あの事件「お菓子の中のフエラムネ事件」

 もう10年以上も前、わたしが21歳だった頃の話だ。

 わたしが勤めている職場では、お盆休みや年末年始などの長めの休暇の前の最終出勤日に部署の全員が集まって上司の挨拶を聞き、それが終わると取引先から頂いたお中元やお歳暮を部署のみんなで分けるという習慣があった。

 その当時はお盆休み前だったため、短い夏休みをどう過ごそうかなとわくわくしながら上司の話を適当に聞き流し、その後はいつものようにお中元を分け合う時間になった。

 「1人1個持っていってね」と机に置かれた缶の中身は、よくあるしょうゆや海苔のおかきだった。その時はあまりおかきの気分ではなかったわたしは、ふと缶の片隅に1個だけフエラムネのようなものがあるのを発見した。まあこれでいいか、とそのラムネを取り、夕方の空腹も相まってそのまま袋を破って勢いよく口の中に放り込んだ。

 するとその瞬間、口の中に広がったのはおよそラムネではない薬品のような味だった。簡単には噛めないほど硬く、なんだか舌もぴりぴりと痺れてきた。とにかく食べ物とは思えない味や食感やにおいであったことを今でも鮮明に思い出せる。

 すぐさま吐き出したい衝動に駆られたが、上司や同僚たちの目もあるためそれも躊躇われる。不味さが有名になる海外のお菓子もあることだし、これもきっとその類だと自分に言い聞かせ、硬い硬いそれを無理矢理奥歯で噛み砕いてどうにか飲み下したのだった。

 その出来事はその場ではなんとなく誰にも言うことができなかった。後日、その場にいた同僚の1人と食事に行ったときに「そういえばこんなことがあったんだけど……」とふとその時のことを話題に出した。当然、同僚は「そんなものあったっけ」と不思議顔である。「あったよ! 1つだけ!」と答えると、同僚から返ってきたのは「それ、乾燥剤じゃない?」という答えだった。その言葉を聞いたわたしははっとした。思い返すほどに、あの異常な硬さと味は明らかにお菓子というよりも乾燥剤と考えたほうが納得できるのだ。20歳も過ぎているのに乾燥剤を誤食してしまったのか……? という衝撃で呆然とするばかりだった。

 しかし、乾燥剤を誤って食べたにしては、あの後驚くほど体調の変化も何も起こらなかった。私は元々胃が強いほうであるという自負があるので、薬品などものともせず消化してしまった可能性もある。インターネットで「ラムネのような乾燥剤」などで検索をかけてもそのようなものは見つけることができない。あれはただの不味いお菓子だったのか、本当に乾燥剤を食べてしまったのか、10年以上経った今でも真相は闇の中だ。

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