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時空を超えたメリークリスマス作戦 オープニング

サンジャスすごろくレースゲーム本戦 時空を超えたメリークリスマス作戦のオープニングテキストです。

12月24日 札幌市 ローズメード

その日、仕事を終えて破滅の人形に追い出されたローズメードは、札幌市豊平区の坂道を下っていた。今年の冬は暖冬で、12月下旬にも関わらず路面が見えているような状態であった。除雪費用はかからないがその分、冬場の仕事がない建設業界が困っている。

「まったく、うまくいかないもんよねー」

両手にかかえた紙袋からは甘い匂いが漂う。ふわふわ、しっとり、サクサクとバラエティ豊かなメロンパンは、ダクシスの新商品の試作品だ。休戦期間とはいえ、いや、休戦期間のほうがダクシスは忙しい。

戦争という巨大な底なしの消費が消えたからといって、シノギをやめるわけにはいかない。あの手この手で消費者の財布のひもを緩め、経済を回さなければならない。

ふと、気になって伝書鳩の周波数の設定を変える。数日前に人形から頼まれて、フロアマネージャーたちと連絡が取れた設定だ。次の日に同じ設定にしてみたものの、つながらなかった。

それ以来、毎日挑戦している。場所を変えても、時間を変えてもつながらない。この日もつながらなかった。

「う、やっぱり。もう、何よこれ!壊れてるんじゃないの!?」

苛々として大きく踏み出すと、ブラックアイスバーンに足を取られて転んだ。地元人でも油断すると転ぶのが冬の道である。周りを見回す。誰もいない。それはそれで恥ずかしい。冬道は怖い。

慎重に立ち上がると、目の前にサンタクロースの形のイルミネーションが光っていた。今宵はクリスマスだ。

「サンタクロースか……」

サンタクロースの実在は、昨年のクリスマスに証明されている。
望んだプレゼントを狙った相手に届ける凄腕の手配師。奴ならば…

「フロアマネージャーにつながる伝書鳩を用意できるかもね」

奇跡的に一つも道路にこぼれなかったメロンパンの紙袋をひろうと、ローズメードはまた歩き出す。押し入れにはサンタの衣装と、衣装が入っていたプレゼント受け取り用の特大靴下がしまってある。
まずは、それを枕元に用意するのだ。

12月24日 島根県某市 鈴木流星

鈴木流星は、兄とともに自宅を監視していた。いや、させられていた。西日本といえ、冬の夜風は冷たい。

兄の遊星は、傍らのホログラムウィンドウで上空を監視しながら、時折双眼鏡で玄関をのぞいている。自宅の玄関を。

「はっきり言います。兄さん、もうあきらめて帰りませんか?」

「いや、今年こそサンタクロースの姿を拝んでみせる。そのために、プロトワダツミも6機手配した。さすがにこれだけの要塞機のレーダー網をかいくぐることはできないだろう」

「兄さん……はっきり言います。それ、生徒会長や水前寺さんの許可とってませんよね?」

「当たり前だろ。あいつらが許すはずがない。それに男には秘密が必要だってゴンも言ってたぞ」

「それ、ただの軍規違反ですから!」

「はいはい。戦争に使われるよりはこいつらだってマシだろ。なんたってサンタクロースだぞ」

家の周りの山林にはよく目を凝らすと特徴的なフォルムがうずくまるように待機しているのが見える。
範囲内で分かったのは1機だけだったが、どうやら6機いてそれぞれのレーダーをリンクさせているらしい。
要塞機6機もいれば街を一つ攻略できる規模だ。流星は頭を抱える。

「本当にある……はっきり言います!非常識です!……ヘックチンッ」

「なんだ、風邪か?」

「風邪もひきますよ。こんな寒い中もうずっと立ってるんですから」

「そうか。っと、雪も降ってきたもんな」

遊星は、するっと首元のマフラーを取る。

「貸してくれるんですか?」

「いや、風邪ひきたくないから、しっかり巻き直そうかと思って」

「去年もそんなことしてましたよね!貸してください!」

流星は、遊星の手元からマフラーを奪い取ると、しっかりと首元に巻く。

「あ、何するんだよ!」

「はっきり言います。それ以上近づいたり、身につけたもの奪ったりするなら大声をあげて訴えます」

風はいつの間にかやんで、綿のようなふんわりとした雪がまっすぐに空から降っていた。
サンタクロースはまだ来ない。

「委員長、最近見ないですね」

「ああ、そうだな」

サンタクロースはいないというのを流星は知っている。

知っているけれど思うのだ。

年に一度、奇跡が起こるのならばクリスマスはぴったりなのではないかと。

12月24日 東京某所 京極晴也

深夜の東京、カスミガセキ本部。京極晴也は、中庭に設置された大きなもみの木を満足そうに見上げている。

カラフルなイルミネーションとオーナメントに飾り付けられたクリスマスツリーには、何故か願い事の書かれた色とりどりの短冊が並んで風に揺れていた。

南京錠も並べて置いたら、何組かのカップルが枝に引っ掛けていった。今年のサンタクロースは、贈り物をしたにもかかわらず、ほかの願い事まで頼まれ、さらに恋人たちの見守りまでさせられるのだ。まさに理不尽。不条理。素晴らしい。

「おや、これは……」

【精強・至誠】【ミスをしても許してくれる上司をください】【身長が伸びますように】などの願い事のかかれた短冊の横に、【物資搬入許可】、【航空制限地域への侵入許可】、【個人情報取得許可】、【無線使用許可】などの短冊がイロハの筆跡で書かれている。

見上げれば、ひときわ大きな軍用ビーコンがもみの木の頂上でゆっくりと明滅していた。
このところイロハは体調を崩しがちだ。山田によると監察官と連絡がとれなくなったころから、不調が続いているらしい。

多数の許可短冊の裏にひっそりと隠れるように、同じ字で書かれた短冊があった。

【頭を撫でるのを要求する。それとクリームあんみつ】

「そうか……」

文字を指でなぞって確認すると、もみの木に背を向けて歩き出す。
建物の角を曲がると、ばったりと藤堂サキに会った。

「局長……なっ、ななな」

「やあ、藤堂くんじゃないか。ちょうどよかった。これは君へのクリスマスプレゼントだ。それと……口止め料でもある。僕とあったことはこれで黙っておいてくれたまえ。それではメリークリスマス!」

「な、なななな」

顔を真っ赤にしている藤堂サキに白いトナカイサンタのぬいぐるみを持たせると、晴也は堂々と歩きだす。
次の角を曲がると、木村一郎が壁に背を預けて立っていた。

「やあ、木村君」

「こんばんは、局長。随分と今日は冷えますが、寒くはないのですか?」

「心頭を滅却すれば火もまた涼しというものだよ」

「そうですか。もう遅いですがどちらへ?」

「いやなに、すこしサンタクロースの手伝いをしようかと思ってね」

「なるほど。それならこれが役に立つかもしれませんね。僕からのクリスマスプレゼントですよ」

「悪いね、ありがたくいただくとしよう」

木村が差し出した赤と緑と白のクリスマスカラーの仮面をつけると、晴也はまた歩き出す。

木村が言うように、少し寒くなってきた。羽織っていた冬用の厚手のコートの前を閉めると、すっかり赤いふんどしも白く引き締まった裸体も見えなくなった。

「さて、それでは露払いといこうか」

晴也はパチンと扇子を閉じると、格納庫の中へと消えていった。

12月24日 日本のどこか

「サンタクロースが実在すると信じる大人は少ない。だが、本人が信じていなくても、サンタクロースが実在すると、誰かに信じさせることはできる。言い換えるなら、サンタクロースを信じない人でも、誰かのサンタクロースになることはできる。」(三極ジャスティス[Xmas]使徒・ローズメードより)

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