【断髪小説】彼の気を引くために②
楽しいお買い物デート?を終えた私に、穴を開けたゴミ袋が被せられた。
ケープを買い忘れたことに気づいて慌てて近くのコンビニでゴミ袋を買ったのだった。
目の前の鏡に映るのは、お洒落な服を着て、可愛らしい髪型をして、ゴミ袋を被った私。
ゴミ袋を外すときには、どんな姿になってしまっているのだろうか…。
「じゃあ、いくよ。本当にいいんだね?」
「うん、お願い。かわいくしてね?」
私の髪を切ることで緊張する彼と、彼が近くにいることで緊張する私。
4000円で買った小さめの洋裁ハサミが、私の首筋に触れた。
ヒヤリとしたと思ったら、私の髪だったものがバサリと床に落ちる音がした。
毛先が肩に触れて少しチクチクするな。
真剣な彼がハサミを動かすたびに、バサリバサリと髪が滝のようにこぼれていく。
私はあっという間に、半分がボブ、半分がロングという奇妙な髪型になってしまった。
「ごめん、先にブロッキングして刈り上げてた方がよかったね。短いと少しやりにくいかも」
今更そんなことを言いながら、彼は私の髪をクチバシで留めていく。
「よし、ちょっと待ってね」
そう言いながら、バリカンを準備していく彼は、冷静を装っているものの股間の主張を隠し切れてはいない。
「どのくらいの長さがいい?」
「どのくらいがいいかなぁ?」
「いっそ一番短いのでいっちゃう?」
「えー…。まぁでも、かわいくしてくれるならなんでもいいよ!」
「ほんとに?アタッチメントなしだよ?」
「かわいくなるんでしょ?」
「わかった」
そういうと、彼はアタッチメントを外したバリカンを私のうなじの、まだロングの部分に入れた。
バサバサ、と先ほどとは比べ物にならない量の髪が落ちていくように感じる。
うなじから入った冷たい感覚は、どんどんと上へと上がっていく。え、待って?そこって耳の高さよりも上じゃないの?遠慮がちに聞いておいていきなりそんなに刈るの?
私の驚きをよそに、バリカンは再び、そして何度も、私のうなじへと侵入してくる。その度に、バサバサと今までに経験したことのない量の髪が、足下へと移動する。
足下に目をやると、今朝コテで巻いた髪が、かわいく巻かれたままの形で床に落ちていた。
ああ、あんなにケアしていた髪が…。
「とりあえずこんなもんかな」
そういって彼はスマホで私の頭を撮影し、私に見せてくれた。
耳のラインから上が、サラサラな私の髪の毛。下が、青くてザラザラな、少し惨めにも思えるような私の頭。
「すごいね…」
「まあでも、上の髪を下ろしたらこれも見えなくなるから大丈夫だよ」
彼はそういうと、ブロッキングを外して再びハサミを持った。
「今から全体を整えていくんだけど、前髪はどうする?」
「あー…。考えてなかった。かわいくしてくれるなら好きに切ってもいいよ?」
「わかった」
そう言って櫛で持ち上げたかと思うと、彼は鼻先まであった私の前髪を眉毛の少し下でパッツンと切り揃えていった。
かなり幼くなった、半分おかっぱ、半分ロングの私が鏡に映る。まさか半分刈り上げおかっぱにされているなんて、今朝起きたときには夢にも思わなかった。
シャキンシャキン
私が感慨に耽っている間にも、私の髪は流れ落ちていく。
あっという間に、おかっぱ頭が完成した。
「かわいくなったじゃん」
彼は少し前屈みになりながら満足そうにいった。
「ほんとにぃ?」
鏡に映るのは少し芋っぽい髪型のおかっぱの女で、おまけに後頭部は触るとザリザリとする。
「ほんとほんと。このあと俺が片付けておくから、シャワー浴びて髪流したら先に帰っててもいいよ」
あ、え、まずい、このままでは彼との時間が永遠に終わりを告げてしまう…。
続く
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