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「呪」について

以下の文章は当たり前だが"In my opinion"である。学者の権威ある見解でもなければ、この世のすべてを見てきたと言わんばかりの年寄の説教でもない。自分にとってとても身近なものを、自分の言葉で整理したものに過ぎない。
(考えてみれば変な言葉だ。この世のありとあらゆる文章が"In my opinion"である)

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「呪」とはいかなるものか、はるか昔からすでに多くの社会学者、文化人類学者、作家が調査、研究しているので、もしそれについて知りたければ、先人の本を読めば事足りる。
しかし、「呪」という概念/行為は、あらゆる人の生活に密着したものであり、思想や行動に深く影響を及ぼすものなので、権威ある学者のお仕着せの発言をそのまま飲み込んでしまうわけにはいかない。自分の人生をどう生きるかを誰も教えてくれないように、自分の人生の根本の原則 / 理念 / 基本動作は、自分の言葉で語り直す必要がある(先達の叡智を無駄にしてはいけないことは無論のこととして)。

「呪」という文字を見てぱっと思いつくのは、人を呪ったりする悪い行為のことであろう。牛の刻参り、呪殺、呪詛、呪術、祟り...。
しかし、それは「呪」のごく一面に過ぎないと思っている。「呪」は、僕たちが想像している範囲よりも大きい。さらに言えば、我々人類はすべて呪術師であり、呪術を毎日行使しているとすら思っている。

「呪」とは、
実行者(呪術師)が、物理的手段ではなく、精神的/心理的手段を用いて、この世界の混沌を、望むとおりに分離 / 結合 / 認識 などの操作を行う行為 と定義しよう。

この真逆の行為を想定することは容易いだろう(「真逆の行為」に対する良い命名が思い浮かばない)。
実行者が、物理的手段によって、この世界の混沌を望む通りに分離 / 結合する行為。
これは何かというと、椅子を作る、ストレッチやスポーツをする、歩く、食べる、喉の筋肉を収縮して、音の波を作り出す(話す)。
この世界はまるで、巨大な粘土のようにぐちゃぐちゃにまとまって、くっついて、未分化で、混ざり合っている。これを「世界の混沌」と呼ぼう。その巨大なカオスの粘土を、実行者が好きなように形作ったり、壊したり、何かと混ぜたりするのが僕たちの日常だ。もちろん、実行者の人体そのものも世界の混沌に含まれているから、息を吸って吐き出しているだけで、カオスの粘土をいじっていると思ってくれて差し支えないだろう。
(後述するが、「呪」と「物理的手段」は真逆の概念だが密接に結合している。椅子を作ろうとしてノコギリを引く動作は「物理的手段」に他ならないが、そもそも単なる「木片」の集合を「椅子」と命名 / 認識するのは「呪」である。さらに、炭素の集合体を「木片」と認識するのも、おそらく最小単位の「呪」である)。

「呪」の話に戻ろう。
精神的/心理的手段を用いて、この世界の混沌の粘土をこねるにはどうしたら良いか。「命名」と「認識」によっててである。世界の混沌を、呪者が望む通りグルーピングし、まとめて集団に対して名前をつける。そして分類する。もし世界の混沌から、かつて「命名」したものと極めて似通ったものが再度見つかった場合は、それは「命名」されたものと「認識」される。「命名」なくして「認識」は存在しないはずである。
「命名」は最も古く、最も原始的で、最も一般的な「呪的行為」である。
犬に、猫に、子供に、ぬいぐるみに、コンビニのパンに、炭素やH2Oの集合体に、みな、名前をつけて、認識している。

さて、ここまで書いて、少し悩んでいる自分がいる。これでは「呪」の意味があまりにも大きすぎる。一般的な認識行為全てを「呪」に含んでしまっている。「認識」することは、人間である限り、死ぬまで行っている行為だ。ということは意識だとか、存在だとかも「呪」に結びついてしまい、しまいには「全ては呪だ」というような言葉すらまかり通ってしまう。「この世界の全ては愛だ」とか「神は愛である」だとか言う言説と何も変わることはない。
あまりにも多くの事象を一つの言葉で包含してしまうことは、何も包含しないのと同じことだ。もう少し解像度を上げていく必要がある。強力な呪術が欲しければ、力を効率的に集中させるのが良いだろう。

実は 全ては愛だ という考えには割と賛成である。そのとおりである。世界の混沌はそれ自体で価値基準を持たないが(「価値」という概念、システムも、人間の「呪」であることに留意)、その全ては愛によって形作られている。これは宗教的なインスピレーションを伴う話なので、証明したり説明するのは不可能だと思う。ただ、そう信じたい、と僕が願っているだけなのかも

つづく

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