なんて楽しいんだ

4月の最終日、私は球場でプロ野球観戦をしていました。一球一球、一つ一つのプレーに夢中だったその瞬間に知らせを目にしました。詩人として画家としてご活躍されてきた星野富弘さんがお亡くなりになられたという知らせを。自分で自分の頭や顔から血の気のようなものが引いていく感覚がしました。10年前の大学生時代に星野さんの詩を合唱として歌うようになってから、星野さんの詩、自叙伝、絵画に励まされてきた私にとって、その知らせはとても寂しいものでした。

直後、スタジアムは大きく盛り上がりました。私の応援していたチームに得点が入ったようでした。この世を去った人がいて、そのことに悲しんでいる人間がいて、でも何事もなく日常は進んでいる、そんなことを肌で感じました。

歓声に包まれた球場で涙をこらえていた私は、悲しいながらもどこか楽しい気持ちを感じていました。4月に一生懸命働いて、ようやく迎えた月末の連休にスポーツ観戦をしている。なんて楽しいことなんだ、と。そして何より、日常に幸せや楽しみを感じるきっかけを与えてくれたのが星野富弘さん。お会いしたことはなくても星野さんのおかげで、いま楽しいって感じている、楽しい野球観戦ができている、そう思うと涙がいっそうこぼれ、でもいっそう楽しい感覚が湧いてきました。今が楽しいって思えれば思えるほど涙も流れました。

この先、野球観戦の時の楽しみが吹っ飛ぶような絶望も幾度となく襲ってくるでしょう。それに、今までの人生を振り返ると、どんな楽しい幸せがきても消えないような辛いことがありました。でも、その時の私は確かに楽しみ、楽しんでいる自分に感動していました。

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