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Report:Thiago Silva(PSG→Chelsea)

 10年に1度の最強CBは御年35歳、今月ついに36歳を迎える。
 アラフォーに差し掛かるタイミングでの移籍。今回は現状と、現状を踏まえた予測を記していく。

現状

 チアゴ・シウバが“オ・モンストロ(モンスター)”たるプレーを見せていたのは、ミランで台頭した2009-10シーズンからPSG時代の16-17シーズンまで。カバーリング型の選手ながら、対人守備も十二分にこなせるパーフェクト・ディフェンダー。両方をトップレベルでこなせる選手はその後ファン・ダイクが台頭するまで出てこなかった“DF不作時代”において、彼の存在は図抜けたものだった。
 怪物から一選手に戻ったのは17-18シーズンになるだろうか。33歳を迎えたこのシーズンは、前年からCBコンビを組んでいたマルキーニョスとの相性の悪さも手伝ってパフォーマンスを落とした印象だ。フィジカル的に32、3歳はほかの選手を見ても一つのターニングポイントになる年齢で、ここに関しては人間である以上不思議はない衰え方である。
 彼にとって最後の指揮官となったトゥヘルとの共闘は、フィジカル的に衰えたシウバとの闘いでもあった。就任1年目は3バックと4バックの両刀を使いこなしながら、3バックの中央に据えたり、右SBにケーラー、アンカーにマルキーニョスを起用するなどしてシウバの負担を軽減することを試みた。
 しかし、このシーズンはケーラーが適応に時間を要したり、キンペンベが故障を抱えながらプレーする状態だったりと周囲が安定しなかった。何よりゴールマウスがブッフォンかアレオラかという、買収以後では一番低レベルな争いが繰り広げられる有様。負担を軽減するどころか逆にシウバが救わなければならない状態で、CLでも足を掬われて敗退する結果となった。
 19-20シーズンは一転して周囲が安定。手術を終えたキンペンベがワンランク上の選手に成長し、マルキーニョスもアンカー業務に完全適応。前半戦を怪我で棒に振ったケーラーも後半戦に安定した働きを披露し、シウバもそれに乗じるようにパフォーマンスを回復させた。
 それでも、ドルトムント戦1stレグではエルリン・ホーランにブチ抜かれて2ゴールを許すなど、全盛期ではありえないパフォーマンスも目立ったのは事実だ。PSGも衰えや年俸等、諸般の事情を考慮してここでの別れを決意した。
 能力的には、戦術遂行能力や予測能力等のタクティカルな能力に関しては全く衰えていない。ただ、どうしても年齢的にフィジカルを活かした対人勝負は難しくなってきている。予測で大部分スピードも年齢に応じて落ちているのでカバーリングもやや衰えを見せている。

予測

 これらの事情を踏まえて、来季はどうなるだろうかを予測していこう。
 まず、一つの重要なポイントは年齢だ。36歳はDFでもかなり高齢になる。
 参考までに、アレッサンドロ・ネスタもパオロ・マルディーニも36歳シーズンがレギュラー稼働の限界であった。現代サッカーで彼ら以上に長くハイレベルに稼働した選手は存在しない。サネッティは39歳くらいまでレギュラーだったが、当時のインテルの競争力を考えると少し事情は異なるだろう。
 また、セリエAで活躍していた彼らと違ってフィジカル強度の高いプレミアリーグ、しかも初参戦であるというのも懸念材料になる。フィジカルに依拠したプレースタイルの選手ではないが、どうしてもフィジカル勝負を挑まれると年齢的に苦しいところはある。元々持っている負傷癖が悪い方向に向くことも否定はできない。
 これらの事情と年齢を考えると、来季がラストダンスになるというのが妥当な見方になるだろう。
 環境面では、初参戦のプレミアという事情以上にトゥヘルとランパードの力量差、周囲のレベルの差が引っかかる。ランパードはトゥヘルのようにそれぞれの選手のレベルに合った役割を与える、というのは不得手に映るし、周囲で頼れる守備者はこちらもまたシウバ同様に下降傾向が見えるアスピリクエタとカンテくらい。ミラン、PSGと守備陣が安定しない中でも周囲を救い続けてきたシウバだが、流石にそこまでの神通力はもはやない。タスクオーバーする可能性は否定できない。
 評判になっているキャプテンシーに関しては、少し評価が違うという印象だ。闘将というよりは、人格者としてチームに安定と落ち着きをもたらすタイプ。18-19シーズンのリバプール戦のイメージが手伝っているのか熱く闘うタイプという印象を持たれているようだが、毎度毎度吼えるタイプのDFではない。
 同じく評判の育成能力に関しては、そもそも選手に頼るべきではないし、シウバにその才はあまりないように見える。マルキーニョスは加入時から完成度の高い選手だったし、キンペンベも歴代監督が3人揃って年齢不相応な高評価を与えて起用してきたように“元が良い”選手。ネスタがシウバ当人にしたような、確変現象を起こさせるという芸当は期待すべきではないように思える。育てるよりはむしろ自分が試合に絡みたがるタイプだ。

 結論から言えば、ミランやPSG時代ほどの働きは期待できないが、短期再建に最適なベテランDFなのは間違いない。特に19-20シーズンのチェルシーは守備陣が崩壊していただけに、失点数を常識的な範囲に抑えられるというのは大きいはずだ。
 チェルシーからすれば、シウバでつないで来夏以降にディケイド単位でDFラインを託せるCBを探せるかどうかがカギになる。おそらく今夏はそれが市場の事情を考えると不可能で、また市場の事情を考えてアタッカーの方がプライオリティーが高いと判断してのシウバ獲得という結論になったと考えられる。今夏のチェルシーはチーム事情ベース(絶対的判断基準)というよりは、市場事情ベース(相対的判断基準)で動いている印象で、その中で最低ラインを割っているCBに関しては絶対的判断を適用して、シウバという“応急処置”を施したのだろう。もちろん、それが正しいかどうかわかるのは1年後のことである。


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