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小寒 第六十七候 芹乃栄

二十四節気は冬至から小寒へ。寒の入りを迎えて日本は冬本番でしょうか。NHKの海外放送で見る日本の大雪や寒波は、まさしくそんな季節そのものです。
けれど七十二候には、冬至から少し春の気配が感じられ、第六十七候(1月5日から1月9日)も、芹乃栄 、せりすなわちさかう。冷たい水の中でも繁茂し始めた芹の青々とした様子です。

チェンマイでは、芹も残念ながら夢のまた夢ですが、香り高いハーブは日本に負けずたっぷりある国。七日には、七草に拘らずお気に入りの香草やスパイスを浮かべたお粥をいただきました。

年末から1月下旬にかけてのチェンマイの、冬から一気に夏へと向かうお天気の変化はそれは目覚ましいもので、山では梅やヒマラヤ桜が咲き、街では暑い季節の先触れの黄色や紫の花が咲きはじめ、朝夕こそまだ肌寒いものの、それも目に見えて柔らかくなりだし、午後の気温は30度を超えるようになって(とはいえ、乾いているので暑くなく、日陰や室内にいる限りはまだひんやりと感じられますが)、名残惜しいけれど、短い熱帯の冬が後半にさしかかってきたのを感じざるを得ない空模様になりつつあります。

そんな、冬終わりの予感に、ひんやりした空気が名残惜しく思える頃に咲くのが、フタバガキ科ショレア属のパヨームの白い花。芹とは全く違いますが、命が勢いを増す先触れのようでいて、瑞々しくもどこかひんやりした様子は、なんだか通じるものがある気がします。

このパヨームの木が、会社に行くのに毎朝通り抜ける大学の中の道には沢山生えていて、花が季節の移ろいを知らせてくれます。

朝日を反射して、影も見当たらないほどに輝く白い花に覆われた背の高い木が道の左右に並び、イリスにも似た花の香りがあたりに漂い、散った白い小さな花が地面を覆ってまるで雪が降ったようになり、その白さにあたりは現実離れした雰囲気につつまれていて、つい車を止めて花を見上げたり、木のそばへ行ってみたりしてしまいます。

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普段は淡々と掃除をしているガーデナーの人たちも、散った花を掃き集めながら、花や木を指差したり梢を見上げ、通りがかる人たちと言葉を交わしたり、パヨームの白い小花と香りが作り出す、普段とは異なる酩酊にも近い感覚を感じているようです。
しめやかな花の香の中、その白さは幻の雪化粧を見ているような気もし、それはいつも三島の『春の雪』へと連想がつながってしまうのですが、多分、この木が沙羅双樹の沙羅の木だからかもしれません。

仏陀が涅槃を迎えた時、その両側に生える沙羅の木たちはその死を悲しんで俄か咲き、尊い亡骸の上に降り注いだといいますが、この白い花と香りは、そのような場面にもいかにも、ふさわしいと思います。
けれど、タイで沙羅双樹に見立てられているのは何故か南米産のホウガンノキというイソギンチャクに似た肉感的な、正直に言うなら、ちょっとグロテスクな花を咲かせる木。(下の写真)

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なぜ、東南アジアにもとから育つパヨーム(しかも、インドやネパールでは、名前もずばりサールの木!)があり、かつてチェンマイはこの木の林が方々にあったというのに、なぜこんな捩れが起きてしまったのか?不思議でもあり、残念で仕方なくもあったりします。
パヨームの白い花の森の中に、金や白のパゴダやお寺があったら、絶対美しいのに!

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