【断髪小説】賭け

放課後の教室、みんなが見守る中、クラスで1番の美少女の佐藤あかりと、サッカー部のお調子者の山田大樹の頭にゴミ袋が被せられた。

ことの始まりは1ヶ月前に遡る。
どういう経緯かはわからないが、
「一教科でも勝てなかったら私が坊主、全教科私が勝ったら山田が坊主、それでいいでしょ?」
佐藤さんのそんな声がクラスのざわめきをしんとさせた。
「いいぜ、言ったな、覚えとけよ。クラスのみんなが承認やからな」

山田が勝てば佐藤さんを坊主にできる!
その日から俺の放課後を全て山田に費やすことにした。山田の家庭教師を買って出たのだ。

馬鹿な山田に正攻法での勝利は期待できないので、ひたすらに日本史を叩き込むことにした。

そして無事テストを終え、答案返却の日が来た。

もはやクラスの一大イベントとなったこの勝負。
どちらが坊主になるかの臨場感を出す為に、俺が一度二人の答案を封筒に入れてあずかり、放課後に開封して点数を読み上げていくことになった。

そして、山田と佐藤さんが放課後に椅子に座り、賭けに負けた方の頭に野球部から借りてきたバリカンが入ることになったのだ。
もちろん、その大役は俺が買って出た。

「じゃあ読み上げていくぞ、二人とも覚悟はいいか?」
「よゆーよゆー。早く佐藤の坊主が見たいわ」
「吠え面かくのは山田だから、早くして」

封筒から答案を取り出す。
「まずは数学。佐藤さん96点、山田6点」
「プッ、6点とか」
「いいから早く続けろ」
噴き出す佐藤さんと少し不貞腐れるになる山田。彼は日本史に全振りしたため、ただでさえ悪い他の科目の点数が壊滅している。

「国語、佐藤さん89点、山田18点」
「余裕ね」
「次行け次」
「英語、佐藤さん94点、山田7点」
「プッ、ラッキーセブン」
「次」
「化学、佐藤さん78点…」
佐藤さんが坊主になるチャンスに教室が「おおっ」と盛り上がる。
「山田2点」
どこからか、ため息が漏れる。みんな美少女の佐藤あかりが坊主になるところを興味本位で見たいらしい。
「今までの全教科足しても1科目の赤点以下とかヤバっ」
「次行け、次」

ここでニヤッとしたのは、山田ではなく佐藤さんだった。
「山田が日本史に全振りしているのはとっくに知っているのだよ」
「うっさい、早よ読み上げろ」

みんなの視線が俺に集まる。
「最後、日本史。佐藤さん100点」
「やった!ほら、ざまあ!ざんねーん!」
両手を上げて大喜びする佐藤さん。
綺麗に巻かれた髪を山田に向けて見せびらかす。

俺はバリカンのスイッチを入れた。
「ほら、早くバリカンを入れちゃってよ!」
顔を赤くして興奮した佐藤さん。そんな佐藤さんの頭頂部に、俺はバリカンを入れた。

ジジッジジジ

「は、え?」
状況を理解できない佐藤さんの綺麗な髪が、ゴミ袋の上を滑り落ちる。

「山田、100点。引き分けで佐藤さんが勝てなかったから、賭けは山田の勝ち」

教室のみんなは頭頂部だけ髪を1mmで刈られた佐藤さんを見てドン引きしている。
山田さんの目から、大粒の涙が溢れる。

「なんで?なんで?私、私、こんなにいい点数取れてるじゃん」

山田さんの頭頂部に再びバリカンを走らせる。

「ちょっと、やめてよ、私の大切な髪、やめてよ、酷いことしないで」
前から見るといつも通りの可愛い佐藤さんだが、もう河童頭でしかない。

俺は鏡を見せて聞く。
「こんなんになってるけど、本当にここでやめていいの?」
「あ、あ、あ、いや、いや、いやぁぁ、いや、いや、返し、返して、私の髪、いや、いやぁぁ」
号泣する佐藤さん。メイクが崩れていく。

このままでは埒があかないと思い、再び刈り始めることにした。
うつむいて泣く佐藤さんのうなじからバリカンを走らせる。
髪がザザザ、と溢れていき、そのたびにシャンプーの甘い香りが鼻をついていく。
そして目の前に残されるのは野球部よりも短い青白い頭皮。

バリカンを走らせるたびにすごい量の髪が床を埋めていく。
佐藤さんが泣いて動くため、少し虎刈りのように残っているところもあるが、仕方ないだろう。

「佐藤さん、ほら、顔を上げて?」
優しく声をかけると、佐藤さんが泣くのをやめてこちらを見上げる。
そこで、可愛らしく残っていた前髪を刈りとった。
「いやぁぁぁぁぁ!」
また佐藤さんは大声を出して泣いてしまった。

教室のみんなも、山田もドン引きしている。

こうして、クラスで一番の美少女だった佐藤さんは、野球部よりも短い1mmの青々とした丸坊主になった。

タイミング悪く、佐藤さんは卒アルも丸坊主で写る羽目になり、末永く俺のおかずとなったのだった。

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