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BlackWolvesSaga「雪明りのフェリックス」設定プロット寄稿

BWSのアフターエピソードの小説として、2019年3月27日(水)に発売された「雪明りのフェリックス」。本来の製品としてアウトプットされた設定とは異なる点をご理解の上、読み物テキストとしてご確認ください。

ラストホープのトゥルーエンド後の時系列の話ですが、
パラレル的な要素も入っています。
約20年後の設定で、フィオナは生きてますがラスは死んでいます。
※ラスは結局ゾディバの影響で死亡しました。
人間種の男の子のジュート狼種の女の子のカナリは、
ラスとフィオナの息子で、フィオナとラスが住んでいた村
で生活を営んでいます。
ジュートとカナリが拾ってきた猫種の子猫は白猫
雪のように色が白い事から「フェリックス」と名付けられます。
※ドイツ語で「幸せ」を意味する言葉です。
猫種であるフェリックスは聴覚、味覚、視覚すべてを失ってる状態です。何もわからないうちに感覚を奪われて、何もない世界で一人で生きています。
失った理由ですが、駆除されたと思われていた病魔ゾディバ
に感染しています。そのゾディバは突然変異したゾディバは、猫種
以外には感染しない特殊なものです。
フェリックスは恐れ、忌み嫌われ、そして、それ故に
両親から見捨てられ、捨てられました。

■「雪明かりのフェリックス」プロット

・ジュートとカナリは雪がチラつく森の中を急いで村に帰ろうとしています。夕餉の支度を頼まれて、ジュートとカナリで豊かな森の中にある木の実を取りに出ていたのでした。

・その木の実は母親のフィオナの大好物です。

・その帰り道、狼種である聴覚が発達してるカナリが気づきます。

・道端でボンヤリと佇み、寝ている猫種の子猫を見つけたのです。この辺では猫種が居ることは珍しく、更に色が雪のように白い猫でした。

・その白猫は不思議な面持ちでした。ふたりが近づいても、ボンヤリとまるで上の空で、野性的な警戒心もまったくありません。

・このままでは寒さで死んでしまうかもしれませんし、まともな食事を取ってるようにも見えませんでした。

・もしかして、捨てられたのかな?と不安そうにカナリが聞きます。

・ジュートとカナリは相談します。怒られるかもしれないけど、
このまま放っておくわけにはいかないから村に連れて帰ろう。

・ジュートは母さんに怒られる、と渋りますが、カナリに圧されて
その名も無き白猫を連れて帰ることにします。

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・家に連れて帰ると母親のフィオナが驚きます。

・白猫を見ると、どうやら何かを思い出すようですが、何も言いません。

・カナリがどうやら捨てられたみたいだ、助けてあげてもいいかな?と聞きますが、フィオナは村長さんに相談してみないといけない、優しくといいます。

・ジュートはフィオナの肩を持ち、養うのは大変なんだから、勝手に決めるな、とカナリとぶつかります。

・カナリが食事を白猫に与えようとしますが、白猫はまったく食べません。

・不思議に思ったフィオナが温めたミルクを与えようとしますが、白猫はそれも飲みません。無理やりカナリが飲まないとダメだよ、と飲ませようとしても、白猫は反応をしません。

・ジュートが、この子なんかおかしい、といいます。

・ずっとボンヤリ、どこを見てるのかわからない様です。

・取敢えず汚れているから、お風呂に入れることになります。

・カナリがお風呂にいれてると、お風呂からカナリがいいます。

「ねえ、お母さん、この子、痣があるよ?怪我してるのかな?」

・フィオナが怪訝そうな顔をします、そしてお風呂場でその白猫を見たとき、フィオナは驚愕します。

・その白猫の体に現れていたのは、それは忘れもしない、あの呪われた病魔ゾディバに感染した時に現れる黒い斑点だったからです。

・病魔ゾディバはウェブリンから消えたはずだったのに、です。

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・村の獣医にジュートとカナリが白猫を連れて見てもらっています。

・獣医はいろいろなテストをしますが、白猫の反応がとにかく鈍い事を
訝しげに思っています。耳元で手を叩き大きな音を出しても、反応しません。

・カナリが笑い声をあげますが、ジュートが真面目にやってるんだからと嗜めます。

・獣医は非常に険しい顔をしています。

「この子は目も見えない、耳も、聞こえない」

・ジュートとカナリは驚愕します、なんかの病気のせいですか?

・獣医はいいます。昔、このウェブリンで猛威を振るった病魔ゾディバに似た症状が出ているが、そのせいかもしれない。でもゾディバには猫種は感染しないから、これは突然変異したものかもしれない。

・正確なことは言えませんし、村の獣医ではわかりません。

・獣医はフィオナに告げます。

・この子は恐らく長くは持たないし、仮にゾディバとしたら、この村で生活させることはできない。捨てられたのは、きっと治る見込みがないから捨てられたのだろう、と。

・安楽死をさせることが、多くの障害を持ったこの子にとっても、村にとっても、一番良いことだと冷静な判断を獣医が告げます。

・カナリは納得しないで怒り出します、育てる、といいますが、ジュートはどうやって育てるんだ!とジュートとカナリで喧嘩になります。

・カナリは泣いてしまいます、ジュートはバツが悪そうな顔をします。

・獣医はフィオナに取敢えずは隔離したほうが良いから村の離れの小屋で暮らさせる、そこで村の判断を待とう、といい白猫を連れて行きます。

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・離れの小屋で獣医が隔離しながら、村の判断を待つことにしました。

・ジュートとカナリの献身的な面倒見でミルクだけは飲むようになりま
したが、ミルクをどうやって飲めばよいのかわからないため、ミルクを撒き散らかします。

・それ以前に白猫は食事をしようとしない為、まるで死ぬために生まれて
きたような振る舞いに、みんな手を焼きます。

・無理やり食べさせようとしたカナリに噛み付きましたが、カナリは食べないと死んじゃうよ、と泣きました。

・名前がないまま育てるのは可愛そうだというと事で、カナリがフィオナに名前をつけて、とお願いされます。

・フィオナは「希望」という意味の「フェリックス」という名前を、その白猫につけました。

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・フェリックスに元気を出してもらうために、ジュートとカナリはいろいろな努力をします。

・獣医には内緒で森の外に連れ出して散歩をさせたりしますが、フェリックスは恐れて、怯えて中々前に進もうとしません。目が見えないので、ぐるぐると同じ場所を回ってるだけです。

・ジュートが自然と涙をこぼします。

・カナリが狼の状態になっても、目が見えないので驚きません。

・ただどうやら人間状態よりかは毛の柔らかい感触が母猫を彷彿とさせるのか、安心するらしく、フェリックスといるときはカナリは狼の状態になって
あげて面倒を見てあげることにしました。

・ジュートが俺も父さんみたいに狼になれればなあ、といいます。

・雪が降りやんだ冬の日差しの中、三人で森の中で日向ぼっこをしてるときは、フェリックスは幸せそうな顔をしてるように見えました。

・暗闇の世界で音も無く、色も無いフェリックスが、世界を感じられる手段は「触覚」だけでした。

でもフェリックスのいのちを救う生活は、そう長くは続きませんでした。

・やはり病魔を抱えた子を村には置いておけないという判断が下され、安楽死か、村からの追放を要求されます。

・病魔ゾディバへの恐怖はまだウェブリンに深く根付いてるのです。

・カナリは泣きます、ジュートは納得ができないと怒りすが、獣医はゾディバでどんなことがかつてウェブリンであったのかを二人に語ります。

・二人にとっては病魔ゾディバは過去のもので、どれだけ国中がひどい目にあったのかを知らないからです。その本当の理由は知るよしもありませんが、狼狩りの事や国の人口が激減したりした話を獣医から聞きます。

・獣医はいいます「どうしょうもないんだ」と

・それでも若いジュートは、やはり納得できません。

・カナリは獣医に聞きます、

 フェリックスは何のために生まれたの?
 死ぬために、生まれたの?
 今、生きてる意味は?

・カナリの質問に獣医は答えられません、ジュートも答えられません。

・そこにフィオナがやってきます。

・フィオナは獣医に宣言します、この子は私達が面倒を見ます、
村には迷惑をかけません、といいます。

・獣医は猛反対しますが、ジュート達の表情は明るくなります。

・フィオナには考えがありました。

・フィオナには古くからの友人でウェブリンの王国にゾディバの抗体を開発した薬剤師の兎種の友人がいるそうです。その友人に聞いてみる、ということでした。その為に王都まで旅をする事を決意します。

・獣医はそこまでいうのであれば、私に言えるのことない、村の人々への
説得は私の方からしよう、と伝えます。

・ふたりはフェリックスを抱き抱えて、大喜びしますが、フェリックスは
素知らぬ顔です。

ただ、結局、その旅は行われませんでした。

・その夜、家に連れて帰ったフェリックスが突然の発作を起こしたのです。

・黒い斑点がその白い体を更に蝕み始めました。

・フィオナが慌てて獣医を呼びに行きます。

・子供のフェリックスの顔が恐怖に歪み、言葉にならない声を発します。

・ジュートとカナリは抱きしめてあげることしかできません。カナリは狼の状態になってあげて、フェリックスを包み込んであげます。

一瞬だけフェリックスは痛みを忘れるのか、穏やかな顔になります。でも、次の瞬間には苦痛に歪んだ、まるで般若の様な形相に戻ります。
痛いのでしょう、苦しいのでしょう。

・でもそれを言葉にできません、何度も何度もその発作を繰り返して、
フィオナと獣医が駆けつけた時には、フェリックスは息を引き取ってました。

・涙で顔をぐちゃぐちゃにしたジュートとカナリをフィオナは黙って抱きしめました。

ーー

・冬の満天の星空の下、フィオナはラスのお墓にやってきます。ここはフィオナにとって特別な場所です。

・そこは十数年前、ラスと誓い合った崖の上です。

・フェリックスの小さなお墓も、その横に立てました。

・ラスに問いかけます。

・世界は残酷ね、あなたがいなくなってからまたこんな想いをするなんて。

 フェリックスは一体、なにを残してくれたのでしょう?

・ラスの苦しみ(最後は視覚を完全に奪われてしまったので、暗闇の中
で生きていた)以上の障害を負ってるフェリックスを見て、フィオナもまた
フェリックスを救いたいと思っていたのです。

・それが例え最愛のラスを苦しめた、猫種だったとしても。

・そんなことはあの二人はまったく関係なく、ウェブリンに生きるひとつの
命として、フェリックスを救おうとしていました。あの歴史の影に隠された
ものなんて関係なく、ただ、ただ、助けたいという気持ちで。

 もし、あなたが生きていたら、どうしたのかしら?

・ラスは答えません。

・フィオナを心配して、ジュートとカナリがやってきました。

・ほら、お母さん、やっぱりお父さんのところにいた、とカナリがいいます。ジュートも傍にやってきます。フィオナは黙って、ふたりを抱きしめました。

・ジュートが星空を見上げながら、フィオナに聞きます。

 「母さん、フェリックスは幸せだったかな?」 

・フィオナは、ふたりを抱きしめながら告げました。

 「父さんにも聞いてみたの────」
 「幸せだった、って」

・三人を祝福するように雪が降り始めました。

・それは、すべての罪を優しく包み込む柔らかい雪です。
どこかで狼の遠吠えが聞こえたような、そんな気がしました。

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■寄稿

ブラックウルヴスサーガ、という作品は格別な思い入れがある。

理由はクリエイティブに大きく関わったからで、企画立案からキャラクター、ストーリーのプロット、ゲームのディレクションなどの過程において、すべて自分で手がけたからだ。

本作「雪灯りのフェリックス」は、そんなブラウルのゲームでは描けなかった、ひとつのアフターエピソードを雨宮先生に小説化して頂いた作品だ。

発売後、何年も経っている本作ではあるが、ノベライズ、と聞いたときに疑問に思う方もいただろうし、あとがきなので、正直にいうが、本編のファンディスク的なノベライズを期待されていた方がいれば、大きく裏切る内容かもしれない。

だがゲームで描ききれなかった、未だにブラウルという作品を愛してくださる皆様へ伝えたいことが、この小説には詰まっている。

思い出すのは手帳にびっちりと書いた企画原案のときの苦しみだ。

黒死病、ロベイラ、追われる狼、狂った猫種、鼠、ゾディバ………世界観の原型とも言うべき内容を時間を忘れて書き散らした。それは何か、運命的に「表現したい」という言葉が相応しく、今でも、たまにその手帳を見返すことがある。

それぐらい自分の中で大切な作品なのだと思う。

種明かしをひとつすると、この作品が生まれたきっかけはひとつのネイチャードキュメンタリー番組だ。とあるテレビ番組の中で、ブラジルの不毛の大地セラードという場所を紹介する回があった。

セラードは南米の広大なサバンナであり、色々と神秘的な現象や特徴的な生態系に魅せられる場所なのだが、そんな中でも「タテガミオオカミ」という狼がいる。

タテガミオオカミの主食は「果物」で、果物の名前は────「ロベイラ」だ。

ここからが更に面白い。

ブラジルに自生してるロベイラは「ロボフルーツ」と呼ばれており、ロボは狼という意味だが、この独特な苦味がある実を食べるのは「タテガミオオカミ」だけなのだ。

この実には秘密がある。それは内臓にいる寄生虫を殺す成分が含まれている、つまりタガミオオカミはロベイラを食べないと長生きできないわけだ。

また、このタテガミオオカミは「絶滅危惧種」に指定されている。

このドキュメンタリーを見たときに、ブラウルのストーリーの原形が思い浮かんだ。あまりにも面白く、生物の神秘、命の連鎖を目の当たりにした時に、何か、これを上手く伝えられないだろうか、という猛烈な創作意欲が湧いてきたのを、今尚、思い出す。

そこからは、だが、創作においては苦難の連続だった。

当時この手のダークファンタジー系のADVは市場にも出回っておらず、ADV的に一本道に近く、恋愛を主体としないストーリー性が受け入れられるのか。またプロットを書き進めるにつれて、猫種の狂気を表現するにはコンシューマゲームの倫理規定に外れてしまう。

ただ、狂気を表現したいわけではない。

残酷なのには理由があり、それらはすべて狼種の哀しみへと繋がっている、ラス達の哀しみを深く理解してもらうためには、オージェやメヨーヨといったキャラクター達のある種異常な行動は絶対に必要な要素だった。

だが、狼種の視点だけでは、物語に必要なメッセージを描けないことに気づいた。

片側のパズルだけ解いてるようなものだ。

それで二つでひとつの作品にすることを思いついた。それが狼種のラスが主人公の物語「LASTHOPE」とメヨーヨとオージェ達が主人公の物語「BLOODYNIGHTMARE」である。

ここまで思いついたのはよかったが、リソースは二倍になる。

プロットも二倍であり、プロットを書いたり、上がってきたシナリオを加筆・修正してた時期は両手が腱鞘炎になるぐらい、書き直していた記憶がある。特にLASTHOPEのエンディング周りは、本来上がってきた原稿に満足できず、何度も何度も書き直した。

だから原作としては「物語は完成」している。

どれだけ売れてもFDを作るつもりはなかったし、全部詰め込んだ。

では、なぜ雪灯りのフェリックスを描いたのかというと、ファンの声だ。

ただメインのキャラクターたちは出てこない、だからノベライズという形式をとった。これを読んでくれたファンの方々の心に、ひとつでも残るものがあれば、嬉しい。

小説を書いてくださった雨宮先生、本作品に関わって下さった沢山の関係者の皆様、そして、今でもウェブリンに心を奪われてくれているあなたに、最大限の感謝を。

どうか、「希望」という意味の「フェリックス」という名前が、
あなたの心に残ります様に────。

■原作企画書


著:岩崎大介



サポートするぐらいなら、同情(マネー)をおくれ。そんな台詞、死んでも言わない。なぜならそれは紳士(ジェントルマン)じゃないから。男は黙って原作作詞、ペンは剣より強し。