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ファビアン・ルイスへの固執

割引あり

末代までの恥と言える敗北を喫したドルトムント戦以降、風当たりと疑問が強くなっているのがPSGの8番だ。
しかしながら、実際のファビアン・ルイスのプレーは要求に忠実である。
左のハーフスペースに飛び出せる、エリア内に突っ込める、アンカーのヴィティーニャが上がれば必要に応じて自制してポジションを下げることもできる。全てこなしてくれるにも関わらず、不出来が目につくのはその全てが鈍足であるがために間に合わないケースがあるからだ。
とはいえ、この要求を他の選手で満たすことは難しい。左のハーフスペースに飛び出すなら、大前提として左足で蹴れないと意味がない。だから左IHからヴィティーニャを外したし、ウォーレン・ザイール=エメリももう左では起用されていない。左足で蹴れる李康仁とマルコ・アセンシオに守備のことを考えた自制を求めるのは難しく、そもそもこの2人はエリア内に積極的に突っ込むよりもボックス周りを彷徨きたいタイプだ。ウスマン・デンベレが時折背番号通りのポジションに入るのは、この役割への適性を試しているからだろうが、彼を中央の低い位置で使うデメリットは、ボールロストの多さと守備力の低さからも明らかである。私のベストソリューションはブラッドリー・バルコラだが、彼をワイドから外すと誰もサイドでの突破力を担保してくれないだろう。リュカ・エルナンデスが離脱したLBを務めるヌーノ・メンデスが一列、ないしは二列上がるわけにもいかない。上げたらベラウド出てくるぞ

そもそも“デカくて守れるIH”が必要というのは、ここ3年ずっと共通している。
ポ○ェ⚪︎テ⚪︎ーノ(放送禁止用語)がダニーロ・ペレイラをIHにしてから、それはずっと続いている。それはつまり、エンバペ・システムが組まれてからずっとということだ。
○○ェ⚪︎テ⚪︎ー○の後任でやってきたガルティエはダニーロとファビアン・ルイスを右IHで併用、エンリケも結局ファビアン・ルイスの名前をスタメンシートに書き入れている。2人とも明らかに俊敏性に難があるが、それでも使いたい理由がある。
前線でボールを保持したいのだ。
もちろん、○○⚪︎⚪︎○⚪︎ー○がイドリッサ・ゲイエとアンデル・エレーラのIH(今となっては対戦相手へのリスペクトが問われるレベルの中盤だろう)、ガルティエがマルコ・ヴェッラッティとヴィティーニャのドイスボランチ、エンリケがマヌエル・ウガルテをアンカーに据えてヴィティーニャとザイール=エメリのIHでスタートした通り、これを積極的に用いたいというわけではない。そもそもエンリケはスペイン代表監督時代、ファビアン・ルイスをほとんど使っていない時点で本質的に高い評価は与えていないのである。しかし、マウロ・イカルディが格下相手に点を取ること以外に資質を示さず、キリアン・エンバペがうだつの上がらないベテラン達のためにピヴォット・ギャングを務めることを拒み、ランダル・コロ=ムアニが技術不足、ゴンサロ・ラモスがエンバペとの棲み分けとエンリケが好む4-3-3のフォーメーションでの居場所探しに苦労している以上、CFではない誰かが前方で時間を創らざるを得ない。
他の選手にも可能性がなかったわけではない。“ファイナル8”ではボール保持能力に長けたネイマールがゼロトップに入って役割を果たした。ただ、このシステムは守りに強くベクトルが向いてしまった上、エンバペのワイド突破力が減退するにつれて機能性を失った。エンバペの適性が徐々にCFに移っていくにつれて、誰がポストCFをやるのかという壁にぶつかったのだ。
2トップにする手もあった。しかし、これをやってしまうと、来たるカタールW杯に向けてマーケティング戦略的に外せなかった(というより看板商品にしたかった)エンバペ、ネイマール、リ○ネ○・メ⚪︎シの凶悪(繰り返すが、“凶悪”である)3トップが組めない問題が発生した。というよりも、既にワイドでプレーするだけのスピードをその3人も、ひいてはアンヘル・ディ・マリアも持ち合わせていなかった。同じ頃、SBにスピードと馬力を持つメンデスとアシュラフ・ハキミが加入し、最終的にWBを務めていたのは偶然ではない。

ファビアン・ルイスの起用で最も割を食ったのが、開幕当初はレギュラーを務めていたウガルテである。スポルティング時代は、3バックの前のアンカー的役割で広範囲の潰しを担っていたからだろうが、目の前の敵に食いつきすぎるきらいがある。ビルドアップ時のポジショニングとその後のパス出しには大きな課題が見当たらないだけに惜しいところだが、高身長と利き足を理由に起用されたファビアン・ルイスがIHに収まって以降、ヴィティーニャをアンカーで起用する守備力の余裕ができてしまった。そのバランスの是非を問うのは難しいところだが、エンリケのサッカーからヴィティーニャを外すわけにはいかず、ヴィティーニャを右のIHに回してザイール=エメリ、ないしはハキミを外してまでウガルテを積極的に起用しろとまでは言えない。パルクで行われたバルセロナ戦でベンチに座らせた通り、エンリケがザイール=エメリを必ずしも強く好んでいるわけではないと思うが、ウガルテ自身もコンディションを落とした以上はなかなか厳しい競争になっているのが現状だ。よほど今のメンバーで守れないと判断しない限りは、シーズンが変わってCFがエンバペではないPSGになるのを待つしかないのではないだろうか。そうなった時、ファビアン・ルイスやダニーロのIHという選択肢は完全に消えてヴィティーニャがIHに戻り、ウガルテがアンカーに馴染めばという条件付きで中盤の補強はそもそも必要にならなくなるかもしれない。逆に、CFがまたポストプレーに消極的だった場合、補強すべきはアンカーではなくファビアン・ルイスのプロフィールを上回るIHかもしれない。なかなかいないだろうし、ポストをこなせるCFを据えてウガルテ、ないしは別のアンカーを引っ張ってくる方が楽だとは思うが。
期待が残っているのは、そのCFがゴンサロ・ラモスに変わって、エンバペと2トップを組む。そしえバルコラとザイール=エメリの両SHを従え、ヴィティーニャとウガルテ、もしくはファビアン・ルイスのドイスボランチの4-4-2に、だ。エンリケはあまり好まないシステム、というか使いたくもないシステムだろうが、ウガルテが起用されていたシーズン序盤に可変的に使っていたのは事実で、何よりもデンベレがこれだけ使われて6月の頭まで持つとは思えない。同じような体質・実力帯のエルナンデスは既に本年の“12月28日”(仕事終わり)を迎えた。エンリケの強心臓と冷淡さが、最後の最後にまた豪運を引き寄せる気がするのは私だけではないはずだ。

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