知る」とは構成している要素を分解してそれが何かを知ることが第1段階である。しかしそれは第1段階でしかなく「元ネタを理解する」となると「どういった場所でどういう経緯で派生していったたか」ということが同等またはそれ以上に大事であると調べていて思った。

 「元ネタを理解するなら、今はWikipedia/ニコニコ大百科/ピクシブ百科事典/その他のWiki/解説動画で見れば大丈夫」と思うかもしれない。
 しかし上記の方法は書いた人がどこまで調べてどこまで知っている人なのか分からない。中には経緯の説明が無く元ネタの要素を並べただけのものもある。さらに最悪の場合には間違っていることもある。またよく知っている人がいたとしても大百科系サイトの編集方法が分からなかったり、解説がする手段が無かったり、多くの人に見られる場所に書く責任感が苦手な人もいるかもしれない。
 あえて書くならば、この記事だって一部の派生が不明な点などの不確実性が残っており完全な理解に至っていない。
 ともかく、インターネット上で他人が解説したものは不確実性が常に付きまとう。その不確実性を取り払うまで自分で調べるか、不確実性があると知ったうえで適度に信じるかのどちらかになってしまう。

 もし気になる流行があってその元ネタを本当に理解したいのであれば、いかがでしたブログ/再生数だけで本家と言われている動画/元ネタの要素だけ集めて解説した気になっている解説動画 などで終わるのではなく、できればその構成要素がどういう経緯で繋がるかを不確実性を最大限取り払うまで自分の目で確かめることがベストだと私は思う。

文化の境界線はどこにあるか

 知っている曲がTikTokでよく分からない流行をしていてTikTokは私たちにはよく分からない、という語られ方を見ることがある。
 この記事で調べたことについても、詳細を知らなければTikTok外の動画がTikTokで組み合わされてよく分からない流行をしていたように見える。しかし詳細を知ると日本語圏の動画が海外圏で組み合わされてよく分からない流行をしていてTikTokにも流れ着いたというほうが近い。
 つまり今回の派生の中ではTikTok内外という文化の境界線による影響よりも日本語圏内外という文化の境界線による影響の方が大きいといえるだろう。これをTikTok内外という文化の境界線による影響として対立させるのは誤認であり不毛な対立構造を作りかねないため、詳細を知ることがいかに大事かを実感した。

平成と令和の動画系インターネットミーム

 元号は日本独自の時代の区分けでしかないが、2011年の『【東方3DPV風】砕月 (ココ&さつき が てんこもり's 作業妨害Remix)』までの派生の流れを”平成の動画系インターネットミームの広がり方”に含めるなら、
2020年以降の『WE ARE JAPANESE GOBLIN [MMD]』や『Unwelcome School』の派生の流れは”令和の動画系インターネットミームの広がり方”に含めることが出来るだろう。

同人→ニコニコ動画、日本語圏→海外圏、YouTube→TikTokというようなコミュニティを変えることを転換点として派生の流れが大きく変わるのは平成でも令和でもよくあることだったが、平成に比べて令和は「コミュニティを変える頻度が多い」かつ「速度が上がっている」のが特徴的だ。

 2022年は色々な動画系インターネットミームがあった。その多くは一つのサイトに留まらず色々なサイトに広がりそれぞれのサイトで独自の派生をしていった(例えば、ニコニコ動画発祥で大きな流行を作った動画のいくつかは流行のきっかけが切り抜き動画がTwitterに投稿されたことにあった)。またとても速い速度で次々とインターネットミームが出てきた。この記事で調べた流行ももうすでに昔の流行になっているかもしれない。
 この動画系インターネットミームの広がり方と速度は2023年以降も続くのか、あるいはさらに加速するのか、それともどこかで区切りがついて減速するのか。それは少し楽しくもあり少し怖くもある話である。

自分語り

 私はニコニコ動画で東方二次創作を知った。特に東方アレンジPVリンクは何度も検索し色々な東方アレンジを知った。東方アレンジを追っていくうちにNsenのch02東方チャンネルに通うようになった。Nsenのch02東方チャンネルでは『砕月 (ココ&さつき が てんこもり's 作業妨害Remix)』をはじめとした色々な東方アレンジと同人サークルを知った。同時期にはMikuMikuDanceを触り始め東方MMDの動画を投稿した。今でも東方MMDの動画は投稿していたりする。

 ブルーアーカイブは『ノリノリターボ』からUnwelcome Schoolを知った。「プリンを、二つも食べちゃいます!」の音MADからキャラクターにも興味を持ち始めた。2022年7月にインストールし、クオリティの高いBGMを聴き込んだ。エデン条約編や晄輪大祭の小説は感動した。エデン条約編は対策委員会編を読んだ上で読め。先生Lvはカンストした。ブルアカ2周年のガチャではミカや水着ホシノやイロハやカンナを手に入れてウキウキしている。

 VTuberはニコニコ動画でVTuberの音MADをよく見ていた。ブルアカと同じYostarのゲーム「アズールレーン」ではホロライブコラボで白上フブキを持っている。東方Project原作者のZUN氏と白上フブキ氏と宝鐘マリン氏が共演した東方ステーションは楽しんで見させてもらった。

 この流行に至るまでの経緯を調べるのは非常に複雑で大変であった。それでもここまで詳細に調べることができたのは、私が今まで見てきた色々なコンテンツの要素が関わっていて調べれば調べるほど話が繋がると同時に、私だからこそ説明できる要素が多かったからだと思う。

 予想以上に長くなった記事ですが、最後まで読んでくれた方はありがとうございました&お疲れ様でした。最後は私がお世話になったNsen ch02で使われていた挨拶で締めます。

おつごぶ!

引用元:http://nsench02.blog.fc2.com/blog-entry-1838.html

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