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SEEDS OF LIFE/John Moore・坂田奈菜子 × DANNAVISION鹿沼

John Moore / 一般社団法人 SEEDS OF LIFE
坂田奈菜子 / 同上
風間教司 / 株式会社DANNAVISION, 有限会社風間総合サービス
渡邉貴明 / 同上, 建築設計室わたなべ
村瀬正尊 / 同上, 株式会社マチヅクリ・ラボラトリー
斎藤秀樹 / 同上, 株式会社ウィステリアコンパス

はじめに


渡邉
今日は、John Mooreさんと坂田奈菜子さんにはるばる鹿沼までお越しいただきました。お二人はSEEDS OF LIFEという一般社団法人で日本各地の固定種、地域地域で古くから守り伝えられてきた在来の種を後世に伝える活動をしていらっしゃいます。僕がお二人に出会ったのは2018年、LOCAL REPUBLIC AWARD(以下、LRA 2018)というコンペの審査会です。僕はこのコンペに風間さんや小山高専の永峰さんと共同で鹿沼でのまちづくりを主題に応募、参加していましたが、Johnさんは審査委員のお一人でした。Johnさんはこれからの地域づくりにおける人と人、人と自然の関係をどうつくるか、建築や都市の域を超えてより大きなシステムの再構築の必要性を訴えられていて印象的でした。

風間
LRA 2018で僕らの応募案は最優秀賞を頂いたわけですが、それをきっかけに今回DANNAVISION(ダンナビジョン)というまち会社を鹿沼で法人化しました。人と人の繋がりをつくり、ときには構成し直すことで鹿沼という地域を魅力的で、これからも長く豊かに生活するための場所にしていくことを目的にしています。Johnさんたちの提唱されている地域システムに対する考え方は、大きなヒントになります。今日はJohnさんと坂田さんにDANNAVISION設立のご報告を通じて、鹿沼をはじめ地域がこれから進むべき方向性を探っていければと思います。

未来へ種をつなぐ


渡邉
まず、Johnさん、坂田さんたちが普段どのような活動をなさっているかお話いただけますか。

John
一般社団法人SEEDS OF LIFEで、種子の保護育成をベースに日本各地で活動しています。今よく行われている地域再生は、もともとそこにある、もしくはあったコミュニティの再生が中心となっていますが、SEEDS OF LIFEは、地域固有の種や習慣から、新しい経済とエコで持続可能なラフスタイルをつくりだすことがミッションです。ECOMOMY経済の再生ではなく、LOCAL ECO-NOMY地元主体の新しい経済の構築です。

坂田
固定種、つまり古くから地域で守り育てられてきた種は、この100年で約9割が消失したと言われています。また、地域で受け継がれてきたお祭りなどの文化や食習慣も失われつつあります。そうした生物多様性や文化、持続可能な未来を次世代に繋いでいくために活動を進めています。しかし、種は保存するだけでは意味がありません。それを撒いて活用し、人々の生活の一部にならなければ、持続可能なものにはなりません。そのためには、従来の資本主義の経済システムではなく、新しい経済の仕組みとエコでサスティナブルなライフスタイルが必要だと考えています。

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(左)John Mooreさん (右)坂田奈菜子さん

渡邉
古くから受け継がれた固定種を未来に受け継ぐには、種を撒いて、活かしていくことが必要なわけですね。

John
そうです。撒いて育て、調理し食す。そして採った種をまた撒いていく。こうして撒いて育てていくことで、種は自然環境に順応していくのです。種は生き物です。毎年アップデートしているのです。しかし、人間は固定化された社会意識や経済システムの中にいます。そして、これまでの経済とライフスタイルでは、地球の未来はありません。そのため、まず人間自体が変わっていかなくてはならない。次のフェーズに行くためには、そうした人材づくりも大事です。今ある仕組みにとらわれず、自分で考えて、行動できる人が必要です。

坂田
これからますます先が読めない時代になるなか、誰かが仕組みを作るのを待っていたのでは遅くなってしまいます。特に農業においては、毎年気候が変動しており、正解のないまま、進めなくてはいけないこともあるでしょう。種をつないでいくためにも、自ら考え、行動することはとても大切だと思っています。

風間
DANNAVISIONは、鹿沼の歴史や文化、人々の生業をまちの資源と捉え、それらの関係性を再編集することで持続可能な地域を目指していこうとしています。資源とはつまりJohnさんたちがおっしゃる“種”ですね。種を守り育てるためには、その種のサイクルをサポートする人の手が重要であると。DANNAVISIONもそのサポートの役目を担いたい。

EGOとECO


渡邉
Johnさんは自発的、主体的な人たちによる集団が重要であるとおっしゃいました。ただ、それらを発揮することがいま困難であると。もう少し詳しくお話いただけますか。

John
現代社会の経済システムはみな赤字です。未来の資源を先食いしている。持続可能性がない。これには、組織を構成している人に主体性・自主性がないことが大きく影響しています。これまでは「リーダー」の時代で、利益も権限も一部のリーダーに集約されてしまう仕組み。上下関係を前提にしたEGO(エゴ)の時代でした。これからは持続可能性のあるECO(エコ)の時代。リーダーから「オーガナイザー」の時代に変わるべきです。一人ひとりが自立しながら、つながり、ネットワークを形成していくことで共生できる社会をオーガナイズしていく。上下関係を前提にしない、繋がりを大切にする時代です。

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(右)John Moore氏 EGOとECOのシステムのダイアグラムについて

渡邉
日本人は上下関係をとても重視する気質があります。

John
日本人、とくに男性は上下関係、ヒエラルキーを大切にします。これまでの経済や組織はみなこのような仕組みになっており、組織や資本の大きさを意識し、皆、上や中央に吸い上げられ、地域地元や末端の構成員に何も残らない。一方、女性は上下関係ではなく、必要に応じて付き合いをし、取り引きする。一人ひとりや一つひとつの場や関係を大切にする。戦争の後を想像すると良く分かる。国もシステムも無い状態において、食べるために必要な取り引きしていたのは多くが女性でした。上下関係の社会システムから脱却し、一人ひとりが自主的・主体的になるところから変えなければならない。

風間
DANNAVISIONはすべての人が役割を持ち、取締役というよりもオーガナイザー(つながりをサポートする人)という意識を持った方がいいかもしれない。まちづくりの専門家や公認会計士、一級建築士、そして地場の老舗商人というそれぞれが専門領域を持っている。上下関係ではなく、フラットな協力の仕方ができる。その意識で次の世代の人たちに鹿沼という地域を受け継いでいく。

John
忘れてはいけないのが「商店街は誰のものであるか」という意識です。風間さんのもの?渡邉さんのもの?DANNAVISIONのもの?誰か住民個人のもの?違います。皆のものです。だから、何かをやるとき、皆と相談して決めなければならない。これまでの行政や学校は「皆で話し合うと決まらない」と言い、上が偉い、上が決める、というシステムだった。皆で決める仕組みをぜひつくってください。その点でも女性の力は大きいのです。女性は「一つひとつの人、モノ、場を大切にしましょう」という発想。一方男性は「とりあえず箱を作りましょう、とりあえず人を集めましょう」と発想する。これからは女性の発想を大切にしなければならない。僕は、三食を自分で作ります。男性も毎日の食事を作る、一つひとつのことを大切にする練習をしたほうが良いですね。それも、「リーダーづくり」から「オーガナイザーづくり」への第一歩です。社会や教育も変わっていかなければならない。

鹿沼の祭り


風間
鹿沼には江戸時代から続く今宮礼祭という秋祭りがあります。各町内には日光東照宮の装飾を想起する彫刻屋台があります。これは各時代の旦那衆が未来への投資の意味も込めて普請したものでした。旦那衆の「旦那」は「ダーナ」つまりお布施に由来していますが、地元に必要なものを社会的に投資し、すべての庶民が活かされるための仕掛けとしました。しかし現在は、この仕組みの意味を行政が十分に理解をせずに予算を付けたため、予算を消化するための活動を要望することになりました。その結果、祭り衆たちには「やらされ感」が出て、祭りに参加する人がどんどん減ってきた。「リーダーづくり」によって自発性が失われたと言えます。お祭りは本来、様々なものを繋ぐ役割がある。町と田舎、都市と地方、異文化や異なる職業や身分の人を一つの舞台に乗せる仕組みだった。それが失われて、ただのイベントになってしまった。

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(左から二人目)風間教司 (左端)渡邉貴明

斎藤
祭りに参加する人は年々減ってきています。自分達の主体的な目的、何のためにこの祭りをやっているのかがきちんと話し合われず、共有されていないことに原因があると思います。お祭りは、町内の年齢を超えたつながりの場であり、各町を超えた繋がる場でもあるはずです。しかし「市や実行委員会が決めたからその通りにやるしかない」となってしまっており、やらされ感があります。ここから変えなければいけないのでしょうか。

John
そうですね、繋がる意識を持たなければいけません。今はLINEなどオンラインの繋がりもあるから、時代に合わせた方法をどんどん取り入れて、繋がる方法を考えていくべきです。

坂田
昔からあるやり方をそのまま引き継ぐ、というよりも、時代に合わせてアップデートしなければならないですね。

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(右)坂田奈菜子氏


John
お祭りは食物のベースとなっています。人、土、畑、地域は、周りと繋がっていないと生きていけない。周囲と繋がっていないやり方は、システムとして続いていかない。だからやめたほうが良い。一方通行では縮んでいく。繋がり、ネットワークを作りましょう。

渡邉
Johnさんは、その「繋がり」を「Exchange」つまり「交換」と表現されています。お金や食べ物、モノ、信頼などの交換関係があってはじめてそこに繋がりが生まれる。最近のまちに建つ住宅を見ると、みなプライバシーを重視するから窓はどんどん小さくなり、社会との接点である玄関ドアもとても閉鎖的です。多くの人は隣人との関係をつくることは考えません。鹿沼は江戸期には宿場町で、多くの住まいの通り際はミセとして社会に開かれていました。建築も社会における繋がりのあり方に大きな影響を与えている要因だと思います。ただ、救いなのは、鹿沼には秋祭りの祭り衆という行政でもない個人でもない中間組織が残っていることです。祭り衆の存在は、人々の繋がりを未だサポートしている。内向きになりがちな伝統的組織が外に開かれている。LRA 2018でもその点を評価して頂きました。僕はDANNAVISIONを、現代版祭り衆と捉えています。

神社とコンビニ


坂田
お祭りの中心には神社がありますね。SEEDS OF LIFEでは種図書館にも取り組んでいます。私たちは種を中心にした古くからの習慣に着目していますが、神社もその核の一つです。かつて神社には種を貸し借りできる種図書館の機能があった。神社には一升の種があり、それを地域の人々が借りて、撒き、収穫の後に一升お返しする。これにより、ときとともに種がアップデートされる。種のサイクルとともに人びとが繋がるわけです。種は共通資源、文化であり、守られてきたものです。現代の種の主流であるF1種は収穫して食べたらそれきり。種がとれない。農家さんは毎年買うわけです。アップデートされない。種をきっかけとした地域の繋がりは失われました。

村瀬
人々が集った神社が担った役目は、今はコンビニが担っている・・・。

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(左)村瀬正尊

坂田
その通りですね。でも、コンビニを介して人と人が繋がっているかというと、そうではない。人と人が繋がるための空間が必要ですね。

John
これまでのシステムから将来のシステムへ移行するには、いきなりはバージョンアップできない。そうではなくて、少しずつバージョンアップしていくことが大切。Step by step。Person by personです。

Imagination~想像すること


渡邉
バージョンアップしていくその先に目指すものを、地域の人たちと共有しておく必要があると思います。でも、この共有するということがとても難しい。上手く共有できなければ、それこそ上から押し付けられると感じてします。上下関係が生まれてしまう。

John
私がある組織で事業の立て直しを依頼されたときの話です。私はプロジェクトの当事者に「こうすべきだ」と言わず、「なぜここにいるの?」とひたすら尋ね続けました。来る日も来る日も「今日はなぜここにいるのか」と。最初は、変な人だと思われた。でもこれを繰り返すうちに徐々に変わり始めた。最初の回答は、ほとんど、外向きの回答でした。何回も聞いているうちに、何のためにやっているのか、本人たちが納得したものを考えるようになった。つまり、最初から答えを教えるのではなく、自分たちで考え出すという過程が大切です。考える、という行為にあたって、2つのワードがあります。まずMind。Mind=思考は同じことを繰り返すために使います。AからBへ、習慣化や効率化するためにはMindは良い道具になりますが、変化は生まれにくい。しかし、Imagination=想像力を使えば、これまでとは違う世界が見えてきます。AからB以外にもどこへでも行けるのです。Mindは誰かに教わることもできますが、Imaginationは誰も教えられない。自分で鍛え、実践しなければなりません。今こそ、このImaginationが重要です。

坂田
Mindは、繰り返せますが、新しいことを導き出すことはできない。Imaginationをトレーニングしないと新しい次元に行けません。そのためMindから抜け出すための、ImaginatioやInspiration(ひらめき)、Intuition(直感力)の3つのi(アイ)を鍛える学習体験プログラム「i3(アイ・スリー)」を、ジョンを中心に開発しています。

村瀬
日本はImaginationがとても苦手ですよね。ビジョンを言葉にすることができないので、人に伝わらない。

渡邉
LRAの審査委員長でもある建築家の山本理顕さんは、今までこうだったからこれからもこうだろうと考える人が多いけれど、今までこうだったから次はこう変えてみようと考えるのが建築家だよ、と言っていて僕はとても元気をもらいました。それがImaginationなのだと思います。ただ、未来のビジョンを描きながらも、人に対してそれを答えとして押し付けず、ともに考えていく姿勢が必要ですね。それをDANNAVISIONも忘れずにいたい。

斎藤
MISSION、VALUE、VISIONという言葉があります。使命、価値観、ありたい姿です。企業再生は、社長がVISIONを作って社員さんにやらせようとすると、失敗する。一方で、社員さん目線で、自分自身とその家族、特にお子さんが良くなる方向に、MISSIONとVALUEとVISIONを繋いでシステムのバージョンアップができると、企業は復活する。地域や商店街も一緒でしょうか。

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(手前)斎藤秀樹

John
地域も商店街も祭りも、それと一緒ですね。とても大切なことです。一人ひとりやり方を主体的に考えて、繋いでいくのがオーガナイザーです。今話をしている私たちは、ある程度意思を共有しているからこうして意見交換ができる。でも、これから想いを伝える相手、地域の人と対話するときには丁寧に時間を掛けなければならない。そのとき、お酒は大切な道具です。一緒の時間を埋めるための大切なツールになりますね。(一同笑い)

(2020年2月 日光珈琲 饗茶庵 / 栃木県鹿沼市上材木町にて)


写真:Inaho 伊納達也
https://www.inahofilm.com

John Moore http://www.seedsol.org
電通、パタゴニア日本支社長を経て、各地に残された原種の種を守る、一般社団法人SEEDS OF LIFEを設立。自ら農業やガーデンデザインも行いながら、様々な地域で種から持続可能な農業と新しい経済システムを提案する社会起業家として活動中。

坂田奈菜子
出版社に勤務後、ジョンムーアとともにSPIRALSを結成。サスティナブルな食と農をつなぐ活動を中心に、次のライフスタイルのあり方を提案している。一般社団法人シーズオブライフ事務局、セミナー講師、編集者、ディレクターとしても活動中。

DANNAVISION https://dannavision.jp
栃木県鹿沼市の事業承継者と創業者による、まちづくり社会事業法人。城下町、宿場町、職人町として文化を継承してきた歴史あるまち・鹿沼のまちづくりに欠かせない存在であった「旦那衆」の歴史、文化にならい、現代版旦那衆の育成と旦那衆による地域資源を生かしたストーリーのあるまちづくりを実践。

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