エマ・トンプソンと文学少女

エマ・トンプソンが好きだ。

いつから好きなのか、何を観てファンになったのか覚えていないけれど、たぶん私が20代後半になってからだ。

あふれる知性と茶目っ気。演技や映画だけでなく、物語というものに対する情熱を持って、自分の持てる才能と努力を惜しみなく注いでいる人。

☝のインタビューの9分39秒あたりから、マーク・トウェインを引用して「笑い」がどれほど大切か、ということを話している。だから、インタビューでも何でも、この人は真面目な顔をして変なことを言う。これはイギリス流の皮肉か?笑うところか?と一瞬聞き手が迷ったり、知識がないと意味が分からなくて愛想笑いするしかないような高度なことも言う。言ってることが分からなくても、動きや声色だけで面白いようなこともして見せる。そうしてこっちが思わず笑うと、ニ~ッコリと笑う。

大人で、賢くて、笑いが大好きな、素敵な人だ。

名門ケンブリッジで英文学を学び、当時からキレッキレの文章センスを持っていたらしい。かと言って文章や演劇の物語の中だけで活躍するのではなく、プロテストやデモにも参加し、今でも環境保護の活動に熱心だったりする。


私自身は大学で英文学を学んだこと、中途半端にしてしまったことは後悔している。シェイクスピアの理解も浅いままだ。

Netflixの新ドラマ「ザ・チェア~私は学科長~」も英文学科が舞台で、学生数が少なくなっているために予算も教員も削れと言われるところから始まる。文学に身を捧げた教授たちの言葉が物語の要所要所で効いてくる。

英文学を学んだその先、全員が物語にキャリアや人生を捧げられるわけではない。

私も、就活を経て、理系は無理でも、せめて法や経済を学ぶべきだったのかしら、文学って実用的じゃないものなあ、英語も全然しゃべれないのに。なんて、ありきたりだけれど、中途半端な文学科の学生の悩みを抱えて、のめりこめなくなった時期があったのも事実。

社会学や心理学、法律を学んで、実生活に活かせる知識をつけるのもアリだったかな、なんて思って。でも、きっと進路選択の時期を何度やり直しても、私は文学を選んだと思う。その後の学び方は、何度でもやり直してちゃんとやりたいところだけれど。


エマ・トンプソンが映画「いつか晴れた日に(原題 Sense and Sensibility)」でゴールデングローブの脚本賞を受賞した時のスピーチ。

ジェイン・オースティン原作の「分別と多感」を映画化したもので、トンプソンは「ジェイン・オースティンなら、こんな夜をどう表現するのか思いをはせてみました」と言って、オースティン的な描写と目配せを織り交ぜた文章を披露した。

トンプソンが受賞者として感謝の意を表さなければならない人はたくさんいるので、その要素もたくさん盛り込まれた、純粋なオースティン技法のみではないにしろ、この手法は最高にかっこよく、美しかった。私の中の全文学少女が喝采をあげた。


彼女もブレたことはあったんだろうか。演劇一家で育ったから、この道こそ彼女にとって1番自然な選択だったのだろうか。

いつか、彼女の映画を訳すことができたらいいなと思う。


ちなみに、マギー・スミスも好き。イギリスのベテラン女優たちは、年を重ねるごとにどんどんかっこよくなっていく。

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