たまちゃんのプレゼント大作戦!(2/4)

「ミスミ、決めたよ!私、まるにバンダナをプレゼントする!」

あの問答の翌日のことだった。
たまははちきれんばかりの笑顔を浮かべて、ミスミに向かってこう宣言したのだ。

「バンダナ。へぇ、なるほどねぇ。いいんじゃないかい?あいつが普段巻いてるやつ、だいぶくたびれてるしねぇ」
「うん!でね、ミスミに色々教えてほしいことがあるの!」
「教えてほしいこと?」
「うん!」

一体この子は、バンダナのような単純な代物について何を尋ねようというのか。柄か?素材か?オススメの店か?
ミスミは訝しがるが、ここはひとまず質問を促すことにした。

「言ってごらん」
「あのね、バンダナの布って、どうやって織るの?」
「――は???」
「それから、バンダナって布の端を縫ってあるよね?あれはどうやるの?」
「ちょ、」
「あとね、バンダナだけじゃ寂しいからバッジをつけてあげたいの!どうしたら作れるかなぁ」
「待った待った!」

いくらなんでも先走り過ぎというか、明らかに自分のスペックに見合わないことへ手を出そうとしているのが丸わかりだ。

「つまり、バンダナと、それを飾るバッジ。これを全部"手作りで"贈ってやりたいわけだね」
「そうなの!」

しっぽをぶんぶん振って答えるたまに、ミスミは痛恨の一撃を投げかけた。

「無理に決まってるだろ!!!」
「ええーっ!?」
「紡績!縫製!彫金!ぜんっっっぶ別ジャンルじゃないか!せめてどれかひとつにおし!」
「やだーっ!!!全部手作りしたいの!!!」
「むむむむ……!これだから天然(たま)は……!」

床にひっくり返って駄々をこね始めたたまを見て、ミスミは頭を抱えた。
そのまま深くため息を付き、ミスミは厨房へ視線をやる。

「いってつ!」
「ゴ?」
「使いだ。すぐに手紙を書くから、郵便局までひとっ走り行っとくれ!」
「ゴ!」

ミスミは手元のメモ帳を破き、さらさらと救援要請をしたためた。合計、3枚。
簡易に封をしたそれらをひっつかんだいってつは、即座にゴレム亭の勝手口から飛び出していった。
それを確認したミスミは、べそをかいているたまに再び向き直る。

「いいかいたま。前にも言ったが、アタシは今回のアンタのプレゼントには手出しや手助けができない」
「そ、それは……わかってるけど……」
「だから、今アンタのために助っ人を呼んだ」
「助っ人!?」
「気のいい奴らだ、すぐに来てくれるさ。……っと、噂をすれば」

ミスミは店の入口を振り返る。すると、そこには先程飛び出していったばかりのいってつと、見知らぬ3人の人影があった。
そして、いってつが意思疎通のために使うホワイトボードには、はっきりとこう書かれていた。

『手作りプレゼント三銃士を連れてきたよ』

「手作りプレゼント三銃士!?」

あんぐりと口を開けて驚くたまに向かって、ミスミは彼らを一人ずつ紹介し始める。

「紡績の専門家、けいりん」
「どうも、よろしくです」

穏やかな物腰に柔和な笑顔を浮かべたエルフの男が、涼やかな金髪を揺らして挨拶する。

「縫製の専門家、ユリ」
「がんばります!よろしく!」

こちらはショートポニーとへそ出しルック、そしてショートパンツのかわいい、溌剌としたオーガの女性。

「で、そのへんを歩いてた道具鍛冶のサヨコ」
「ちょって待って!?私も専門家って呼んで!?」

そう喚くのは、肩甲骨にかかるほどのロングヘアーにピンクのリボンを結わえた人間の少女だった。




「……と、いうわけなんだがね」

今回のプレゼント大作戦に関するミスミの説明が終わり、手作りプレゼント三銃士の面々は一様に思案顔だ。

「バンダナ……ですか……」
「単純に見えて、案外工夫を凝らせる余地があるんですよねー。うふふ」
「それにつけるバッジ?なるほどねー、これは面白いわね」

それぞれ、その分野においてはミスミが一目置く職人たちだ。

けいりんは絨毯からぬいぐるみまで、あらゆる布地や糸などの素材に精通した熟練の裁縫職人。
特に紡績分野のプロである彼は同時にベテラン冒険者でもあり、素材を自分の足で調達すべく日夜アストルティア中を駆け回っている。

ユリは裁縫職人としては新進気鋭だが、並外れた集中力と同時に労苦をいとわぬ鋼の精神をも併せ持つ。
彼女の作り出す製品は業界で非常に高い評価を得ており、その針さばきはギルドのお手本にしたいくらいだという話もあるほどだ。

サヨコは道具鍛冶職人となる前はランプ錬金職人であった、変わり種の職人だ。紹介は雑であったが、職人としては前述の二人にも引けをとらない。
ランプ錬金の微妙なさじ加減を統べる感覚を活かし、特に針や簪といった小間物の製作においては抜きん出た才覚を発揮している。

そんな彼らに、ミスミは改めて要請する。

「今回はなるべくたまに作業をやらせてやってほしい。3人にはたまの監督をお願いしたい!」
「えっとミスミさん、たまちゃんはこの分野に関しては完全素人なんですよね?」
「そう!」
「……それでも、なんとかして手作りしたい、と」
「本人が言ってる!」

……ううむ。自分で言っていて何だが、これではまるで。

「ミスミさん、親バカだー!」
「うっさい!!アタシが一番わかってるから言わないどくれ!!」
「しっかたないなー。ミスミさんに借りをつくれる機会なんて滅多にないから、がんばっちゃおーっと」
「そうですね。こんなミスミさんの姿を見られただけでも、飛んできてよかった」
「あ、ん、た、らー!!」

3人は笑いながら引き受けてくれたが、たまの親代わりを自認するミスミは怒ったふりをしつつも苦いばかりだ。
正直なところ、面倒事を押し付けてしまった自覚はある。ただ、こうする他に場を収める方法を思いつかなかった。
そんなミスミの機微を解したのか、けいりんはこう続けた。

「はは。まぁ、世の中持ちつ持たれつですよ。今日は任せてください」
「……すまない、頼んだよ」
「はい、頼まれました」

そしてけいりんはたまに向き直る。

「たまちゃん。プレゼントしたいバンダナですが、どんなものを考えてますか?」
「えっと、カッコいいの!」
「カッコいいの、と。他には?例えば、どんな時に使ってほしいですか?」
「うーん……どんなときでも使ってほしいけど……。家でも、外でも……」
「場を問わず、と。つまり、オールシーズン対応ですね」
「えっと、そう、です!」
「となると、保温性も通気性も兼ね揃えないといけないわけですか。さて、難問ですね」

無茶振りもいいところなたまの提案を、けいりんはごく当然のものと受け止めて熟考する。そこに、サヨコから声がかかった。

「けいりんさーん。こういうのはどうかな?」
「ふむ?……ほうほう、なるほど。バッジにこういう効果を……」
「そう、これをひっくり返せば、こうね」
「なるほど、理にかなってますね。となると、バッジの素材はマデュライトが必須かな」
「うん、40%マデュライト、後の金属は錬金で練り合わせるよ。それと風と土のエレメント素材がほしいね。かぜきりのはねとまりょくのつちかな」
「とすると、布地の素材も決まりです。うつろい草をベースにはがねの尾羽根、氷鳥のはね、れんごくのはねを混紡しましょう」
「いいね!そのコンボならたまちゃんの要望もバッチリ満たせるよ!」
「決まりですね」

そのままけいりんは振り返り、ユリも交えてこう告げた。

「では、私は今からたまちゃんと素材を集めてきます。お二人が何か必要であれば、ついでに集めてきますが」
「あ、ほんとに?えとえと、針は私が用意するんで、布地に合った糸をお願いします!」
「私の方の素材は大丈夫ー。戻ってギルドの炉を予約しとくから、布地の目処がついたら連絡して!」

三人の職人たちのテンポのよい会話に、たまは目を丸くしていた。
ミスミはそんなたまの様子を見て静かに笑う。おそらくたまにとって、今回のプレゼントづくりはよい勉強になるだろう。
そして、仕事の段取りをまとめたけいりんは、たまに向かって笑顔で手を差し伸べた。


「では、たまちゃん。ちょっと冒険にいきましょうか?」

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