一部の謝罪におけるテクニック、あるいは誠意の示し方の具体例。

先日、Twitterのスペースでお話をしていたときに、スピーカーの方のお一人(仮にAさんとします)がスマホで話しながらJRで移動されてまして。
で、改札を出る時にAさんはご自身のICOCAを紛失されてることに気がついたんですね。スペースに参加されていた人は全員心配しましたが、「大丈夫大丈夫」と気軽な様子で、Aさんはさんは駅員さんへ事情を説明にいきました。
その時にAさんが使った言い方が、実に模範的な「謝罪」のやり方だったんです。

「すいません、ICOCAを移動中に落としちゃったんです。○○駅から乗ったんで現金で精算したいんですけどよろしいですか?」

こう切り出した後、駅員さんからは「このあと落とし物で届くか確認する」「今回は料金精算はいいから通って良い」という返答があり、Aさんは何も支払うことなく改札を抜け、そのままスペース参加者に挨拶をして会話を終了し、お仕事に向かわれました。

その後、他の参加者さんが「Aさんはやさしい駅員さんに当たったなぁ(意訳)」という話をされたのですが、私を含めた年長者組はその時「そうじゃないよ、Aさんの言い方と態度がよかった結果なんだよ」「世の中、謝り方が上手な人と下手な人がおるねん」という話をちょろっとしたんです。もし今この記事を御覧の皆様の中でAさんの言い回しの妙がご理解いただける方がおられましたら、もうこの記事はこの先を読まなくても大丈夫です。

今日は、その時スペースで語ったことに若干の付け足しと応用例を付け加えたお話をしてみようかと思います。

1.謝罪は最初がすべて

先程のAさんの発言を再掲してみましょう。

「すいません、ICOCAを移動中に落としちゃったんです。○○駅から乗ったんで現金で精算したいんですけどよろしいですか?」

この2センテンスの中に含まれている謝罪において大切な点を解説していきたいと思います。

・「何をしたから申し訳ないと考えているのか」を伝える

Aさんはまず一言目で「ICOCAをどこかに落としてしまい、通常のやり方で改札が通れなくなった」ことに対し、「申し訳ない」という気持ちを駅員さんに対して伝えています。この「申し訳ない」は、駅員さんがその後行わなければならない数々のご苦労(ex.落とし物の照会、処々の手続き等)に対しても向けられていることも重要です。
これを開幕の一言目で伝えること、これが何よりも重要なのです。自分のしてしまった悪いことで、謝る相手に迷惑をかけることを自覚していることをしっかりと伝える必要があります。

・「その過失を自分の側から十分に償う意志があること」を伝える

通常、きっぷや定期券を乗客の過失で紛失した場合は「乗客の側が降車駅で運賃を支払う」ことが取り決められています。Aさんはそれを当然のこととして駅員さんに申し出て、自分の過失を最大限に埋め合わせることを願い出ています。実は、これが何よりも大切なことなのです。
それは「自分側に過失がある場合、どうすることで相手への最大の贖罪・誠意になるか」をきちんと把握していることを伝えているからです。そして、その贖罪行為の裁量を相手に委ねていることも(当然のことながら)好印象です。許されるためにできる最大のことをする、という意思表示は、謝罪を最も好意的に受け止めてもらえるテクニックでもあります。

この2点が謝罪の第一声に盛り込まれていたことにより、Aさんは乗車区間の運賃の二重払いも長時間の拘束もなく、お互いにとって極めて気持ちの良い形でこの一件は解決することになりました。(まぁ、この時点ではAさんのICOCAが見つかってないんですが)

2.よくない謝罪のやり方集

上の2点をよい謝罪のやり方とした上で、よくない謝罪の方法についてもこの「移動中にICOCAを紛失し、そのことに改札を通る時に気付いた」というシチュエーションに則って解説してみようと思います。

例1、「すいません、ICOCAを落としちゃったんですけど通っていいですか?」

0点オブ0点です。
ざっくり何が悪いのかを箇条書きで解説すると、

・落としてしまった状況の説明がない。
・贖罪の意志がない(再精算をする気がない)
・本来駅員さん側の譲歩、裁量である「改札をそのまま通っていい」を、当たり前の前提として提案している

という、極めて心情的に悪である地雷が3つも埋まっています。総じて誠意の見られないこういう発言をのっけから繰り出す人間へ譲歩をしたくなる人はまずいませんので、これを第一声にしてしまった場合は運賃の再精算を申し付けられる可能性が非常に高くなると思われます。

例2、「ICOCAなくしちゃったんだけど、どうしたらいいですか?」

ギリ大学生くらいまでなら許される発言です。何故なら、その年頃であれば料金の再精算について本当に知らないと見做される可能性があるからです。
ちなみに社会人(ないし、実際の年齢が関係ないネット上の行動)であれば知っていて当然レベルくらいの知識であるというのが世間一般の解釈になるため、こうしたナメた発言をした人間への当たりは相応にキツくなります。「規定では料金を再精算してもらうことになってますので~」みたいなことを言われておしまいですね。

また、こうした「(許してもらうには)どうしたらいいですか?」という発言は「相手に自分を許すための裁量をすべて預ける」→「自分では何も考えていない」→「総じて謝罪に対して真摯な姿勢ではない」という捉え方をされがちなため、非常に心証を悪くします。

例3、「なくしたけど私悪くないので通してください」

例1が0点なら、こちらはマイナス5000兆点です。

確かに意図してICOCAを落としたわけではないので、落としたあなたからすれはとても理不尽な状況になった、と捉える気持ちはあるかもしれません。しかし、「自分の持ち物に対する責任」は常に持ち主にあるもの。大切なものを落とさないことに対して十分な意識を向ける努力を怠った点で、あなたは十分に「悪い」のです。
また、落としたことによる捜索の労力、事務手続きの労力などのご迷惑を駅員さんへかけることに対してあまりにも無頓着です。「自分の至らなさと、それによる社会へかける迷惑」を当然のものとする厚顔さは、謝罪以外のあらゆる場面においても悪影響しかありません。即刻反省したほうがいいです。

3、まとめ

こうした謝罪のやり方は、ネット上で謝罪の文章を考える場合にも大いに流用できます。
たとえばSNSのアカウントを凍結させられたり、MMORPGのキャラクターをBANされたりした場合、当然運営側とコンタクトをとる必要がありますよね。その時に開口一番で

「誤BANだと思うので確認してすぐに解除してください」

というのと、

「今回はお手数をかけまして申し訳ありません。ご指摘のBAN理由にありましたように○○の件でご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありませんでした。今後は△△のように対策して再発防止に努めて参ります」

というのとでは全く対応が変わってくることがおわかりいただけると思います。
謝罪をするときは最大限の誠意と共に、という考え方を忘れないようにしたいですね、って話。

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