ペアダンスの楽しい思い出 〜ミロンガ編〜

私は社交ダンスからはじめてその後アルゼンチンタンゴをはじめた。社交ダンスでは曲を途中で切り、1曲ごとにパートナーチェンジするのが当たり前だったので、アルゼンチンタンゴのレッスンで1曲踊りきることや、ミロンガで4曲同じパートナーと踊ることは、最初のうちはしんどかった。

しかし徐々に、同じパートナーと連続して長時間を踊ることはとても楽しいことだと気づいた。曲の合間にちょっとした雑談ができたりして、たとえば「この曲たのしかったですね」「この流れだと次はあの曲かな」「前の曲であそこをちょっと間違っちゃった」とか他愛もない会話をしやすい。これが1曲きりだと「ありがとうございました (ばいばい)」でおしまいだったりする。
また、なにより楽しいのは、連続して同じパートナーと踊ることで、テンションが徐々に上がっていき、相手との一体感も徐々に上がっていくことだ。

あるミロンガ (ダンスパーティ) にたまたま参加した日のこと。私はまだミロンガ特有のカベセオというパートナーを誘うルール?マナー?テクニック?を身につけておらず、それほど自信もなかったのでパートナーをうまく誘えず座っていることが多かった。その日もそうしていた。
すると・・・。金髪碧眼の女性が正面からスカートをぶんぶん振り回しながら一直線に私の方に向かってきたのだ。言葉は通じなかったが彼女の「踊りたい!」というパッションがばしばし伝わってきて「お…お願いします…」と言って踊ることになった。
彼女と組んだ瞬間から、彼女の音楽とダンスに対する情熱がアブラッソ (ホールド) を通じて私に伝わってきた。これは100%集中し、100%の全身全霊で踊らないと振り落とされてしまう、そう感じるほどだった。
リードするのは私の役割のはずだったが、彼女から「ほら行け!もっと大きくダイナミックに行けるでしょ!」とリードを先読みして私をどんどん高めてくれる、そんなフォローだった。
1曲踊りきっただけで汗だくで満身創痍。しかしテンションはまだ上がりきっていない、そんな感じだった。
2曲、3曲と踊っていくうちに、私と彼女の間で余計なものがどんどん削ぎ落とされていき、飾りのような技はなくなり、一体感がどんどん高くなり、音楽を表現することだけに集中していった。
そして最後の4曲目を踊っているときには無我の境地というべき状態になっており、パートナーとだけでなく音楽とも一体化したような、そんな状態となっていた。

言葉が通じない相手だったが、私たちはたしかにそのとき、言葉以上の会話をしていたのだと思う。
踊り終わったあとは二人とも笑顔で「Thank you!」と言いながらハグをして別れた。

その後、ミロンガ主催者の方に聞いたところ、彼女はロシアから来た方で、いろいろなミロンガを転々と回って踊る旅行をしているのだそうだ。日本の気になるミロンガを回ったあとは、そのまま韓国に行くのだとか。
その生き方はとても素敵だなと思った。
ミロンガではいろいろな出会いがあるのだろうが、求めるのはおそらく、一期一会のパートナーと全力で最高のダンスを踊りたいということなのだろうな、と。

パーティダンスが主体のアルゼンチンタンゴという世界では、そういう生き方をしている人がいるということに、私はとてもうれしく思った。社交ダンスでそういった方とはまだ出会ったことがない。
そして、あそこまで一体感あるダンスを踊れたのは、同じパートナーと連続して踊る文化があるおかげだと思った。DJさんの選曲のおかげで連続した曲間につながりがあってテンションを継続できたのも大きい。こういった文化は、社交ダンスをはじめ、ほかのペアダンスにもぜひ取り入れてもらいたいと強く思った。

ペアダンスの楽しい思い出というのは、いろいろな形でいろいろあったが、まずこれを挙げさせてもらった。
楽しかった!

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