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I like TT, just like TT〜トゥヘル解任に寄せて〜

前任のアレが去り、早々にトーマス・トゥヘルの就任が発表された2018年の5月。最初は「こらまたえらい博打打ちよったなあ」という感想だった。うまくいけばCL優勝、悪ければGL敗退もあり得そうな。ドルトムント時代のトゥヘルは爆発力もあった反面、くだらない落とし方もする博打要素が大きく、その点不安は大きかった。

(前任のアレ※イメージ図)

1年目はまさにその悪い方が当たった。CLのGLは、リバプール&ナポリと同居する苦しいグループだったが、なんとかチームの最適解を見つけて突破。しかし、決勝トーナメント1回戦ではなんてことのないチームに逆転負けを喫して敗退。その後も敗退をズルズルと引きずり続け、タイトルはリーグ・アンのみに留まった。
2年目は補強がそれなりにうまくいったことで順風満帆。ロッカールームで悪影響を及ぼしていたイタリアのアレとブラジルのアレが出て行ったことは非常に大きかったように感じる。特に後者の放出が大きく効いたのか、特にネイマールは心身共に充実したシーズンを送った。“正しい人間”がロッカールームを支配したことで、ネイマールだけでなくマルキーニョスやチアゴ・シウバ、プレスネル・キンペンベのパフォーマンスも向上した。目に見えてピッチに安定がもたらされた。そんなシーズン前半だった。
トゥヘル自体にも変化が生じたように感じた。後半戦最初の大一番、古巣ドルトムント相手に敗れたCL決勝トーナメント1回戦1stレグでは脆さを露呈してしまったが、そこからの巻き返しと覚醒は凄かった。ホームで無観客の不利な状況の中完勝を収めたリターンマッチは、トゥヘル自身のターニングポイントになったように思う。ノルウェーの無礼なガキのふざけたパフォーマンスに一番刺激されたのはトゥヘルだったのかもしれない。
3年に及ぶベスト16の呪いを破った後は、4ヶ月に及ぶコロナ中断を強いられることになる。この間にエディンソン・カバーニが退団する痛手を負い、再開後にはコンディションが整わない中2つのカップ戦の決勝を戦い、引退間近の老害にエンバペが破壊されるなどコロナ禍の影響を存分に受けた。
しかし、追い込まれれば追い込まれるほど真価を発揮するのもまたトゥヘルだった。自身が謎の骨折をし、エンバペとヴェッラッティが不在のまま迎えたアタランタ戦では、終盤の采配でミラクルを起こした。80分まで耐えて投入したユリアン・ドラクスラーとチュポ・モティングが試合を決めたこの試合がトゥヘル政権のベストバウトになるだろうか。コロナ禍でなければ登録さえされていなかった第3FWの感動の一撃を引き出したのはトゥヘルで、トゥヘルでしか成し得ない業だった。
続くRBライプツィヒ戦も、コンディション的には圧倒的不利ながら要所を抑えて3-0の完勝。力尽きたとはいえ、これまたコンディション的に大きな差があったブンデス勢たるバイエルン・ミュンヘンとの決勝も最後の最後まで期待を持たせるような試合を展開した。圧倒的に不利かつ絶望的な状況で始まったファイナル8で、望外の準優勝だったと言える。
ファイナルで敗れたのは残念だが、そこに顔を出したことはクラブにとって大きな足跡になるのではないだろうか。
“足を残す”ということはそれなりに重要だと私は考える。CLベスト8常連だった頃、ベスト8に行くのは簡単だった。ベスト16に落ちた途端、そこに行くのが難しくなった。我々の生きる社会に置き換えるとどの程度の高校に行くかで行ける大学が変わってくる、どの程度の大学に行くかで行ける企業が変わってくるというところだろうか。高いレベルの高校から、低いレベルの大学に行くのは簡単だが、その逆は難しい。だからこそ、落ちないことが大事だし、一度の貴重な上昇を大事にしなければいけない。
トゥヘルはその難易度の高い“上昇”を見せてくれたのだ。ズラタン・イブラヒモヴィッチの時代が終わって以降のPSGは、エースこそネイマールとキリアン・エンバペがいるものの、その他のキャストは中盤を中心に質を落としてしまった。そんなチームでありながらも、ベスト16の呪いを解き、決勝に連れて行ってくれた。コロナで4ヶ月もサッカーが出来ず、11人で100kmも走れないコンディションのチームを。レジェンドがいない、と揶揄される創設50年のチームだが、私はズラタンや2人のチアゴ、マックスたちと同様にトゥヘルも心に刻まれるレジェンドとして扱いたい。
何よりも嬉しかったのは、古巣との2ndレグ、そしてファイナル8で彼自身も殻を破ったと思われたことだ。マインツやドルトムントで見せていた脆弱性はなく、最後に勝つことに全てを懸ける采配に進化していた。3年目も、過密日程とコンディション不良に悩まされながらいろんな勝ち方を見せてくれた。ドン引きショートカウンター、ポゼッション塩漬けゲーム、正攻法のショートカウンター…。引き出しの多さに驚かされるばかりだった。固定できるほど優秀なメンツは多くないチームを救い続けて、なんとかリーグもCLも足を残していた。
来たるウインターブレイクと移籍市場で態勢を整えていざ反転攻勢、のはずだった。クラブと共に監督もデカくなる。美しい物語を紡ぐところだった。
しかし、物語は引き裂かれた。くだらない人間関係のこじれで。
気に入らない者を排除することは、勝利に必要なことではないはずだ。プロである以上、チームが勝つことに注力できない者は去って欲しい。トゥヘルはそうではないし、去るべき人間がどちらかは明らかだろう。結果に貪欲な人間を切り捨てる組織は終わる。少なくとも、大きな後退を強いられる。
サヨナラは何度だってあるかもしれない。でもこのサヨナラでは強くなれない。このサヨナラに意味はないからだ。
サヨナラをされるべきは、監督じゃなくて組織ではなかろうか。
≪この項・了≫

ありがとう、そしてごめんなさい。

気持ちはもう十分見せてもらった!いけ!闘え!頑張れ!応援してるぞ!

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