十、4月GW前

2021年4月GW前

緊急事態が終わって次はマンボーで……何が終わって何が始まったんだか、もう誰も分かっちゃいない……分かりっこない……どうしていいんだか分かるわけがないだろうが？……それでも細々と続けてきたマンスリーのセッションのイベントがあって……お客なんか誰も来ない……来るわけがないんだけど……それでも一応オープンにしとかないと……せっかくの週末夕方の営業時間で、休業中ってわけにもいかないから……誰か来るかもしれないし……来る者を拒むわけにはいかないから……いや拒んでるようなものなんだけど……でもそれは酒場の矜持みたいなもんで……まあつまんないコダワリなのかもしれないが……で、どうやってやったらいいかを考える……店として……どういうスタンスで……そういうのを散々伝えてきたつもりだったんだけど……セッション主宰のバンマスに……うまく伝わらない……こっちも整理できてないし……伝わるわけもなくて……。

人を呼びたいわけじゃない……感染のリスクを考えたってそうだし……でもセッションだから誰かには来てほしい……そりゃそうさ……分かるんだけど……まあ知り合いの……お仲間内の……知ってる人に声かけるぐらいにしといてもらえれば……高齢のメンバーもいるわけだし……何かあった時には連絡がつく範囲にしといてくれれば……。で、前回なんてホスト・バンドのメンバーだけしか集まらなくて……それは＜練習＞っていうんじゃないか？……で、3時間ぐらい練習に付き合うことになる……練習スタジオと化す……お安いレンタル・スタジオ……。別に飲みに来てるわけでもないから、飲み代なんて申し訳程度にちょっぴり……お金がほしいわけじゃないんだけど……コロナの協力金もらってるわけだし……お金を置いてけって言ってるわけじゃない……じゃあ貸切料金だったらいくらだとか言われたら、そりゃあそれなりの金額になってしまうわけで……。

お客のいないライブも散々やってきたし……客が一人とか三人とか……五人も来ればわりといい方で……普通の営業の日だって客人なんていつも数えるほど……誰も来ない日もある……だからやりたいことやってくれればそれでよくて……つまんない音楽だったらそりゃ嫌にもなるけど……つまんない音楽ってのは、要するに人を集めてエンターテイメントのマネごとみたいなやつで……お客なんかいなくてもやりたいことをやろうっていうのが好きで……それだったらオレは乗るよって……この場所でよければ使ってくれよって……だからこんなコロナの時代に、やりたいことがあったらお客なんか呼ばなくたって……好きなヤツだけ集まって……ひっそりやればいい……こっそり……お金にはならないけど……お金のために音楽やってるわけじゃない……お金も必要だけど……自分はお金に関しては貢献できないんだけど……全く……この場所だけは提供できる……それでよければ……それぐらいしか自分にできることはなくて……。

だからお金がほしいわけじゃないんです……そうじゃなくて……ここでしかできないようなことをやってもらいたくてですね……傲慢な言い方かもしれないけど……店主の特権なんてそれぐらいで……上手い下手でもなく……個性的なこと変なこと面白いこと……普通じゃつまんなくて……面白いと思ったからずっとやってもらってきたわけですし……でもちょっと……面白くなくなってきちゃったところもあって……面白いメンバーが来なくなっちゃったのもあるんだけど……コロナのせいもあって……。

彼らにとってみれば演奏できる場所も少なくなって……それでも演奏の合間合間の噂話で、どこどこのお店は今でもセッションやってるとかミュージシャンの誰其はどこに集ってるとか……うちだってそうやって噂話のネタになってるかと思うと……他の店々と同列に並べられて……条件で比較されて……そういうのは自分みたいなヒネクレた僻み野郎には面白くもない話で……彼らはそれでもこの店の音響がいいとかマスターの気持ちが好きだとか言ってくれて……それは有り難く受け取るんだけど……それでもこんな状況で、僕は彼らを守れそうになくて……何かあった時に守り切れる自信なんてなくて……彼らの楽しみを守るためのリスクが負えない……守れる人しか守れない……戦時下みたいな気分だから……禁酒法下か……彼らは今までやってきたことの流れを止められない……自分では決めてくれない……店に決めさせる……どうですか？やっていいですか？って……リスクはもちろん分担してくれるはずだとは思うんだけど……。

で、今回はいよいよ100均で買ってきた本立てにアクリル板を挟んで並べて、マスクもしてみた……初めて……何かあったら嫌だから……知らない人が来るかもしれないし……そしたらタバコも吸えないしビールを飲むのも億劫だし……こりゃあお酒もタバコも減らすことができるな……声を出すのも億劫で喋らなくて済むし……マスクして仕事している人たちってのは大変なんだな……ちょっとだけそんな気分を味わって……でもマスクのせいだかアクリル板のせいだか、音の聞こえ方が酷くて……変な反響をしてるのか……ハウリング気味のような音の詰まり……気分が悪いったらない……演奏を楽しむなんて気分になれない……ジャズのセッションの定番の……ソロ回しの陳腐な形式の……音合わせのパズルゲームの……その練習……目指すものも斬新さもあるわけじゃなく……個性的かなと思っていたものがただの下手さにしか聞こえなくなって……そんな風にネガティブになってしまって……よくない……マスクのせい……コロナのせいにしとけばいいか……。

ようやく7時前んなって3ステージ終わって……皆さんさっさと片付けて……そっと消えてゆく……バンマスが最後に残って《マスター来月もよろしく》……いや、来月5月もまだ分かりませんし……状況が……《例の場所代の件はどうしたらいい？》……いや、ですからお金がほしいわけじゃなくて……むしろお金なんか時短の協力金もらってるから要らないんですけど……《私らももっとお客さん呼んでお金を落とせるようにしたいんだけどね》……いや、今は人を集めるのは感染的によくないわけですし……少ない人数で、集まったメンバーで楽しくやってもらえればそれでいいんですけど……いや、いや、いやの連続……《じゃあどうしたらいい？》……どうしたらいいかなんて、分かんないんですよ！……《じゃあこうしよう、しばらく休みにしよう……来月はとりあえず中止ってことで》……で、帰ってった……散々伝えたくて伝わらなかったことが伝わった……というか自分で気がついた……言いたかったことが……言い方が……ようやく分かった……＜どうしたらいいか分からない＞って……そう言えばよかった……ただそれだけだったんだ……。

自分はこの店の店主で……この場所の管理人で……それで審判になろうとしてた……このルールの分からない時代に……世間の状況の変化に合わせて……合わせるというかその変化の中で……変化をあれこれと鑑みつつ自分の店のルールを考えながら……合わせるふりして合わせないような……基本的には変わらないと言いつつカモフラージュしながら……でルールなんか一向に定まらない……ルールのないゲームの審判……オレがルール……どこぞの偉そうな店みたいだな……でもそんなの酒場じゃない……酒場はアナーキーでアウトローの場で……ルールなんか定まっちゃいない……そもそも……ルールなんかないんだ……アウトローであることを感じる場なんだ……酒場ってのは……。

店の人間と客人と、そのどちらかに責任を担保するわけじゃない……責任は外に……社会や法律にあるわけでもない……オマワリなんかに治安を維持してもらうようなフザケた発想じゃない……遊びじゃねえんだよ……責任やリスクを……それに信用を……共有できる関係を築けるかどうか……お互いに他者に委ねてしまっては……店主でも客人でも出演者にも……ましてや外の社会やシステムにも……責任や信用を他に担保してしまってはダメだ……ここは共有する場所なんだ……だから自分が……店主が全て決めるわけじゃない……自ら委ねちゃいけない……自分に……審判になんかなっちゃいけなかったんだ……なれるわけもない……審判に委ねないゲーム……お互いの同意で進むべき……同意と納得からルールができてゆく……その発生の段階……その状態を続けていく……ルール未然の……型にハマる前の……ルールを固定してそれにまんまと縛られちゃいけない……そんなの立派な社会人の……文明人のやることだ！……文明の奴隷の！……。

この店は部室のようなもので……家と学校の……家と職場の間の場所で……そういうのサードプレイスとか言うらしいが……それは自由でなきゃいけない……＜でなければならない！＞なんて言うのも烏滸がましいんだけど……自律してなきゃ……責任をどこか他所に委ねて……管理させて……管理に責任を委ねて……審判を置いて……国や政治に責任を委ねて自らを管理させるんだ……最終的には国家に拠らざるを得ないとしても……徹底的に自らを他律化してしまうんだ国民てヤツは！……サードプレイスが必要っていうのはそういうことさ……ちょっとした自律空間が……家と職場の間に……他人同士が責任と信用を持ち寄って……リスクを共有して……共同主催者になってもらって……受け身の客体なんかにはさせておくもんか……お客様は神様なんかじゃないし……人間さ……自らを他律化しきってなけりゃ……命令待ちの……管理されたがりの……奴隷みたいなヤツと……あと人を支配しようとする悪魔のようなヤツも！……ちょっと盛り上がりすぎた……とにかく……ルールは常に未然なんだ……だから分かんないときは分かんないって言えば……きっと応えてくれるさ……奴隷や悪魔でなければ……そこから始めればいいんだ……いつだって……答えなんて決まってないんだから……。

大源太ゲン