【うちの子創作-E000】此迄之荒筋。【その1】

 前回までのカスガの冒険譚は――

 故郷であるエテーネの村を冥王ネルゲルによって滅ぼされ、わけもわからぬままに「生き返し」を受けることとなったカスガ。
 しかし生き返ってみれば、荒れ果てた荒野にボロボロの格好でただ1人。
 状況を説明してくれるものもなく、身元の手がかりすら皆無。
 当て所なく放浪する中で猛烈な飢えと渇きによる二度目の死を覚悟したが、そこへ偶然通りかかった男女二人組のオーガたちによって介抱されたことでなんとか一命をとりとめた。

 彼らの紹介で身を寄せた場所は、ガートラント城下町。
 大きな怪我を負った上に記憶が混濁している(実際のところ、本当によくわかってないのだが)という設定で一時的に教会へ保護されたのだが、治療とリハビリを重ねる日々を送る中で程なくして生き返し先の身体の身元が判明。
 ガートラント聖騎士団から主にヒーラーとして仕事を請け負っていた冒険者であったらしく、ストロング団長を含めた騎士団メンバー数名との面識があったことで、名前も同じく「カスガ」だったことがわかった。
 以前のカスガはヒーラーのくせに意外と好戦的な性格であったらしく、あちこちのトラブルに首を突っ込みたがる困った奴だったらしい。腕前自体は確かで仕事の達成率は悪くないものの、その危うい正義感を暴走させないように宥めるのが大変だったそうだ。
 最も、生き返しを受ける直前の頃のカスガは騎士団からの依頼ではなく別の目的をもって行動していたらしく、この大怪我に至った原因についてはわからなかったのだが。

 ヒーラーとしての適性があることを知ったことで、教会の神父の指導のもとで回復呪文の勉強を始めるカスガ。自分の身体を対象に日々回復呪文を練習していったことで身体機能は完全に回復。それどころか「カラダが覚えている」ことも大きかったのか、その腕前はめきめきと向上していく。
 しかしその過程で、呪文を発動させる魔法力の流れに何かの違和感を覚えるようになっていくカスガ。生きるチカラを活性化させる魔法力の流れ、ベクトル、呪法の構成。これとまったく真逆のチカラを身に受けた経験があることと、なにか関係があるのだろうか――?

 身体の調子は戻っても、日々はただ漫然と過ぎていく。
 カスガには何も目的がない。このカラダがもともとしていたように冒険者として生きていくべきなのか?それとも、人間だった頃のよすがを求めて、エテーネの村を探しに行くべきなのか?あるいはこのままガートラントで、全く別の生活基盤を構築してしまうことだってできるのかもしれない。迷いと悩みの日々を送る中、その再会は唐突にやってきた。
 旅芸人ピュージュが、ガートラントに現れたのだ。

 激震が走った。

 自分のものではなく理由もわからない怒りに身体が湧き立ち、それに戸惑う自分をピュージュが見つける。カスガの生存を全く予想していなかったピュージュは驚き不思議がるも、そのまま城下町の外へ逃げ出してしまった。
 急いでその後を追うカスガであったが、もちろんそれはピュージュの罠。いいように翻弄され、何が何やらわからないまま、カスガは古代オルセコ闘技場へその身を拉致されてしまうのであった。

 そこから先のことは、はっきりとは覚えていない。
 ただひたすらに戦わされ、そのたびに受けた傷を自力で癒やす。その繰り返しの中で、自分のものではない怒りの炎だけが煌々と燃え上がっていく。
 その怒りとの対話を試みようとしても、声が届かない。ますます燃え上がる怒りは、ついにその周囲に向けられるようになった。目につくものであれば誰彼構わず殺したくなる衝動を抑えるため、カスガは必死になる。

 だが、不意にその内なる衝動が消え去った。

 目の前に自分がいた。いや、正確には「オーガのカスガ」がいた。
 気がつくと、自分の方は人間だった頃の姿に戻っていた。鏡を見たわけではないが、目に見える身体は確かに以前の自分だったからだ。
 そんな二人が相対する場所は闘技場ではなく、夜の闇のような、星空の只中のような……そんな不思議な空間だった。
 その中でオーガのカスガは全力で、人間のカスガを叩きのめしに来た。その猛攻を必死で避け、あるいは受けた傷を回復し、もうやめろと声をかける人間のカスガ。だが、自分の身体の限界をも厭わず猛攻を続けるオーガのカスガは、やがて自傷に絶えきれず倒れ伏した。

 倒れ伏したオーガのカスガは語る。
 「魔物の集団を倒して平和を守ろう」というピュージュの手の者の口車に乗せられ、たくさんの冒険者が種族を問わず集められたこと。
 そうして集められた者の一人が自分であったこと。
 魔物諸共に逃げることも許されず、今の自分たちのように閉じ込められ、ひたすらに戦わされ続けたこと。
 最後に一矢報いることさえ許されずに――殺されたこと。

 仇をとりたいと。

 聞きようによっては呪いと変わらない言葉を、オーガのカスガは呟く。

 ネルゲルに故郷を滅ぼされた自分が、恐れのあまり抱けなかった怒り。
 苦境にあってなお、相手を殺そうという意思を抱けなかった自分。
 それを自覚した人間のカスガの中に、初めて1本の「回路」がつながる。

 回復の呪法とは真逆の、死の呪法への理解。
 ソレを受けた記憶と、体内の怨嗟のチカラが、その理解へと導いた。

 ザキ系呪文の真髄へと。

【Part-Awakening】

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