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本と出会う風景「手紙にそえる季節の言葉 365日」

いまの時代、LINEやMessengerでいつでもどこでもすぐ人とつながることができる。時差も距離も関係ない。コミュニケーションはどんどん速く軽くなっていく。その中で失われた行間と質を懐かしく思うのは、歳をとった証拠かもしれない。グローバル企業による情報流通の低コスト化と均質化の恩恵を受けながら、繊細な文化の凹凸をツルツルにして更地に返してしまう様相一辺倒では、なんだか味気なく感じる。
なので日常的にメッセージアプリやSNSを使う傍、時々ものたりなくて非日常的に葉書や手紙を書く。
媒体が違うだけで書く内容は確実に変わる。手紙の冒頭に書くような時候の挨拶など顕著だろう。そんな中で、書き出しの言葉に困ってこの本を手に取った。365日、季節を切り取った鮮やかな言葉が並ぶ。春の「零れ桜」「花筏」「花笑み」、初夏の「蚕豆」「草笛」「若葉時」など、手書きの文字にしたとたん湿度と柔らかさを帯びて生き生きしている。書いている方も気持ちが緩やかに解けていく。 そういう時間は心を潤わせる。
日本の安く早い郵便網も、いつまで保たれるかわからない。数十年後には、現代にとっての平安時代の文のやりとりのように、「そんなこともあったんだよ」と歴史の教科書に一文で記載される運命かもしれない。
だからこそ、今のうちに書いておきたい、と思った一冊。

#本と出会う風景 #手紙 #葉書 #推薦図書


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