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ネイマールの移籍はどうやったら成立したのだろうか

巷で話題のネイマールのスペイン復帰はついぞ実現しなかった。
高額移籍金に複数人のトレードを提示するバルセロナとレアル・マドリー、その“複数人”には様々な名前が挙がった。しかし、ついぞクラブ間合意と個人合意の両方が揃うことはなかった。PSG(パリ・サンジェルマン)がカウンターオファーを提示しても、うまくいかなかったとも言われている。
移籍賛成派と反対派で、はたまた選手をトレード要員に含めるか否かで大きな議論を呼んだネイマールの移籍未遂。どちらも強硬に見えた今回の騒動。本当に、両者ともに頑固だっただけなのだろうか。

まず、売り手のPSGから考えてみよう。
PSGがまず売却したいか否かだが、これに関しては「条件付きで可」だったのではないだろうか。レオナルドがSDに復帰して以降、明らかにPSG側はネイマールを売却要員として見なしていた。理由は様々あるだろうが、大きな理由としてはFFP対策だ。残存契約が3年あり、契約書の減価償却が少ないネイマールの移籍金は2億ユーロ以上は見込める。この値段で売れば、PSGは収支プラスの状態で懸案のGK、さらにはネイマールの後釜を補強することが可能だ。そもそもPSGにとってネイマールの獲得はマーケティング目的によるところが大きかったので、キリヤン・エンバペの商業的価値がW杯優勝で“勝手に上がってくれた”今、ネイマールという大駒を他ポジションの補強を犠牲にしてまで保有する必要はない、というのがレオナルドSDの見解だったと推察される。これは意見が分かれる見方だろうが、一つの考え方として否定されるものではないだろう。もちろん、細かな理由としてフランスリーグとのコンディション面での相性の悪さ、欧州最前線のトレンド的に豪華FW陣を揃えるというのが少し前時代的になって来たという事情もあるのも間違いない。
このような事情が相まって、PSGは「適切なオファーが届けば」売却したいという意向を抱いていたと見ていいだろう。

では、ネイマールの意向はどうだったのだろうか。
これは正直、彼の口からほぼ何も語られなかったので、推察がほぼ不可能である。移籍を強行するために練習を欠席する等の契約違反まがいの行為も見られず、ごくごくプロフェッショナルに振舞っていた。バルセロナから移籍する時も同様の態度だったため、強硬姿勢を見せていないからと言って移籍志願していないわけではないだろうが、強い移籍願望は有していなかったのではないかと推測される。バルセロナからPSGに移った際は、PSGが違約金を満額支払いさえすればすぐに移籍できたので、所属クラブたるバルセロナに圧をかける必要はない。一方、今回移籍しようとするならば、契約が残り3年あり、ほぼ全てがPSGの意思に委ねられている状態だった。この状態で移籍をするなら、ある程度クラブにプレッシャーをかけるべきだった筈だが、そうしなかったので強い移籍願望はなかったと結論づけるしかないだろう。
もっとも、ここは憶測の域を出ないので、次に買い手側の事情を見てみよう。

バルセロナとレアル・マドリーは同じ状況だ。前提として、ネイマールを獲得する現金は存在しない。どちらも出せて1億から1億5000万ユーロで、2億ユーロはなんらかの融資を取り付けない限り難しかったのではないだろうか。
そこで、彼らは既存選手の売却に動いた。バルセロナはウスマーヌ・デンベレ、イヴァン・ラキティッチにフィリペ・コウチーニョ、レアル・マドリーはガレス・ベイルにハメス・ロドリゲス、さらには真偽のほどは不明ながら前年バロンドールのルカ・モドリッチまでも売却候補として浮上していた。
しかし、彼らは売れなかった。最大の売却候補先であるプレミアリーグは、ポンド安の影響を受けて国外からの補強が平常時と比較して割高になる状況にあった。今夏のプレミアメガクラブの補強で、即金で決まった国外からの大型移籍は恐らくロドリ(アトレティコ・マドリー→マンチェスター・シティ)、タンギ・エンドンベレ(リヨン→トッテナム)くらいだったのではないだろうか。アーセナルはほぼ分割払いで、マンチェスター・ユナイテッドは国内からの補強に終始していた。

仕方なく、次は比較的ベテランに寛容なイタリアに売ろうとするわけだが、中華マネーで潤い始めたインテル・ミラノはマロッタSDの意向で比較的堅実な補強、ユヴェントスはFA選手とデリフトに注力した後は資金がない(こちらもプレミアにパウロ・ディバラが売れなかった)、ナポリには肖像権問題があり、その他のクラブはそもそも話にならないという状態で、こちらにも振り向いてもらえなかったのだ。
そんなこんなで、コウチーニョもデンベレもベイルもハメスも売れ残ってしまった。行き詰まった両クラブは、PSGとの取引に彼らを含めるというトレード案を画策する。しかし、ここでも壁が現れる。そう、PSGの欲しい選手が彼らではないのだ。
PSGからすれば、チーム編成的にバルセロナならグレミオ時代から獲得を画策していたアルトゥール・メロ、少し稼働率が不安なCB補強になりうるクレマン・ラングレなら文句なしに欲しい選手。衰えが見えてきたとはいえ、レギュラークラスとしては十分な働きが見込めるルイス・スアレス、ラキティッチに期待枠のジャン=クレール・トディボが評価額次第、怪我が多くて買うには躊躇するものの、層の拡充としては悪くないサミュエル・ウンティティ、そしてデンベレがレンタル候補だったのではないだろうか。レアル・マドリーなら、カゼミーロが文句なしの候補で、時期が早ければラファエル・ヴァランが、怪我してなければマルコ・アセンシオが、評価額次第ではケイラー・ナバスやマルセロ、モドリッチが欲しかったはずだ。レンタルならベイルもアリだっただろう。
しかし、これらのネームのほとんどが両クラブのプロテクトに入っていたことは想像に難くない。逆に、両クラブが売りたい選手のほとんどは、PSGがレンタル候補としてしか見なしていない選手で、これでは2億ユーロほどの現金を足さない限りトレードが成立するわけがなかった。

結局、ネイマールのような大物を取るためにはそれなりの犠牲が必要で、その犠牲を生む覚悟がスペインの両クラブに足らなかったというのが結論になるだろうか。題名の問いの答えは、「覚悟があれば成立した」なのだろう。

みなさんご存じの通りネイマールの移籍は実現せず、実際に起こったトレードはナバス⇄アルフォンス・アレオラ(レンタル)という拍子抜け案件だけだった。これを書いていた1年後、何が正しかったかはわからないが、現状は何かを物語っているような気がする。

≪お断りックス≫
この記事は2019年8月31日に執筆し、2020年9月1日に加筆したものです。そのため時制・時系列が乱れておりますがご了承ください。

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