見出し画像

お腹の左側が痛くて血便が出るときのエコー検査の話

こんばんわ。こうすぐゴールデンウィークですね!よき休日をお過ごしください☺️このnote(マガジン)はTwitterで投稿したイラストを補足する目的で作っています。さて、今回は虚血性大腸炎の話をします。個人的に虚血性腸炎という方が馴染みがあるので、あえて虚血性腸炎と呼んでますが、国内では概ね虚血性大腸炎のことを指します。

必要なら勝手に保存してください

 虚血性腸炎の始まりを紐解くとBoleyらが1963年に大腸血管の可逆性閉塞に基づく一過性の腸管虚血性病変を、初めて1つの疾患単位として提唱しました(Boley et al. 1963, PMID: 13968597)。1966年にMarstonらは1966年にこの疾患の数例をまとめ上げて虚血性大腸炎と呼称し、臨床経過から一過性型、狭窄型、壊死型に分類(Marston A et al. 1966, PMID: 5906128)、さらに1967年には壊死型を除外し、「主幹動脈に明らかな閉塞がなく、しかし虚血の証拠を証明し難い腸管粘膜血流障害によって引き起こされた可逆性の病変」という疾患概念に変更しました。
 少なくとも本邦では、一過性型と狭窄型を虚血性腸炎とするのが一般的と思います。臨床的には、壊疽を伴う全層型粘膜と粘膜下層に限局した部分型に分けた方が理解がしやすいかもしれません。

用語の定義

大腸の解剖

 虚血性腸炎がなぜ生じるかを考えるときには大腸を栄養する血管解剖学的構造について考えなければいけません。

 結腸は上腸間膜動脈(SMA)と下腸間膜動脈(IMA)から血液の供給を受けており、 直腸は対の内腸骨動脈と下腸間膜動脈から血液の供給を受けています。
 SMA → 中結腸動脈、右結腸動脈、回結結腸動脈に分岐し、横行結腸、上行結腸、盲腸の近位 2/3 に血液を供給する。 人口の約20%に中結腸動脈が欠如している。
    IMA  → 左結腸動脈、S状動脈、および上直腸動脈に分岐し、遠位横行結腸、下行結腸、S状結腸、 直腸の近位部を栄養する。
    内腸骨動脈 → 直腸の中間および遠位部に血液を供給する中直腸動脈および下直腸動脈に分岐し、IMA 上直腸動脈からの血液供給と連続する。

 あとは豊富な側副血行路(ネットワークみたいなもの)があり、例えば1つの手枝が閉塞しても他の血管からサプライされるようにできており、そう易々と虚血が起こらないようになっています(例えばArc of RiolanやDrummond's Marginal Artery)。人体とはほんとよくできていますね!

大腸の血管解剖

なぜ虚血が惹起されるのか?

 そんな大腸の血行支配の中で、血流の低下に最も敏感で、虚血を起こしやすい結腸の分水嶺領域は、脾弯曲部 (グリフィス点) と S状結腸 (スデック点) です。

Griffiths point:上腸間膜動脈と下腸間膜動脈からの循環が合流する部位
Sudek's point:下腸間膜動脈と直腸動脈が合流する部位

このようなwatershed area(分水嶺領域)では、虚血を免れるためにドラモンド辺縁動脈に依存しているにも関わらず、ある解剖学的研究では、人口の約 50% が辺縁動脈の発達が不十分、約5%が不完全であり、虚血リスクが増加していることが示されています(PMID:13529513)。Sudeck's pointは上・中・下直腸動脈の枝で形成される粘膜下動脈叢のおかげで、Griffiths pointよりも虚血の影響を受けにくいです。ので、臨床的にも脾弯曲中心とした下行結腸の浮腫がよく見る虚血性腸炎ですね。

こういったことがあり、結腸のwatershed areaの解剖学的構造が原因で、虚血性腸炎の症例の75%が脾弯曲部を代表とした左結腸が虚血に陥るのです。

2つのwatershed area(分水嶺領域)で虚血が生じやすい

エコー所見は?

ある論文を提示します。2005年で古いですが、コンセンサスは変わってないと思います。

Ripollés T, Simó L, Martínez-Pérez MJ, Pastor MR, Igual A, López A. Sonographic findings in ischemic colitis in 58 patients. AJR Am J Roentgenol. 2005 Mar;184(3):777-85. doi: 10.2214/ajr.184.3.01840777. PMID: 15728597.

Resultsから主要な結果を抜粋しました。

The thickness of the colon wall in the affected segments ranged from 3.5 to 15 mm (mean, 7.6 mm)

"壁厚が3.5から15mmだったよ!平均で7.6mm"。
まあこんなもんだと思います。

Colon wall stratification was preserved in 38 patients (66%).
"層構造は66%で温存されていたよ!"
炎症性変化における層構造の不明瞭化は(私は)炎症の強度に依存すると思っているので、こんなもんかもっと高くでもいいと思います。ここは主観の世界ですね。

Altered pericolic fat was seen in 16 patients (28%) (Fig. 2) and free fluid in 11 (19%).
"結腸周囲脂肪織肥厚が16人で見られ、周囲のfluidは19%で見られたよ!"
こんなもんだと思います。

Color Doppler flow was observed in the wall of the affected colon segment in 40 (87%) of the 46 patients in whom it was evaluated, whereas flow was absent in the other six patients (13%). Color Doppler flow was considered to be barely visible in 31 patients (67%) and readily visible in nine patients (20%)
"カラードプラは87%で結腸に検出できたよ!でもその中でよく見えたのは20%で、67%はちょびっとカラーがのる程度だったよ。"
カラードプラが診断に特異的に寄与することはないと思うのであまり気になりません(私は)。基本的にはカラードプラで検出できるべきものと思います(ができなこともある)。

The resistive index could be calculated in 32 patients, with a range of 0.50–1 (mean, 0.73). In 90% of patients, the index was greater than 0.60.
”RIは0.5-1.0で、90%の患者さんで0.6を超えていたよ!”
RIの結果が診断に影響するかは不明。重症度には関係するかもとは思います。

The multivariate logistic regression model showed altered pericolic fat to be the only variable significantly associated with the presence of transmural necrosis (odds ratio, 19.269; 95% CI, 1.54–240; p = 0.0215).
"MLRAでは結腸周囲脂肪織肥厚が壊死を予測する唯一の因子であったよ!"
ということは、虚血性腸炎において周囲脂肪織肥厚を記載することには大きな意義があるということです。

こんだけ長々と結果を紹介しましたが、実はこれがあったら虚血性腸炎のエコー像で決まり!って所見はないんですよね。ですので、臨床所見も加味する必要があります。

臨床所見

 腹痛、血便、下痢が主な現症になるのですが、順番が大切で、突然に強い下腹部痛(左側腹部痛)が出現し、その後下痢を来し徐々に血性下痢となっていくのが典型的パターンでしたよね。こういった背景があって、なおかつエコー検査で左半結腸に粘膜下層主体の浮腫性壁肥厚があれば、虚血性腸炎を疑う所見となります。

まとめ

エコー所見だけで言いますと、「左半結腸における、第3層主体の浮腫性壁肥厚であり、炎症の強度に依存して2/3層間の境界は不明瞭化しうる。カラードプラの有無は診断に特異的には寄与しない。結腸脂肪織肥厚は腸管壊死の予測に使える(らしい)。」というところでしょうか。大切なのは臨床所見を確認しながら検査を行うことですね!

Whitten by みけ ٩( 'ω' )و


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?