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「タイムスリップ」が好きだ

タイムスリップが好きだ。

誤解のないように言っておくと、僕はタイムマシンを発明したわけではないし、突発的な事故か何かをきっかけに過去の世界に迷い込んだ経験を持つわけでもない。いわば、脳内タイムスリップだ。

やり方は次の通り。

1.自分が過去に撮った写真を用意する(できれば古めのもの)
2.見る
3.当時のことを思い出す

以上。

メンリッヒェンから

あまりのしょうもなさに落胆した人もいるかもしれない。でも、思い出してみてほしい。

部屋の整理をしていたらアルバムが出てきてちょっと眺めるだけのつもりが、
「この時はこんなことがあったなぁ」
「長らく会ってないけどこの友達は元気かなぁ」
なんて思い出に耽ってしまい、気づいたらかなりの時間が経っていた…そんな経験を持つのは僕だけではないはずだ。


撮った時のことをそんなに覚えているわけでもなかったのに、写真を目にするとその時のことがブワーッと思い出され、ついつい時間を忘れて過去に浸ってしまう。写真にはそういったパワーが宿っている。

あの、当時を追体験するような感覚はある種のタイムスリップと言えるんじゃないだろうか。

時に作業を邪魔するものではあるが、僕はそんな時間が好きなんだ。

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では、ここからが本題だ。

初めて行った海外のことを覚えているだろうか?

台湾・アメリカ・インド・韓国、あるいはヨーロッパのどこか、アフリカの全く日本人に知られていない国、という人もいるかもしれない。

僕の場合は、スイスだった。

太陽

今から15年前の2月、大学1年生を終えた春休みにクラスの友人Kとスイスに行った。スイスを選んだ理由は至極単純、ドイツ語学科だったからだ。

初めて踏む異国の地は、新鮮さの宝庫で興奮しっぱなしだった。きっと、あのスイスでの旅を僕は一生忘れない。

惜しむらくは、その時はまだ手軽なカメラ(いわゆるコンデジ)しか持っていなかったし、大した写真を撮れなかったこと。写真を仕事の一部にしている今なら、もっと良い写真をいっぱい撮れたはず。

なんて思っていた…先日、ふとスイスで撮った写真を見返すまでは。


そう、その時にあの、あのタイムスリップが起こったわけだ。

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スイスでの滞在時間8日。撮った写真は全部で117枚。特にカメラの知識もなく、なんとなく撮られたであろう写真たち。でも、そこには紛れもなく、何かを感じてシャッターを押した19歳の自分がいた。

そうか、何も感じずにシャッターを押すことはないんだ。

そのことに気がつくと、なぜ撮ったかよくわからない一枚や、ミスをしてる写真なんかがとても面白いものに見えてきた。それに、写真を見返さなければ一生思い出さなかっただろう記憶なんかも、どんどん掘り起こされるではないか。

例えば、こんな風に。

1.「日常」に感じる情緒

チューリヒの町

最初の町、チューリヒ。到着が夜だったため、初日は宿に行って寝るだけとなった。その次の日の朝の一枚だ。

なんてことのない一枚かもしれない。でも、これは結構お気に入りの写真で、これまでに何度も見返した。

その理由を深く考えたことはなかったけど、おそらく初めて「異国の日常」に触れられた瞬間だったからだと思う。絶景や映えスポットみたいな場所だけが異国情緒を感じる場所じゃない、もっと地元の人に根付いた「日常」の中にこそ異国情緒があるんだ、みたいなことをこの時感じた…ような気がする(笑)。

2.夜に潜む山

ユースホステルの窓から

衝撃だった。チューリヒを出て南西へ向かう。行き先はグリンデルヴァルト。ユングフラウやアイガーといった4,000m級の山々に囲まれた、スイスの中でも人気のあるエリアだ。

チューリヒからは結構距離があり、すでに日も沈んで、電車の窓の外はほぼ何も見えない。そんな中、ボーッと窓外を見ていたら、遠くの方に何かが見えた。いや、遠いのかどうかもよくわからない。というか、遠くにしては異様にデカい。距離と大きさが合ってないのだ。

その山が見えたのは一瞬だったけど、あの時に感じた恐怖心に似たワクワクは今も心に残っている。

この写真はその時に見えた山ではなく、宿に到着してから撮ったものだが、これを見てなぜか思い出した。

3.きっと思い出すこともなかっただろう町

ブリーク

電車の乗り換え時の一枚。滞在時間が10分やそこらなので、きっとこの写真がなければ一生思い出すことはなかった町だと思う。でも、この写真を見て今この町にまた行きたいと思う自分がいる。この景色をもう一度見てみたい。

そういった、つながりは浅くとも何かを感じる場所というのも面白いもので。撮った時は何気なくシャッターを切ったはずだから、それが15年も経った今の感情につながってきているというのは何とも不思議だ。この写真を撮っておいて良かったと強く思う。

4.マッターホルンの見える宿

ホテルの窓から マッターホルンと月2

スイス南部の町、ツェルマット。名峰マッターホルンが見える町ということで有名だが、まさかホテルの窓から見られるとは思っていなかった。ドミトリーの1泊5,000円もしない宿なのに…素晴らしいサプライズだった。Kと共にひたすら興奮して窓から何枚も写真を撮った。事前に色んな情報を調べられる今の社会では味わえなかった感動かもしれない。

Kはこのことを覚えているだろうか?次に会う時には聞いてみよう。

5.イタリアを望む

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「あっちはもうイタリアだよ」と、聞いて思わず撮った一枚だったと思う。

正直、この旅で1・2を争うくらい素敵な、文句のつけようのない絶景だった。雲もいい感じ、青空に雪の白が映えて素晴らしい一枚じゃな…いか……いや、指入ってるーー!

なぜ!全117枚中、指が入った写真はこの一枚だけ。なぜここで、なぜこの絶景で指を入れた!?

…そういえば、帰国してからこの写真を見て落ち込んだ記憶も蘇ってきた。国外を直接目で見るという経験が初めてだったから興奮したのだろう…落ち着け、19歳の自分よ。


と、こんな具合に思い出の発掘が止まらなくなるわけだ。

これは何も旅先での写真に限った話ではない。美味しかった料理や卒業式なんかの区切りの一枚でもいいし、家族写真というのもアリだろう。人によって思い出が蘇る写真は色々あっていい。

経験は財産だと言われるが、記憶だって財産だ。

今は誰もが手軽に写真を撮れる時代。でも、撮って終わりじゃなくて、たまには写真を見返す時間も楽しんでみてほしい。少しばかり時間を経たものだと、よりタイムスリップ感を楽しめるからオススメだ。

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僕は一旅人として、きっとこの先もどんどん旅をする。今は無理だけど、海外へ行ける日が来たら、スイスを含めた様々な国へすぐにでも飛んでいきたいと思っている。

そして、旅先の写真を撮り続けたいと思う。いつかまたシャッターの瞬間を思い出す、その日のことを想像しながら。


思い出に耽る、なんて大の大人が言うとちょっと恥ずかしい気もするし、切なさを感じることもあるけれど。
そんな「(脳内)タイムスリップ」が僕は好きだ。

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