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競走馬と乳酸について

皆様こんにちは大卒ジョッキーです。競馬予想をする上でとても重要な要素である【乳酸】についての見解を述べていきたいと思います。

一章 乳酸とは


まず、運動は筋肉の収縮によって行われます。そのために必要なエネルギー源であるATPを産出する経路にはATP-CP系、乳酸系、酸化系の3つがあります。

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ATPは体内での蓄えがほとんどありません。なぜならATPは非常に不安定だからです。そこで、ストックしやすい安定した物質(ホスファゲン)を代わりに蓄えておくことで、即座にエネルギーを供給できるようにしています。その代表的な物質がクレアチンリン酸(PCr)というわけです。ATP-CP系はエネルギーの発生の持続時間は短いものの高度のエネルギーを発生することができます。競馬でいうところのスローから瞬発力勝負の最後の直線です。爆発的な力を発揮するために必要となります。スローから瞬発力勝負が得意な馬というのはこの回路を使ってエネルギーを生成する能力が長けていると言えます。

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乳酸系(解糖系)はグルコースが代謝されて乳酸に至る経路で人間でいうと200~400メートル走など30~90秒程度の間に最大パワーを発揮する運動で起こります。競走馬で言うところの持続力勝負というのは酸素系でエネルギー生産が間に合わなくなり、その代わりとして乳酸系を多く使ったレースとなります。この経路は乳酸が蓄積して、蓄積量が多くなると運動が出来なくなります。

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酸化系はジョギング、サッカーなど酸素供給が消費に対して十分である運動のエネルギー供給形態です。スローペースの道中はこの酸化系が主に使われております。

酸素の供給が十分足りている軽く長時間の運動(有酸素運動)では酸化系が働き、乳酸は蓄積せず、ある強度以上の運動になると乳酸系が働き乳酸がたまってきます。
運動強度を次第に上げていくと、ある強度を境に血中乳酸の濃度が急激に増加する現象が見られます。大体この強度までは酸化系が働いて運動を続けることができますが、これ以上の強度では乳酸が蓄積し、やがて運動を続けることができなくなります。ペースによっては酸化系が使われるのか、乳酸系が使われるのかが一気に逆転するということです。


人間で例えると、運動強度を次第に上げていく時、乳酸の蓄積の始まるところが非鍛練者と長距離走者とでは違います。前者ではその人の最大運動能力の65%前後のところであるのに、後者では80%前後なのです。これはトレーニングによる効果と考えられます。このあたりにはまだ議論が多いのですが、トレーニングを行うことにより筋に発生した乳酸を早く処理する能力が増大し、乳酸に対する抵抗力が増大し、トレーニングしていない人より多量の乳酸が発生しても運動を続けることができるようになるものとおよそ考えられています。つまり、乳酸に対する抵抗力を鍛えるようなトレーニングを積むことで、ハイペース耐性が付くということです。

二章 人と馬におけるストライド、ピッチとは

過去レースを見る時に、このレースはこの馬にとって乳酸系だったのか酸化系だったのかという見極めが重要になっております。

①スローペースからの瞬発力勝負は 酸化系→ATP-CP系

②ハイペースからの持続力勝負は  酸化系(弱)→乳酸系(強)、ATP-CP系(弱)

を主に使用する事になります。

となるとその馬にとっては①、②のどちらのパターンだったかというのを見分ける必要があります。

これはストライドやピッチの変化を詳しく見る事で①なのか②なのかを見分けることができます。


まず、①のパターンの見分け方の場合。

自分の体で考えて欲しいのですが、ゆっくり走っている状況下で笛を吹いてもらいます。その瞬間に全力疾走に切り替える。こういった時、人間のストライドとピッチはどうなるでしょうか。ゆっくり走っている時は自分の走りやすいように控えめなストライドでピッチもゆったりと走ります。ですが、笛が吹かれた瞬間にストライドは大きく、ピッチは速くなります。馬もこれと同じことをやっています。なので急激にストライド、ピッチ共にが変わるという現象が見られます。

次に②の場合

人間でいうところの400メートル走や800メートル走をイメージしてください。同じペースで淡々と走り続けます。具体的に言うと自分の体力を極力減らさない且つ速く走り続けるということになります。最後に余力が有れば少しだけストライドやピッチは変わるが、基本的にはそのままゴールします。ハイペースのレースでは馬も同じことをしています。ストライド、ピッチ共にあまり変化がない場合はその馬にとってハイペースであったと言えるでしょう。(注。不器用な馬の場合は①、②どちらとも変わらない可能性がある。そういった馬は俗に言うワンペースの馬であり、ダートに使われることが多い。)

三章 距離適性について

距離が持たないというのは一章の序盤で述べたATPが尽きてしまう状況を言います。別の言い方にするとATPの生産が間に合わなくなることです。ATPが足りないと言っても、一概に距離が長かったからATPの生産が間に合わなかったとは言えず、ペースが早かったからATPの生産が間に合わなかった場合もあります。酸素系でこなせる距離やペースで有れば余裕があったと言えますし、酸素系が限界に達し乳酸系まで多く手を出しても最終的にATPの生産が間に合えばオッケーです。

結局のところ、馬の走り方や心肺機能などで決まりますが、馬にとって想定外のペースになると力みが生じて早い段階で酸素系が飽和し、乳酸系に手を出さなくてはなりません。そうなると苦しくなってしまいます。

このことから、馬が無理なく道中走れて、その結果どうなったかというところに焦点を合わすべきではないでしょうか。

騎手がスタートからずっと押し続けているとなると馬にとってペースが早いでしょうし、逆に気持ちよく走っていたのに失速してしまったとなると距離が長かったとなります。騎手や馬の仕草を見ることが大事だと思います。

調教や馬の気性によっても適性距離は変わってきます。例えば、メイケイエールという馬がいますが、気性が荒く自分の周りに馬がいると追い抜かないと気が済まないという馬です。この馬を調教で馬込に慣れさせることやゆったり走らせることが出来たなら適性距離は伸びるでしょう。ただ現状は1200でも長いくらいに思えてしまいます。

四章 乳酸から考える競馬との向き合い方

二章で述べたように馬にとっての①、②が見分けることが出来たなら馬の性質がわかってきます。この馬は①、②どちらが得意なのだろうかと。また三章で述べたように適性距離の見分け方も大事です。もちろん、調教により乳酸抵抗力は強化できますので、そこにも注視する必要があります。

ラップで馬の余力を見るという説を聞くことはよくありますが、それに加えて乳酸値を想定して余力を見抜くのがオススメです。ラップだけでは馬が単純に速く走れないだけの可能性も大きく残しており、乳酸値を想定することで予想の精度が上がるのではないだろうかと推測しております。

最後に一言

皆様も感覚的には理解している方も多いとは思いますが、理論的に理解すれば競馬予想の幅が広がると思います。

競走馬の強い弱いというのはどこを見ればいいのかというお悩みの方々が多いとは思うので、参考になれば嬉しいです。

もちろん今後もこの理論を深めたり、更に違う分野に注視したりと様々な角度からのアプローチをしていきたいと思っておりますので、今後とも注目してください。

皆様の愛情で大卒ジョッキーは作られております。愛をいただけたら幸いです。