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実例解説!個人事業主が一人で事業再構築補助金をもらうためのマニュアル その② 事業計画を練ろう

協力してくれる認定支援機関が見つかり、gビズとったら戦う準備は完了です。次は「事業再構築計画」を練っていきます。補助金で何をするか決めるわけです。

これは補助金なので、何に使ってもいいわけではありません。決められた指針に沿ったものではないとまず審査対象にすらなりません。指針に沿ったビジネスを考えていきましょう。

一体どんな計画なら採択されるのでしょうか。私の事例で考えていきましょう。私は整骨院を経営しています。なので、

「よーし、この補助金で新しい治療の機械を買うぞ!」

とか考えがちです。が、これはNGです。審査対象にすらしてもらえず予選落ち確定です。一方、小規模事業者持続化補助金であれば審査対象になります。小規模事業者持続化補助金というだけあって、個人事業主にはこっちの方が使い勝手がいいのです。ただし、上限が低いというデメリットがあります。事業再構築補助金の魅力は補助額が100万円を超えていることです。考えているプランが100万円を超えるものであるなら事業再構築補助金を狙ってみましょう。

事業再構築補助金で採択をうけるには、まずは指針について学びましょう。

長くなったので目次をつけました。

1 事業再構築指針

事業再構築補助金の指針はこんな感じです。

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ざっくりいうと、

「思いきった」「新規事業」「ただし今までやったことないジャンルに限る」

です。

事業計画はまずこの指針に沿ったものでなければなりません。

さらにこの指針は、再構築計画後の売上予想が本業の何%になるかによって、「新分野展開」「事業転換」「業種転換」などの類型に分けられます。どの類型にするにしても「思い切った」「新規事業」「やったことないジャンル」という縛りはあります。

さて再び私の事例です。私は現在、施術者一人で小規模な整骨院をやっています。そこで考えます。

「よーし、思いきって、施術者をもう一人雇って事業を拡大するぞ!」

これもNGです。新規事業ではないからです。思いきるだけではダメなのです。

では次のプラン。

「よーし、思いきって、整骨院の2号店を出すぞ!」

これもNGです。思いきった新規事業ですが、業態が整骨院なので新しいジャンルではないからです。

縛りがあるためなかなか思った通りの計画をさせてくれないのが補助金です。事業再構築補助金は今までの補助金に比べてこの縛りが鬼キツい補助金なのです。


2 審査項目

さて、次は指針に沿ったプランです。

「よーし、思いきって、2号店として鍼灸院を出すぞ!」「整体院を出すぞ!」「マッサージ店を出すぞ!」「リフレクソロジーの店を出すぞ!」「エステ店を出すぞ」

これなら指針に沿っているので審査対象には上がります。ただ、今度はありきたりすぎて審査の段階で落ちる可能性があります。

なぜなら、補助金には審査項目というものがあるからです。

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補助金の応募には、まず指針に沿った計画書の作成が必要です。しかし、それだけでは審査のテーブルに乗っただけであり、そこから採択されるためには審査ポイントをクリアしていかなければなりません。

審査項目にはこんなものがあります。

(2)事業化点
2 事業化に向けて、競合他社の動向を把握すること等を通じて市場ニーズを考慮するとともに、補助事業の成果の事業化が寄与するユーザー、マーケット及び市場規模が明確か。市場ニーズの有無を検証できているか。
3 補助事業の成果が価格的・性能的に優位性や収益性を有し、かつ、事業化に至るまでの遂行方法及びスケジュールが妥当か。補助事業の課題が明確になっており、その課題の解決方法が明確かつ妥当か。
4 補助事業として費用対効果(補助金の投入額に対して増額が想定される付加価値額の規模、生産性の向上、その実現性等)が高いか。その際、現在の自社の人材、技術・ノウハウ等の強みを活用することや既存事業とのシナジー効果が期待されること等により、効果的な取組となっているか。

前述の2号店プランは既存事業とは別業種なので指針に沿ったプランではありますが、単なる別業種の普通のお店として出店するなら競合他社と比べてなんらかの優位性もなく既存事業とシナジーもないので審査ポイントを満たしていません。

審査ポイントを満たすためにはここから工夫が必要です。例えば1号店と2号店の会員カードが共通であり組み合わせたメニューを利用すれば一定の割引があるとか、2号店はオンライン予約でキャッシュレス決済のみの店であるとかそんな感じです。思いつきで書いただけなのでチンケなプランですが、採択されるためにはなんらかのシナジーや優位性が必要ってことです。

うーん、むずい!

さて、再び私の事例です。この指針にあったプランとしてまず私が思いついたのは、「エニタイムみたいな24時間ジムやりたいなあ」でした。私は整骨院経営なので24時間ジムは新規事業です。趣味は筋トレなので自分好みの24時間ジムが欲しかったのです。これは指針には沿ってはいるのですが、エニタイムをやろうと思うと5000万円以上はかかることがわかりました。思い切るにもほどがあります。既存事業とシナジーもあまりないし、5000万ものリスクを負うくらいなら普通にジムに通った方が安いので却下しました。次に思いついたのは「個室の24時間ジム」です。

こんなやつです。

思いついたというよりただのパクリです。パワーラックやスミスマシンを思いきり使ってみたかったのです。こんな感じの24時間個室ジムなら初期費用もさほどかからず、今の整骨院の近くに作れば整骨院の受付スタッフを消毒や掃除係としてちょっと見に行ってもらったりすれば運営コストも下がるしリスクが下がり、整骨院の仕事ともシナジーがありそう、なんて思いましたし、このまま計画書を書けば採択される自信もありました。が、物件取得費用は補助金対象外なので、持ち出し費用がけっこうかかる上、補助金応募するために物件抑えて補助金不採択なら解約ってのも無駄やなと思いやめました。

そして今回の採択された事業を思いつき、実行致しましたが、それは内緒にしておきますw

といっても、これもパクリです。よく言うと、横井軍平さんの哲学、「枯れた技術の水平思考」です。


3 事例考察

さて、どんな事業計画書ならば採択されうるのか。今度はヒト様の事例で考察していきます。

私のお店の近くに焼肉店があります。このお店はコロナ以前は夜のみの営業でした。しかしコロナ禍により、昨年末くらいから店舗の一部を改装し、そのスペースを精肉店とし、焼肉スペースはランチ営業も行い、店前ではお昼用のお弁当の販売を始めました。Uberとかもしていたと思います。素晴らしい経営判断であり、国としてはこういう意欲のある方をどんどん補助していってほしいものです。

このお店のような事例を事業再構築補助金の事業計画として応募したとしたらどうでしょうか。【焼肉店の一部を改装して精肉店にし、お弁当のテイクアウトを行う】という事業計画です。コロナ禍からの脱却という本来の補助金の趣旨であるならば、問答無用で採択!といきたいところですが、指針に沿った審査ポイントを満たしているかと言われたらどうでしょうか。

この事例であると、このお店が精肉店をするのが初めてであるとするならば、再構築指針に沿っているため審査対象にはあがると思います。ただこのままだと私の感覚だと五分五分というところではないでしょうか。審査ポイントとして、

市場ニーズや自社の強みを踏まえ、「選択と集中」を戦略的に組み合わせ、リソースの最適化を図る取組であるか。

という項目があり、リソースの最適化という観点では加点対象です。

ただ、別の審査ポイントとして、

補助事業の成果が価格的・性能的に優位性や収益性を有し、かつ、事業化に至るまでの遂行方法及びスケジュールが妥当か。補助事業の課題が明確になっており、その課題の解決方法が明確かつ妥当か。

とあります。

焼肉店が精肉店をやるというのは、その焼肉店にとっては新規性があるものの、精肉店が焼肉店を経営しているケースは沢山あるので優位性という点で差別化できてないのではないでしょうか。

なのでもう一捻りしたいところです。私の浅はかな頭脳で思いつくのはありきたりの「スマホで注文・決済し、キャッシュレスで店舗受け取りできる精肉店」みたいなものでしょうか。独自性をだすために無駄な投資をする、ビジネスとしてはダメなケースですね。「一方、ロシアはえんぴつを作った」ってやつです。ただ、補助金の審査としてはこれは採択されそうな気がします。審査項目に、

4)政策点
1 先端的なデジタル技術の活用、低炭素技術の活用、経済社会にとって特に重要な技術の活用等を通じて、我が国の経済成長を牽引し得るか。

なんて項目があるからです。とりあえずデジタル化しておけば審査ポイントは満たすと思われます。

サイゼリヤはコロナ対策としてえんぴつとメモで注文するようになり、賞賛を浴びていますよね。しかし、補助金の事業計画書に「えんぴつとメモにより顧客から注文を受けることで業務の効率化と感染リスクの低下をはかる」なんて書いてあるとおそらく不採択でしょうね。ノーデジタルだからです。最先端じゃないからです。補助金の不条理みたいなものを感じます。

他に思いつくのは「焼肉店で使用する人気抜群の秘伝のタレに漬け込んだ焼肉専用の精肉を販売し、おうちでお店の味を楽しめる!」みたいなものでしょうか。一般の精肉店に対しては優位性があります。

このパターンだと、「人気の秘伝のタレ」がいかに人気であるかの根拠を文章化していかなくてはなりません。よくある間違いは「このタレは創業から継ぎ足した独自の配合で…」とか「一般では販売していない幻の醤油を使った…」とかタレについて語ってしまうことです。審査員は料理人ではないのでそんなことはどうでもいいのです。

こういうパターンは、いかにタレが人気なのか、定数的に提示していくといいと思います。例えば売上人気No.3までは全てタレを使った商品であるとか、焼肉の売上構成比がタレと塩では圧倒的にタレであるとか、そんな感じです。

そんなこんなで独自性を無理やりにでもこじつけていかないと補助金には採択されづらい気がします。採択された計画の一覧表を見たことありますか?私が言うのもなんですが、採択結果のタイトルをみててもヘンテコなプランタイトルばっかりです。不条理ですね。

さてもう一例。

私の自宅の近くに居酒屋がありました。夜しか営業していないお店でした。

このお店が最近改装し、お昼は無農薬野菜を販売する八百屋、夜は立ち飲み屋、オールタイムで無農薬野菜を使ったチヂミのテイクアウト販売をするお店になりました。このお店が事業再構築補助金を狙ったお店かどうかは知りませんが、この事例で応募したとすればおそらくそのまま採択されると思います。

居酒屋から八百屋への転換は新規性があり、野菜の仕入れ先が居酒屋と共通であるならばリソースを活かしてる上、チヂミのテイクアウトというあまりなさげな店舗をミックスしているので独自性も高いですよね。「テイクアウトによる安価なチヂミの販売はそれ自体が収益性のある事業であるが、それに加えて弊社商品を多くの顧客へと訴求する宣伝広告的な役割も兼ねている。チヂミは弊社が提供するメニューの中では安価な部類・テイクアウト業態なので店内に入店せず購入できるという気楽さ・比較的認知度が高く家庭での食卓に上がりやすい食品であるから弊社に来店されたことのない顧客にも販売しやすく、このチヂミ販売により顧客へと弊社商品の品質の高さと野菜の品質の他店との違いを訴求することができ、より顧客単価の高い立ち飲み業態への流入や日常的な無農薬野菜購入を顧客に習慣づけることができるという付随的効果を持たせている」なんてことを事業計画書に書いておけば審査員の先生方も「うん!よく考えられている!」なんて思ってくれるんではないでしょうか。知らんけど。

このお店が成功するかどうかは知りませんが、「無農薬八百屋」×「立ち飲み屋」×「チヂミのテイクアウト」なんて組み合わせの店はなかなかなさそうなので、事業計画書をうまく書けたら高確率で採択されそうですね。ビジネスで成功するかどうかと補助金に採択されるかどうかは別問題なのです。数年前の小規模事業者持続化補助金の採択を受けた事業者を何件か検索したら潰れている所がけっこうありました。だいたいの申請者さんが補助金ありきの計画を立ててしまうのでちょっとヘンテコな無理のある事業計画になってしまうのが補助金の特徴だと思ってます。

さてこのお店は成功するのでしょうか。無農薬八百屋といえば、「有機野菜のなんとかカレー」とか「季節のなんとかサラダ」とか「契約農家なんとかさんの卵を使った至高の卵かけご飯」みたいな意識高いメニューが出てきそうなのに、「チヂミ」ですからね。

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「チヂミ」で素材の味を感じることができるのでしょうかw

しかし審査員は料理人ではないので味なんかどうでもよくて、指針に沿った、審査ポイントを満たした事業計画書が採択されるというわけです。何回も言いますが、ビジネスで成功するかどうかなんて補助金の採択にはあまり関係ないのです。

そんなわけで、事業計画を練る際は、収益がちゃんとあがるかどうかということに加えて、「リソースを活かし」「優位性があるもの」を考えていかなくてはならないのですが、差別化しすぎてあまりヘンテコな事業にしてしまうとかえって苦しむことにもなりかねません。補助金をもらいかつ商売として利益を上げるためには現実的かつちょっとヘンテコ感あるものにする絶妙のバランス感覚を求められます。

そんな感じで事業計画を練っていきます。

4 まとめ

なかなか独自性のあるサービスが思いつかない方もいるかもしれませんが、ここまで上げた事例は全て「既存のサービスの組み合わせ」です。いまの世の中、全く新規のビジネスなんかほとんどでないし、そんなこと出せる人は限られてますからね。世の中のサービスのほとんどは「枯れた技術の水平思考」なのではないでしょうか。いろいろアンテナを張り巡らせて、自社の既存事業と他業種の成功事例を組み合わせて独自性のある事業計画書を作っていきましょう!





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