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【そろばんDANQ開発秘話】朝日プリント社 山田社長単独インタビュー

そろばん業界に、新しい旋風を巻き起こすべく提供が開始された『そろばんDANQ (※1)』。2021年8月現在、新型コロナウイルスの影響もあり、なかなかこれまでの直接対面式のそろばん塾運営が難しい中、大きな期待を寄せられているサービスです。今回は、共同サービス提供事業者である朝日プリント社の山田社長に単独でお話をお聞きしました。

※1: 『そろばんDANQ』は、計算結果をアプリに入力すると、自動で採点、間違えたところだけ出題してくれる便利な機能を揃えていて、授業中と自宅学習の学習効率を上げられるスマートフォンアプリです。

アプリ開発には興味があった

ー 『そろばんDANQ』が開発に至る前提として、伝統ある会社さんが、小規模なスタートアップと協業していこうと考えた理由をお伺いしてもよろしいですか?

山田社長:
そうですね。アプリとかそういうものを作っていきたいなっていうことは以前から考えていました。しかし、開発会社は東京や大阪といった大都市に多いせいか、開発会社との接点があまりなかったんです。そんな状況の中、開発する際にどれくらい費用がかかるのかを知りたくて、実際見積もりをしていただいたこともありました。ただ、当時想定していたアプリは、今の『そろばんDANQ』ような形態の「LMS(ラーニングマネジメントシステム)」といった感じではありませんでした。

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そもそも、弊社の教材をアプリに全部入れるということもあまり考えてなかったです。どちらかというと、いわゆる知育系のアプリを考えていました。当初、弊社の教材をすべてアプリに入れる計画を聞いて、「リスクあるな」と正直思いました(笑)。

そろばんDANQ』で木原さん(オリエンス)と組もうと思った理由は、小さい会社かもしれないですけど、バックボーンが「そろばん」と「LMS」というところが大きかったです。「そろばん塾」の経験とITで培われてきた「LMS」の話の両者を勘案して、なんかいろいろと実現しそうだという感想を初期に抱きました。

ー 昨今、日本では伝統ある会社さんと、小規模なスタートアップとが両者のリソースや強みを活かして協業していこうという流れが多くなってきていますが、そういったことは意識されましたか?

イノベーションの起こる仕組み

山田社長:
そういった流れは特段意識せずに、自然な流れで協業へと至ったと認識しています。あえて言えば、タイミングが良かったことは一つあるかもしれません。ちょうど、私が業界に何か新しい風が必要だと感じていたときに、オリエンスから『そろばんDANQ』の提案をいただきました。

新しいことをやろうとする際に、私たち同業者で協業するよりも、他分野の方と取り組んだ方が革新的なものができそうな思いがありました。イノベーションは、全く違うところや別角度からのアプローチによって、現状が再構築されるような気がしていまして。
もちろん、木原さんはそろばんに関しても造詣は深いですが、彼のキャリアにおけるベンチャー企業での経験を踏まえると、「そろばん業界」に対して、外部の視点をお持ちの方とも言えます。そういった方の発想を取り入れることで、新しいものが生まれるのではないかと考えました。
私自身もそういった意識を持っていて、業界外の方の観点は必要だと認識しています。「この業界もっと変われるんじゃないかな?」とか、「ここの部分改善できるんじゃないかな?」といった外部からの意見には是非耳を傾けていきたいです。

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ー なるほど、元来そういった観点をお持ちなのですね。それでは、『そろばんDANQ』におけるオリエンスとの協業以外でも、同様の新しい取り組みなどはされていますか?

山田社長:
この夏からスタートしたのが、「LINE公式アカウント」の販売を通じたそろばん塾の後方支援です。今までは、そろばん専門の印刷出版業ということだったんですが、紙媒体にこだわらずにコンテンツ配信などもやっていきたいなと考えています。

ー なるほど。そういった取り組みは、やはり元来のクライアントであるそろばん教室さんに向けたものという認識で間違いないでしょうか?

山田社長:
そうです。あくまで既存のお客様に対して、さらに新しい付加価値を提案できるのではないかと思い動き出した事業です。よく印刷業界は単に印刷をするのではなく「ソリューションプロバイダー」を目指そうという動きがあります。まさに新しい取り組みを通じて、業界の課題解決を目指していきたいと感じています。

そろばん学習の良い面をもっと発信していきたい

以前からそろばん業界全体として、そろばんの良い面を適切に外部に発信できてないという思いがありました。個人的には、もっと効果的に発信することで、そろばんをやったことがない方にも「そろばんのよさ」を認知していただけると考えています。

ー 具体的にはどういった内容なのでしょうか?

山田社長:
そろばんの場合、天才児がいるとか、すごく上手くなった子だけにフォーカスされがちです。しかしどちらかというと、小さな頃からの積み重ねこそが大切で、そこに至る過程を幼少期から体験できるということが一見地味に見えますがそろばん本来の魅力だと思います。子どもたちに小さな成功体験を積み重ねさせる仕組みがうまくできているのが、そろばん教室なんです。学習を継続することで、努力できる人間になっていくという仕組みが既にそろばん業界にはあります。
計算力だけ高めたいとかとにかく結果にこだわりすぎる親御さんには、ヒットしづらいかもしれません。そろばんで培われる能力はなかなか数値化できない、いわゆる集中力や持続力などの「非認知能力」と呼ばれるものですから。そろばん塾というとどちらかというと、「計算力を高める」ための教室だと捉えられがちですが、個人的には結果的にそうなるだけであって大切なことはプロセスにあると考えています。

そろばんの目的は、確かにそろばんを上達させることにもありますが、それだけではないと考えています。私も家庭を持ち、こどもを授かって初めて実感したのですが、結局、子育ての最終目標って、子どもの自立ですから子供が将来1人で社会に羽ばたいていけるようにすることが目的であり、習い事もこどもの自立を促すためのものであって欲しい。
例えば、社会に出たとき、今まで出会ったことのない困難に立ち向かっていく必要がある際に、小さい頃から「1問1問クリアしてきたか?」「少しずつ難しい課題に取り組んできたか?」といったそろばん教室で培った「持続してやれる集中力」が養われているかどうかで結果が違ってくるはずです。

ー ちなみに、山田社長自体はそのそろばんはどれぐらいやってらしたんでしょうか?また、通常は何歳くらいまで続けるものなのでしょうか?

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山田社長:
そろばん塾に何年通えば正解というのはありませんが、できるだけ低学年でスタートを切る方が「あんざん力」を身に付けやすい傾向にあります。私の場合は小1から小6まで6年間通いました。大部分の生徒さんは小学校低学年からスタートして、学習塾に通い始める小学校高学年か中学校の部活が始まるタイミングで残念ながら辞める子が多いです。最近では幼児から受け入れてくださるそろばん塾も増えてきたので、相対的に学習スタートのタイミングは早まってきていると言えます。中学生になれば多くの生徒が部活をするようになるため、通う時間帯が厳しくなります。部活後の時間帯である夜10時ぐらいまでされているそろばん塾もありますが、こういった現状も平日の夜や週末にもアプリやオンラインでそろばんを学ぶことが可能となれば、状況が変わると期待してます。コロナを契機に家で学習できる環境が増えれば、現在の小学生が中学校に行ってもそろばんを続けられる状況が増えるのは嬉しい限りですね。

オンラインの今だからこそアナログの重要性も再認識

ー 『そろばんDANQ』以外の御社の今後の展望というのお聞かせいただけますか?

山田社長:
そうですね。業界専門の出版社ということで、これまでは検定試験に沿った問題を提供したり、依頼していただいたものを出版することをメインに考えていましたが、「価値のある情報を発信していく」ことがこれから求められているのだと感じております。
あとは、全てをデジタル一辺倒に振り切らずリアルなものづくりにも挑戦していきたいです。紙媒体に限らず、そろばん自体をデザインしたり、そろばんのケース、通塾カバンだったり、そろばん塾が求められるものをどんどん作りたい。

ー 昨今のそろばん業界自体はどうお考えですか?

山田社長:
例えば、昔は検定試験を行おうとすれば、紙ベースの試験で開催が前提なので、開催自体に人海戦術が求められるのでなかなか大変でした。今だったらデジタル配信もできますし、自動採点などが考えられます。業界がだいぶ変わってきてるなと感じますね。
このような変化の背景にあるのが、習う側の多様化にあると考えております。オンラインで通いたい生徒もいれば、リアルな教室に通う事を選択する方もいる。コロナを機に自分のスタイルを改めて感じた人が特に多いようで、オンラインをうまく活用できたり、逆にやっぱり、アナログが良いと認識したりですとか。
そろばんの教える部分に関しては、『そろばんDANQ』とか使って合理化していただいたり、従来とは異なる方法を採用できるようになりましたが、そろばん自体はリアルなものをこどもたちに使わせてあげたい思いがあります。昨今ではデジタルで一方的に与えられるものに触れる機会が増えました。しかし触れられるものの価値も体験させてあげたい。特にそろばんの場合、自分の手をミリ単位で正確に制御して無駄のない動きを磨いていきます。それ自体に質感があって、はじくとパチパチと音が鳴り、プチプチをつぶすみたいな快感もあります。そろばんをはじくことって、こどもの五感を刺激して育てることにもつながるんです。

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幼い時からやる習い事として最強のそろばん

ー 最後に、ご覧いただいている方々に対して、もっとも伝えたいことなどあればお願いします。

山田社長:
そろばんは、1~9, 0の10個の記号のみで始められるという点で、幼年期からやる習い事として最強だと思っています。そろばんって、先生の言う事が理解できなくても、テキストに書いてある文字が読めなくても数字の理解だけでスタートできる数少ない習い事です。水泳やピアノなど、その他の習い事の人気が高いですが、そろばんを習うのがもう一度当たり前になればいいなと考えています。
そろばんは、シンプルに言うと、足したり引いたりのスピードアップの世界です。こどもたちにとっても単純でわかりやすい構造です。そろばんを練習する中で、スピードを高めるためにハードルが子どもたちの前に立ちはだかります。そのとき子どもたちはどう乗り越えていくのか、そこがポイントです。教室の違いは、その障壁の取り払い方だっだりその教え方なのかもしれません。「こうやったら、もっと早くできるよ!」など。基本を押さえておかないとスピード・アップしていかないのため、基礎・基本はしっかり教えていくことが根幹にあります
そろばんは気軽にスタートできます。「とにかくやればできる」ので。子どもたちは自分で学習し、成長していくことができます。是非多くの方が改めてそろばんに興味を持ってもらえると嬉しいです。

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