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黛敏郎の代表作、涅槃交響曲

こんばんは、音楽評論家の和田大貴です。日本の作曲家である黛敏郎の代表作の一つである涅槃交響曲について紹介したいと思います。この作品は、仏教の世界観をオーケストラと男声合唱で表現した壮大な交響曲で、日本の音楽史において重要な位置を占めています。この作品の背景や構成、音楽的な特徴などを詳しく見ていきましょう。

涅槃交響曲の作曲のきっかけは、黛敏郎の友人である早坂文雄の死でした。早坂文雄は、同じく作曲家であり、黛敏郎とは東京音楽学校(現在の東京芸術大学)で同級生だった人物です。早坂文雄は、1955年に肺結核で亡くなりましたが、彼は涅槃をテーマとした交響曲を書こうと考えていたそうです。しかし、その夢を果たせなかったので、黛敏郎がその志を継いだと言えます。黛敏郎は早坂文雄に捧げるために涅槃交響曲を作曲しましたが、それだけではなく、自分自身の仏教への関心や探求も反映されています。黛敏郎は仏教について多くの書物を読み、また寺院や仏像を訪れて感銘を受けました。特に天台宗に興味を持ち、その経典や声明を研究しました。これらの要素が涅槃交響曲において重要な役割を果たしています。

涅槃交響曲は6つの楽章からなりますが、その中でも特に印象的なのは第2楽章と第6楽章です。第2楽章では、天台宗の経典「首楞厳神咒」が男声合唱で歌われます。この経典は一つの音程を反復する読経の様式で歌われますが、その音程が積み重なっていって最後は半音12音全てを含む和音へと発展します。これは仏教の教えである空や縁起を音楽的に表現したものです。第6楽章では、音楽はそれまでの無調から一転して、明確なロ調の旋法に基づく調性的な響きとなります。これは涅槃に達した境地を表しています。天台宗の声明「一心敬礼」に基づくメロディが男声合唱で歌われますが、ここでは言葉はなく「オー」という発音のヴォカリーズで歌われます。同じメロディがオーケストラで展開された後、「永遠の涅槃に達して」全曲を閉じます。

涅槃交響曲は、黛敏郎が鐘の音色に魅せられて始めた音響学的な研究から生まれた作品です。彼は鐘の倍音をスペクトル解析してオーケストラで再現するという手法を用いました。これを彼は「カンパノロジー・エフェクト」と呼びました。この効果は第1楽章や第3楽章などで聴くことができます。また、舞台上のオーケストラ以外にも客席後方やバルコニー席に小グループのオーケストラ(バンダ)が配置されています。これは鐘の呼び交わしや空間的な効果を出すためです。

涅槃交響曲は、日本人ならではの感性や思想をオーケストラと合唱で表現した壮大な作品です。黛敏郎はこの作品で1959年に尾高賞を受賞しました。また、この作品を聴いたジョン・ヒューストン監督から映画「地獄の黙示録」の音楽を依頼されましたが、黛敏郎はこれを断りました。彼は自分の音楽が戦争映画に使われることを望まなかったからです。涅槃交響曲は、平和への願いや生命への敬意が込められた作品なのです。

以上、黛敏郎の代表作、涅槃交響曲について紹介しました。この作品は、日本のオーケストラ音楽の傑作として高く評価されていますが、実際に演奏される機会は少ないです。その理由は、演奏に必要な人員や時間が多く、また難易度も高いからです。しかし、この作品を聴くことで、日本の文化や精神に触れることができますし、また音楽的にも非常に興味深いものです。もし機会があれば、ぜひ生で聴いてみてください。それでは、次回もお楽しみに。


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