【うちの子創作-E000】此迄之荒筋。【その2】

 気がつくと、身体は自由になっていた。

 自分たちの自由を縛っていたピュージュ一派の束縛は、誰かの手によって解かれたようだった。それに気付いてぼんやりとへたり込んでいるうちに、聖騎士団の救助がやってきた。手助けを受けながらカスガはガートラントへ戻り、もう一度教会のベッドへ倒れ込むことになった。

 再び目を覚ましても、あの場で得た感覚はそのままであった。

 偶然覚醒した死をもたらすチカラは強大だが、おそらくあのピュージュはオーガのカスガの絶命時の記憶から考えるにその上を行くか、何らかの対策を持ち得ている可能性が非常に高い。このチカラだけでは仇討ちは成し得ないどころか返り討ちにされるのが関の山だ。
 仇討ちを果たし、ネルゲルを含めた全ての因縁を精算するためにはオーガのカスガの怒りの感情を制御し、死を齎すチカラだけに頼ることなく、自らが強くならなくてはならない。身体も、心もだ。カスガは強く決意した。

 数日後、数えて二度目の回復をしたカスガは、再びの修行を教会に願い出た。今度は回復呪文に限らず、最低限の護身術や旅の技術、生活の知恵を含めた知識をだ。数ヶ月でこれらの知識をものにしたカスガだが、その期間中に魔物討伐依頼(なお僧侶ソロのザキ狩り)によってまとまった金を得ることで旅の支度金を用意すると共に、大陸間鉄道パスをも購入。
 身を守れるだけの能力は得たということで、教会からさらなる修行のための紹介状を受領。さらに修行の過程でグロズナー王から一人前の証を得ることを認められ、オーグリード大陸から一度旅立つこととなった。

 紹介状をもとに、エルトナ大陸のアズランの町でさらに僧侶としての修行を行うことになる。
 その修行の過程でレンジャー・天地雷鳴士の門も叩き、「死のチカラ」と共に「生命のチカラ」にも一段の理解を得ることとなった。すべての技術体系は根本の部分で一本につながっており、行使する者によって最適化や工夫が違っていることをカスガはここで実感した。
 そうしてアズランの聖堂からも修了の允可を頂く頃、カスガは大陸間鉄道に現れる不思議な老人の噂を耳にする。エテーネの村に縁があるという賢者ホーロー。惹かれるように再び大陸間鉄道に乗ったカスガは彼と出会い、そして知った。

 ネルゲルが既に討ち果たされたことを。

 自分と同じく生き返しを果たした村の仲間により、本懐のうちのひとつが果たされたことにカスガは深く安堵し、そして感謝した。これまでの目標のうちのひとつを横からかっさらわれたことにはなるが、それは全く構わない。まだ見ぬ仲間に思いを馳せながら、思いを新たにする。

 自分は、この身体の本来の持ち主の本懐を遂げさせることに集中しよう。

 ホーローの導きにより、死のチカラへの理解を深めるためにデスマスターと踊り子の修練を行うべく、再びオーグリード大陸に舞い戻ったカスガ。
 その過程で死者の魂や残留思念との対話を可能にし、祈祷による身体能力や魔法力の向上、武器や呪文だけに依らない戦闘技術を身につけることとなる。その新たな技術は内に存在し、時折激しく暴れることのあった「オーガのカスガの魂」との会話を可能にすることとなった。
 内面世界で暴れ狂うオーガのカスガを御し、穏やかな会話を行うことによって、人間のカスガは初めて知ることとなる。

 オーガのカスガの来歴。
 魔物に殺された家族。孤独な幼少期。
 誰とも本質的な信頼を築けず、己の技術のみに縋っていたこと。
 そうした驕りがピュージュに付け込まれたこと。
 その恥辱と怒りに、どうしても抗えないこと。

 その対話の中で、人間のカスガはついにその違和感の原因を知った。

 オーガのカスガの魂の奥底に打ち込まれた軛。
 ピュージュがあの時戯れに「チャンピオンベルト」と称してカスガに打ち込んだ負のエネルギー体の一部が魂の汚れとなって取り憑き、今この時もオーガのカスガの意思を蝕んでいたのだ。
 オーガのカスガの想念を荒ぶらせ、今日まで二人の魂の本質的な相互理解を妨げる要因となっていた原因はそれだった。

 人間のカスガは、その負のエネルギーの浄化を試みる。
 猛烈な反発と、溢れ出る邪悪なオーラに二人の魂は苦しんだ。
 ようやくのことで取り除いたその負のエネルギーは、強大な悪魔のカタチをとって二人の魂に襲いかかってくる。

 だが、二人にもう障害はない。

 完璧な連携を以て内なる世界の邪悪を征伐した二人の魂は、強い握手を交わしたのだった。

【Part-Blessing】

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