【うちの子創作-E000】此迄之荒筋。【その5】

「というのが、大雑把なここ数年の私の生活なわけだが」
「……」

 小豆色の髪を綺麗に切りそろえた少女が、微妙に白い目でカスガの顔を見つめている。カスガの話に呆れているのか、それともその内容を疑っているのか……その表情から読み取ることは難しい。
 ややあって、少女は口を開いた。

「あの」
「何だい?」
「重たいです」
「だよねぇ!」

 カスガはその感想に爆笑した。重たい。確かにそうだ。何人の人生を背負い、そしてそのまま背負い続けてここまできてしまったのだろうか。その荷重は既にカスガの背を押しつぶさんほどであり、生き返しを受ける前の自分であればとっくのとうに倒れ伏しているだろう。

 だが、カスガは幸いにも一人ではない。
 その重みに共に耐え、支えてくれる者たちが居るのだから。

「『依頼の前にあなたの来歴が知りたい』というから語って聞かせたけど、こうなるともう少し後半の明るめエピソードを目立たせたほうがいいのかもしれないね」
「いえ、それは絶対にやめたほうがいいです。何かもっと悲惨なことになる予感しかしないのです」
「そうかい……?」
「そうですよ」

 第三者の意見は聞くべきです、と少女は鼻を鳴らした。

「それに、あなたの趣味の話や日常生活の話が抜け落ちているのもよろしくないです。もっとこう、親しみを持てるエピソードはないのですか?」
「親しみ。親しみねえ……。これでも料理に関しては割と得意なつもりでいるのだけれど、そういう話でいいのかい?」
「ですです。そういう話をもっと織り交ぜてほしいです」

 なるほど心得た、とカスガは頷いた。

「そうだね。これは少し前にレンドアで私の妹分と出くわしたときの話なのだけれど――」

  

                         Fin.

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