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限局的に脂肪がついたりつかなかったりする肝臓の話

そろそろ始まる?オンデマンド配信にあたり1個だけ補足入れておきます。一般演題のセッションでコメントしておこうか悩みましたが、focal spared areaのことです。

なぜ脂肪肝になるのか?

スライド33枚目

脂肪肝とは、肝細胞に中性脂肪が蓄積した状態のことで、さまざまな肝障害を引き起こします。食事で摂った脂質や糖質は小腸で吸収され、肝臓で脂肪酸やブドウ糖に分解され中性脂肪がつくられます。この中性脂肪は肝細胞の中に溜め込まれ、必要に応じてエネルギーとして用いられます。消費エネルギーと摂取エネルギーのバランスがとれていればいいですが、運動不足の状態で脂質や糖質を摂りすぎると使用するエネルギーよりも中性脂肪の方が多くなり、肝細胞や皮下脂肪にどんどん溜まっていきます。この中性脂肪が肝細胞に30%以上たまった状態が脂肪肝です。

 肝臓検査.com (https://kanzo-kensa.com/sick/fatty/)

画像として脂肪肝を考えるときは、小腸から肝臓にどうやって余剰栄養が運ばれていくかを考えると良いと思います。つまり、門脈を介して肝臓に栄養が運ばれるとも言い換えることができます。裏を返せば、もし門脈を介していないところがあれば、脂肪が沈着しにくくなるということがありえます。それがfocal spared areaの基本的な考え方です。

Third inflowの存在

スライド34枚目

"もし門脈を介していない血流がないとすれば"ということだったのですが、そんなことが起こり得るのがthird inflow(門脈以外の流入血流)の存在です。Focal spared areaはthird inflow、つまり門脈以外の流入血流で説明可能で、third inflowで支配される領域があれば、そこは脂肪のつき方に差ができるということになります。特に広義のPVS(parabiliary venous system)と言われる胆嚢静脈や右胃静脈*がS4に直接流入するような異所性灌流があれば肝門部周囲や胆嚢周囲は限局的な低エコーになりやすいです。(*右胃静脈は通常は門脈本幹に合流する。胃や膵頭部からの血流を集める血管です。)

と、ここまでは復習ですが、時間の都合上割愛したことがありまして、それが限局的に脂肪が沈着する場合の話です。ちょうど一般演題で門脈水平部に限局性の脂肪沈着をきたした症例(+他の要因)があったので、少し混乱したかもしれません。

ここからが補足! -限局性脂肪沈着-

基本的な考え方はthird inflowです。ただ、脂肪が限局的に沈着する場合は抜ける場合と違って、正確に原因がわかっていないことも多いようです。後発部位としては鎌状靭帯周囲(ここを血管腫と間違えている方が意外といますので注意⚠️)と門脈水平部周囲です。

まずは青色で示している鎌状靭帯を挟んだ肝表付近は"Sappey's veinの灌流領域"です。なので、特殊な血行動態となりやすい部位です。

Sappey's vein灌流領域:鎌上靭帯付着部で上腹壁から臍傍静脈(Sappey's vein)を経た静脈血が流入し、同部位の門脈血流低下をきたします。そのため門脈血欠乏による細胞障害やアミノ酸その他の因子のバランス変化が限局性の脂肪沈着を引き起こす、と言われています(野坂ら, 肝臓, 2007;48(5):240-245)。

続いて門脈水平部付近ですが、こちらはPVS(parabiliary venous system)で説明されることが多いです。
PVS:膵-幽門-十二指腸静脈と呼ばれるparabiliary venous system(PVS: termed the pancreatico-pyloro-duodenal vein)は、膵頭部、胃、十二指腸からの静脈血を集め、通常は肝臓に流入する前に肝臓外で門脈本管に合流します。しかし場合によっては、膵-幽門-十二指腸静脈は肝臓に入る前に門脈本管に合流せず、直接肝臓に入り、門脈本管に融合することなく、S4後面の肝類洞を灌流することもあります。この静脈系には右胃静脈が含まれるため、この解剖学的変異は"異常右胃静脈"と呼ばれることがあります(Takayasu K et al. Incidence and implications. Acta Radiol. 1990;31(6):575-7.)。また、Vilgrainらは、肝臓に流入する血液中のインスリン濃度の違いが、肝臓の局所的な脂肪沈着に寄与していることを示唆しました。異常な右胃静脈は、膵頭部から静脈血を集め、S4後面に流入するため、異常右胃静脈のある流入部では、インスリン濃度が他の部位よりも高くなる可能性がある。ので、異常右胃静脈ドレナージが存在するS4後面に局所的な脂肪沈着が生じる可能性があります(Vilgrain V, et al. Hepatic steatosis: a major trap in liver imaging. Diagn Interv Imaging. 2013; 94(7-8):713-27.)。

というわけで、parabiliary venous system (門脈水平部付近), epigastric–paraumbilical venous system (Sappey's vein付近), and cholecystic vein(胆嚢付近)が肝動脈・門脈に次ぐ第3の流入血管ということでthird inflowと呼ばれています。ですので34枚目のスライドではあえて、「脂肪のつき方に差が出る」という表現で喋ったと思います。肝門部や胆嚢周囲では抜ける場合が多いですが、鎌状靭帯周囲では逆につくことがほとんどです。なんでそういうエコー像になるのか考えていくと面白いですね☺️


by みけ ٩( 'ω' )و



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