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本と出会う風景「生まれたことが犯罪 - トレバー・ノア」

トレバー・ノアのことは、知っていた。サッカーW杯の開催後、彼と在米フランス大使との一悶着の動画をみたからだ。多くの黒人選手が所属するフランスの勝利に、アフリカの勝利だ!とお祝いのジョークを言ったトレバー。それにフランス側は猛抗議した。選手らは立派なフランス国民であり、断じてアフリカ人ではない、と。トレバーは、抗議の意図を十分理解した上でこういう。「なぜ同時にフランス人とアフリカ人の両方であることができないのか?」と。相手の問題の真因をつき、サラリといなすその姿は、知性と品格を感じさせた。
きっとオバマ大統領のように、上流階級で育ったアメリカ人なのだなと勝手に思っていた。その時は、喋っている彼の名前も、生い立ちすらも気にも留めなかった。
アドベントカレンダーで偶然にもこの本を紹介されるまで。彼が南アフリカ出身で、カラードと呼ばれる白人と黒人の混血で、存在自体が違法とされていた時期があったと知るまで。

アパルトヘイトも南アフリカも、言葉としてはよく知っている。人種差別、危険、等々の単語とも結びついている。でもその向こうにある景色を具体的に思い浮かべたことがなかった。
私はトレバーと同世代だ。文中に出てきて、彼がせっせと海賊版のCDを編集しているPCは、Windowsだろう。私もおそらく同じWindowsを使っていたが、ペインターで絵を描いたり、黎明期のインターネットで遊んだり、実に牧歌的な使い方をしていた。それが許される世界であったことを、まざまざと思い知らされた。
トレバーのお母さんが、差別や偏見に負けない逞しさをもって彼を育てたのは、本当に素敵だと思う。

友人から紹介されて、この本を本屋の片隅で拾い上げた。出会うべき時に出会ったんだなと感じた。中身の面白さと同様に、それがとても嬉しかった。


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