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歩くまちには、何がある? まちを知る楽しさを体感できるプロジェクト「まちシル」の活動

大ナゴヤ大学で2022年4月にスタートした「まちシル」。まちを知る楽しさを体感できる、まち歩き形式のプロジェクトとして、同年末までに16コースの授業(+特別授業)を開催してきました。2023年度も、さまざまなまちをフィールドに授業を企画していく予定です。

そもそもなぜ、このプロジェクトを始めたのか? 他のまち歩きとは違う特色とは? これからどんなふうに活動を広げていくのか? 「まちシル」メンバーの小林つぐみさん・齊藤美幸さんに、じっくり語ってもらいました!
(聞き手:大ナゴヤ大学理事長 大野嵩明)

大ナゴヤ大学独自のまち歩きプロジェクト「まちシル」はどうやって生まれた?

大野:大ナゴヤ大学は長年、名古屋の文化と歴史の祭典「やっとかめ文化祭」のコンテンツ「まち歩きなごや」の企画・運営に携わってきた。大ナゴヤ大学の授業の中でもまち歩きを行うことはあったけれど、まち歩きに特化した自主プロジェクトはなかった。せっかくまち歩きの企画・運営ノウハウを持っていて、興味のあるメンバーもそろっているなら、新プロジェクトとしてやってみよう、という話から「まちシル」が始まったんだよね。

齊藤:大ナゴヤ大学のプロジェクトとして立ち上げるなら、どんなコンセプトにするのが良いのだろう? という議論は、結構じっくり重ねましたね。「まち歩きなごや」は歴史に特化したコースが多くて、最近では多様なテーマを扱うようになってきたけれど、歴史にしても建築や自然にしても、ひとつの切り口を深掘りするまち歩き。でも、もっと広く、対象となるまちの「全体」を知るまち歩きもあっても良いんじゃないか、と。

齊藤:まちに埋もれているたくさんの「おもしろい」に気づくためには「観察する視点」を持つことが大事。まち歩きはそのための手段。案内人となる先生の視点を借りて一緒にまちを歩くことで、視点を養うことができる。こうしてまちを観察することが、まちを知ることにつながる。そんな、「まち歩きなごや」とは違う、さらには観光特化型のツアーとも違う、独自のコンセプトができあがってきました。

大野:齊藤さんは以前から「まち歩きなごや」の業務も担当していて、僕のほうから声をかけて「まちシル」の立ち上げに関わるようになった。小林さんは、ある程度の方向性が見えてきて、いざこれから本格的にプロジェクトを始めようというタイミングからメンバーになってくれたよね。ふたりとも、なぜ「やってみたい」と思ったんだろう?

齊藤:私は単純に「まち歩きが好き」というのが動機でしたね。でも実は、「まち歩きなごや」の企画・運営に関わるまではまち歩きには参加した経験もなくて。普段はライターの仕事もしているので、地域情報に触れる機会は多かったのですが、ひとつのまちについて深掘りしながら歩くのは新鮮で、すごく楽しかったです。一方で、「まち歩きなごや」とは違う、大ナゴヤ大学ならではのまち歩きも実現できたらおもしろいだろうなと思いました。

小林:私も前職でコピーライターをしていたので、ちょっと似ているところがあります。仕事でいろんな地域に行っていてもまだまだ知らないことが多くて、「もっと知りたい」という気持ちが沸々とわいていたんです。そんなときに、「ハタラクデアイ」(大ナゴヤ大学の有志メンバーが運営する求人メディア)に掲載されていた <「何もない」と捉えていた自分のまちを、違った角度から見つめられるかも> という募集文を読んで、興味が湧きました。

視点を変えてまちを歩けば、見える風景も変わる

大野:実際に「まちシル」に関わってみて、「まち歩き」という手法自体の楽しさはどういうところだと思う?

齊藤:普段ひとりで散歩するのも好きですが、それだけだと知れないことってたくさんあると思うんです。個性ゆたかな案内人のみなさんの目線でまちを見ると、新たな発見があって、今までとは違った風景が浮かび上がってくる。座学で「ここに、こういうものがありますよ」と話を聞くのではなく、実際に歩いて自分の目で確かめることで得られる楽しさもありますし、実体験に紐づくことで、そこで得た情報が胸にストンと落ちるような感覚もあります。

小林:まちの歴史や実際に住む人のエピソードも、その場を歩いてみると想像がしやすいですよね。現地に行くと、話を聞いたり資料を読んだりするだけじゃ思い浮かばなかった、新たな問いが見つかることも醍醐味の一つだと思います。あとは「体を動かす」のと「考える」行為が結びつけられると、記憶に残りやすくなる気もします。


齊藤:「まちを知る」をそのまま名前にした「まちシル」というプロジェクト名も、一言でコンセプトが伝わるのですごくしっくりきていますね。

小林:うんうん。

企画を続ける中で見えてきた“まちシルらしさ”とは

大野:ロゴもイメージに合ったものができて、次はいよいよ、まち歩きの企画に取り掛かる段階。どうやってコースをつくっていったのか振り返っていけたら。

小林:まずはみんなで案出しをして、そこから担当を振り分けていくという流れでしたね。私が円頓寺のコースで、齊藤さんが瀬戸のコースで、と。

大野:2022年4月のコースは、僕がつながりのある人を候補に挙げていったのが多かったかも。

齊藤:瀬戸の授業で先生をしてくれた南未来さんは、大野さんが挙げてくれた先生候補でしたが、私も以前にお会いしたことがあったので、まち歩きの案内をしてくれたらおもしろそうだという想像が膨らみました。地元でライターとして活躍する南さんならではの目線で、まち歩きができるんじゃないかって。結果、“まちシルらしい”授業になったと思います。

小林:4〜6月は、“まちシルらしさ”ってなんだろう? と考えながら手探りで進めている感覚がありましたね。テーマを絞りすぎると、「まち全体を知る」というコンセプトからずれてしまう。広い視点で多面的に見ている人にまちを案内してもらうことが大切だと感じました。

大野:あらためて「まちシル」のおもしろさを言語化すると……?

小林:ずばり、前提知識ゼロでも楽しめるまち歩き! 歴史などを切り口にしたまち歩きは、ある程度の知識があったほうが楽しいと思うんです。でも、「まちシル」は“まちを知る入り口”なので、何も用意していなくても楽しめます。入門編的なまち歩きだからといって物足りないこともなく、まちに愛のある人が独自の案内をすることで、充実したまち歩きができているのかなと思います。

齊藤:まちを知ることで、愛着を持てるまちが増えるのも「まちシル」のおもしろさですよね。またそのまちに行きたくなって、足を運ぶ回数が増えればまちがもっと好きになる。「まちシル」は、まちのファンをつくる活動ともいえそうです。

小林:まちの景色はずっと同じではなくて、日々変わっていくものだから、何度行ってもまた楽しめますね。「こんな場所があったなんて!」という驚きや発見があると、誰かに教えたくなるし、そこからまちと人のつながりが広がっていくのも楽しいです。

生徒さんにも、先生にも、新たな気づきを

大野:9月〜12月には、僕も知らない人が先生として登場するコースも増えてきた。「まちシル」の案内人を引き受けてくれた先生たちの反応は、どんな感じだった?

齊藤:「まちシル」で初めてまち歩きの案内人に挑戦する先生も多くて、「こういう手法でまちを伝えることができるんだ、という気づきが生まれた」「生徒さんと会話することで、外の人たちから見たまちの印象を直接聞くことができた」という声もありました。打ち合わせ段階から張り切って準備をしてくれたり、当日も先生自身が楽しんでくれていたり、そんな姿を見るとうれしくなります。

小林:たとえば、星が丘の案内をしてくれた東山遊園株式会社の柏木さんは、「星が丘のことを知ってほしい」という使命感がすごくある人。「私たちが伝えなきゃ!」という熱意がひしひしと伝わってきたので、一緒に良いまち歩きが実現できました。

大野:先生だけじゃなく、生徒さんからもいろんな声があった。

小林:近くに住んでいる人・働いている人が参加してくれたときも、「身近なまちなのに発見がたくさんあった」という感想をよく聞きます。自分の生活範囲から興味を持って「もっと知りたい」と思ってくれる人もいれば、エリアに関係なくいろんなまちを楽しんでくれているリピーターさんもいますね。

齊藤:「まちシル」をきっかけに、大ナゴヤ大学の他のプロジェクトや授業にも参加してくれた人もいて、大ナゴヤ内での人の輪が広がるのもうれしいですね。

「まちシル」のこれから

大野:今後、「まちシル」でやってみたいことはある? 

齊藤:とにかく、もっといろんなエリアでまち歩きを開催できれば。まちのことを語れる良い先生さえ見つかれば、「まちシル」はどんなまちでも展開できるはず。その先生探しがいちばん大変なんですが……。

小林:まだまだ知らないまちがたくさんあるので、たくさん歩きたい! まち歩きを企画しながら、自分の知的好奇心を満たして楽しんでいきたいです。

齊藤:「まちシル」で先生をしてくれた人同士を引き合わせて何か企画するのもおもしろそうですね。「この人とこの人が会ったらすごい化学反応が起きそう!」と感じることは多々あるので。まち歩きを開催して各地に「点」を増やしていったものを、次は「線」として結んでいけたら良いなと思います。

小林:あとは、まちシルグッズをつくりたいという野望も。

齊藤:これまで「まちシル」で訪れた場所で撮った写真を整理して、写真展もできたらいいな。

小林:まちの情報を紹介するようなイベント出店もできたら楽しそうですね。まだまだ妄想段階だけど、いろいろ夢はあります!

まずは、2023年4月に2コースを開催予定。5月・6月のコースも着々と準備中です。グッズやイベントもいつか実現するのか!? 「まちシル」2年目となる今年の動きに乞うご期待!

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