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短編小説「SSSS.DRAMBIA」

ノア「愛、忘れかけていませんか?」

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夢を見た。
ある時突然、体中から力が溢れだして、制御を保てずに暴れだす。
(何らかの怪獣の叫び声)
声にならない叫びが、遠く虚しく響いていく。
力は止まらず、俺は世界を壊していく。
たくさんの人々が俺を見て、恐れをなし一目散に逃げ出している。
待ってくれ。
違うんだ。

俺は…

俺は…

俺は…?

俺は、誰なんだ…?

体から湧いてくる衝動は抑えられず、大地も、火山も、全部自分が飲み込んでいく。

「俺にしか出来ないこと。それが、俺のやるべきこと_」

そんな朦朧とした意識の中、俺は確かにその声を聴いた。

お前は…一体…誰なんだ…

でも…もう何も…俺には…








ノア「太古からの約束、守っていますか?」

目の前に現れた銀色の巨人は、俺に突然そう言い放つと、拳を開き差し出した。
一体全体誰なんだこいつは。

ノア「武器を振りかざす愚かな者たちよ。
        「心、癒すために君の手を貸してくれ。

でも…俺にはもう何も…
止めることは出来ないから…

ノア「誰にでも宿るはず、神秘の力は、心に…
銀の巨人が光り輝く。
「うっ…!これは…?」
光は、俺を包み込み、そして___


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デデデデデン「泣かなァ〜〜~いで!!!!!」ドドドカーン!!!!あーおっかしほっほwんな訳ねえだろおーい!?モヤ~~シ~~~


愛ってなんなんだ…?
もやしってなんなんだ……?
俺の脳は、不快指数MAXの爆音に目を覚まさずにはいられなかった。

俺の名前はサンダーダランビア。
なんてことはない、ただの超合成獣だ。

高校、大学はそこそこの場所に入り、目立った失敗も無く無事に卒業し、スフィア会社に就職し、順調に会社員生活を送る……

……はずだったのだが、会社でミスばかり繰り返し、宇宙の辺境、ド田舎·○和地区の火星に飛ばされた挙句、火星で初任務でもヘマをし、スフィア会社を首になってしまった…

その後紆余曲折あり、怪獣界隈で「ここだけはやめとけ」でお馴染みの、AONグループ(アオングループ) という怪しい会社で、週6日、22時間勤務の時給123円という怪獣労働基準法真っ青のブラックバイトで、節ガス、節電、節水の超節約質素生活と3食もやし生活でなんとか生計を立てている。

そんな俺に朝が訪れ、出勤時間もまた訪れたという訳だ。
ちなみに今の時間は朝2時です。(朝って何????)
俺は毎日の仕事に思わずため息をこぼす。 
しかしながら、ため息をついていても仕方がない。
朝飯を済まし(もやしだけに)、バスに乗り込む支度をしなければ(夜行性怪獣のためにバスは24時間営業である)。

が、俺にとって朝飯は、唯一仕事を忘れて幸福に浸れる至福の時間でもある。

俺は冷蔵庫を開け、大量に備蓄されたもやしの1つを取り出す。
俺はもやし1袋にそれぞれに名前をつけ、可愛がっている。もやしを可愛がる時間は、辛い節約生活の楽しみの1つである。
どこかのイーヴィルとか言う輩はペットを飼っていたらしいが、そんなもの飼わなくてももやしだって十分可愛いじゃないかと思う。おかしいだろイーヴィル。
まあ可愛がるだけに、食べる時はそれなりに悲しくなるが、空腹は最高のスパイスとか言うし、これもスパイスみたいなものだろう。

さて、今朝のもやしは「ハセガワくん」。
ハセガワくん、君も美味しくしてあげるからね!
俺はもやしを皿に移し替え、レンジのボタンを押す。
レンジも古くなってから随分買い替えてないからか、ゴゴゴという嫌な音を立てて動いている。
無論、買い換えるお金なんて無いのだが。

ゴゴゴ…

ゴゴゴ……

ゴゴゴ……

グワアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!


しばらく温める内、レンジの音すらかき消すほどの声でもやしの悲鳴が聞こえてくる。

た、たすけて

しんじゃうよ

嗚呼、ごめんよハセガワくん…僕が生きるためには君たちの命が必要なんだよ……

そんな

だして

たすけて

グワアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!


ゴゴゴ……

ゴゴゴ……

もやしくんの息の根が絶えたようだ。
ここでレンジを止める。
嗚呼、ナムアビダランビア。
命とは儚く、残酷なものだと俺はまた思う。

合掌
サンダーダランビア、

命のありがたみを再確認した上で、敬意を込めてそのまま手で頂く。

いただきますンビア。

……うむ。
程よいシャキシャキ感が口の中に広がる。暖かくて美味い。やっぱり朝はもやしに限る。

まだ午前2時だけど。

……
…………

せっかく忘れていたのに。これから仕事か……
これではまた憂鬱な気分に逆戻りである。 

もやしを食べ終えた俺は、気分を逸らすため、せめてのウルトラテレビを点ける。

ニュース番組の1枠か、優遇怪獣の特集を組んでいるようだ。

ゴルザ特集!!その活躍に迫る!


「ゴルザさん(26)がまたも惑星侵略に成功しました。立て続けに活躍を続けています!」


ぐぬぬ。ムカつくなあ…
同期がテレビに出ているのがなんだか気に食わなくて、チャンネルを変える。

界隈最年長、ゴモラ!未だ活躍衰えず


「ゴモラ(56)氏、またも大阪城破壊。最年長だというのに凄いですね!」

ううう…、またも圧倒的劣等感……!
俺はたまらなくなってチャンネルを変える。

【AONグループ、営業停止】社員からの告発か


……ん?

「速報です。怪獣労働基準法に告発があり、AONグループが営業停止処分となりました。世間でもAONグループの限度を越えた労働は問題視されていました。ようやくの営業停止に社員は喜びに包まれています。続いてのニュースです。」

っしゃきたあああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ようやく働かなくて済むぞおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!これからは怪獣生保で毎日極楽生活だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!うっひょ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


狂喜乱舞、発狂。
ダランビア暴走。

ダランビアは無事に地獄の労働生活から脱出し、無職生活を謳歌するのだった。






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