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トーマス・トゥヘルが書いたダイナミックな台本が終盤に爆発|レアル・マドリーvsパリ・サンジェルマン(CL第5節)

試合を観た人からすれば、スコアに違和感を覚えるのではないだろうか。
2-2。結果は引き分けだ。しかし、レアル・マドリーからすれば勝った気分しかしない内容だろうし、パリ・サンジェルマン(PSG)からすれば完敗したような気分になった一戦である。2点をPSGが追い付いた展開にも関わらず、だ。
スターティングメンバーはレアル・マドリーがほぼベストメンバーで挑んだのに対し、PSGはネイマールとエディンソン・カバーニをコンディション不良でスタメンから外さざるを得ず、好調のアンヘル・ディ・マリアとマウロ・イカルディが先発。コンディション面を考慮した結果であり、順当だろう。意外だったのはトーマス・トゥヘル監督のお気に入りであるコラン・ダグバを外して、トーマス・ムニエを右SBに据えた用兵だ。自身が好むゲームメイカー型のSBより、アタッカー型のSBを置いた理由は何だったのだろうか。
試合経過を追ってみよう。マドリーのフォーメーションは、4-3-1-2と4-4-2の中間だっただろうか。カゼミーロとクロースが横に並ぶ時間が長く、ドイスボランチに近い形を取りながら、エデン・アザールとフェデリコ・バルベルデがサイドに配置されてイスコとベンゼマが中央に陣取る、という配置だった。
これはかなりハマる形になった。イスコ起用時のマドリーは、左で創って右で仕留める、といったブラジルテイストの強いアシンメトリーな展開になる傾向が強いが、この日も例に漏れずその状況に。PSGの右SBはムニエだろうがダグバだろうが、守備力は高くない2人なので、間違いなくハマるという確信があってのイスコ起用だろう。アザール、マルセロ、イスコ、クロースで攻め立てて、ムニエとPSGの右IHイドリッサ・ゲイエを守備に忙殺させる。守と攻のリンクマンを消されると、試合は防戦となるものだ。
17分の先制点は、予測を立てられたところで逆を突いた見事なものだった。PSGの守備が右サイドを意識して寄り始めたところで、フアン・ベルナトとマルコ・ヴェッラッティがキッチリ抑えていたはずのハーフスペースをバルベルデが急襲。綺麗にペナルティーエリアに侵入し、最後はベンゼマが沈めて最高の時間に先制点を挙げた。
その後、PSG側もディ・マリアとキリアン・エンバペの位置を入れ替えたりして、工夫を凝らすも展開を変えるには至らず、マドリー優位のまま前半を終える。
しかし、ここまではほぼトゥヘルからすれば想定内だったのではないだろうか。器用に動くことが出来て、相互の意思疎通もスムーズな“MCN”をフルで使えない以上、崩しの面でのクオリティー低下は解決不可能。ならば、決定的な仕事に特化したイカルディやムニエの“ソロホームラン”に期待して、ユニットで崩せるメンバーを投入するまで辛抱するというプランを立てたのだろう。
実際、後半にゲイエに替えてネイマールを投入すると風向きは微妙に変化する。ムニエが守備に忙殺している状況でゲイエからネイマール、というのはある程度リスキーな判断だったのは間違いない。ただし、攻守のリンクマンとしての性能は段違い。明らかに攻撃の回りが良くなり、守備のシーン自体が減ってきたのである。
ただし、少し交代は遅かった。75分にパブロ・サラビアとユリアン・ドラクスラーを投入した選択自体は大正解だったが、あと10分早めなかったことには疑問が残る。
遅かったというのは、その1分後にルカ・モドリッチを投入されて即、モドリッチのアウトサイドパスを起点に、ベンゼマが2点目を奪ったからだ。薄くなっていた右サイドでの守備が仇になった得点で、もう少し交代が早ければ防げた失点だったように思われた。時間帯的にも2点差が付いてしまえば心理的に厳しく、PSGの刃は完全に折られたはずだった。
しかし、ここからトゥヘルの用意したシナリオが華麗に演じられる。
ベンゼマの2点目が決まった2分後、ムニエ起用がついに功を奏す。走力を活かしたドリブルスタートのカウンターでボールをオープンな状況にし、そのまま鋭いクロスを供給。2点差を付けて気を緩めたとしか思えないマドリーDFの間隙を突き、エンバペが1点を返す。
2点目は完全にプラン通りだろう。囮の動きが出来るエンバペ、ネイマール、サラビアの3人が綺麗に絡み合った。ベルナトのパスは、エンバペとネイマールという豪華な2枚の囮を通過してドラクスラーへ。ここもスルーして欲しかったが、打った跳ね返りをサラビアが超絶ボレーで沈める。終始劣勢に立たされていたPSGが、わずか2分で同点に追い付く劇的な展開に、サンチャゴ・ベルナベウは困惑と諦観に包まれた。
そして、試合はそのまま2-2で終了。どこかスッキリしない展開で、両者仲良く決勝トーナメント進出を決めることとなった。

両指揮官は高度なシナリオと用兵で、見応えのある試合を演じた。プランニングはトゥヘルの方が賭けに勝った格好だが、試合中の変更に関してはモドリッチを絶妙なタイミングで入れて試合を殺しに行ったジダンが上回った印象だ。その後の2失点を想定することは流石に難易度が高いだろう。マドリーDF陣はともかく、PSGを褒める方が理に適っている。

個人に言及すると、2点を決めてみせたベンゼマ、質の高いランニングで人数の少ない右サイドを活性化させたバルベルデは見事。PSG側も終始脅威となり続けたエンバペ、ついに自身の持ち味を活かして貴重な同点弾を奪ってみせたサラビアに5点分は防いだケイラー・ナバスは出色の出来だった。
引き分けになった原因をマドリー側に求めるとすれば、絶対的エースの不在と、絶対的守備者の不在だろうか。ベンゼマではなく、「俺が決めれば負けない」と言わんばかりに不遜なクリスティアーノ・ロナウドが2点を決めていれば、重要な試合で流れを相手に渡さないナバスのようなGKが居れば。立て続けにPSGが2点を決めた“あの2分”はメンタル的な戦力不足を感じさせる時間だった。

PSG側の問題は、兎にも角にも負傷者の多さだろう。あれだけ多くの故障者を出すのは限度を超えている。この試合終始消えていたイカルディは、ビッグマッチでスタメンで使いたい対象では無い。絶対的な得点能力は凄いが、できることが少なすぎるからだ。ピンポイント起用したいゲイエやムニエを使わなければならなかったのも、故障者が要因だろう。負傷癖の多い選手がいるのも確かだが、多いわけでは無い。この試合には出ているが、チアゴ・シウバもマルキーニョスもコンディションは微妙に見えた。欠かせない選手なのはわかるが、もう少し捨て試合を作って休ませても良いのではないだろうか。コンディションにもっと気を遣わなければ、また同じ失敗を繰り返すことになるだろう。

#ひなたの休日観ながら書きました

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