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十七、5月末

2021年5月末

 スーパームーンの赤い皆既月食は曇って見えなかった… 五輪を中止にした際の賠償金って一体いくらなんだ?… お金の計算が全く明らかにされない… 止められない理由があるんだろどうせ… 言えないようなカラクリが… 日本は忍耐の国だとかなんとか… ワクチン接種が進んでるキャンペーンとか…。このところ夢見が悪い… セリーヌと発達障害にやられてしまっているのかもしれない… このところのお店での会話の内容も濃くて、消化し切れていないんだろう…。コロナ協力金申請の修正のメールが来てた… 細かいところを突きやがって… 僕らには全貌は曇って見えない… 瑣末なことで庶民を振り回して… 権力というやつは人を右往左往させることしかできないもんだから… 民衆を振り回すことでその欲望を満たそうとするのだろう… 無駄だ… 不効率で… 環境にも悪すぎる…。コロナは概念だとか、コロナ脳だとか陰謀論だとかそんなのも…。娘に《なんでそんなにイライラしてんの?》とか言われた… 分からないことだらけで… 分からないことだらけなのは平時から同じだったはずなんだけど… イライラしてしまうのだって権力の振り回しのワナにハマっているようなもので… 自分は自分のペースで… 誰かに指図されるようなことは嫌で… 《指図なんてしてない、アドバイスしてるだけ》とか娘に言い返される始末… 権力ってやつは我々民衆にアドバイスしてくださってるってわけか… ありがたや…。

 このところマンボや古めのラテンばかり聴いてたもんだから… キューバの小さめの葉巻をひと吸い… モンテクリストのシガリロとパルタガスのチコをずっと置いてる… キューバ革命のフィデル・カストロ… 暗殺未遂の世界記録保持者… ケネディの暗殺とケネディ一家… コンバースの靴の中に毒針を仕込んだというボブ・マーリーの暗殺の話… 嘘かホントか… キューバ社会主義革命と隣国ジャマイカ… ロック・ヒーローの暗殺… CIA… 世界初の黒人国家独立のハイチとアメリカの介入… どこまでホントで嘘なのか…。過去の近未来SFも大方ホントになってしまった今や… 政権の宣伝広告になるようなエンターテイメントは善くて文化芸術は悪なんていう現代は… もはやサイエンス・ノン・フィクション… 〈SNF〉だ!… テレビも〈悪〉を描けなくなってしまって… 70年代までのドラマ時代劇は〈悪〉を描けた… 捕物帳は刑事ものに、渡世股旅ものはアウトローものに変換して… 時代や史実をフィクションでズラして… 〈ちょっとした悪〉を描かなきゃ… グリーン・ウォッシュとクリーンなキャンペーンの〈上っ面な善〉という巨悪にやられていく一方だ…。だから葉巻がお金持ちの遊びだとしても、貴族的な遊びを庶民が上っ面なマナーなんかに従って有り難がってちゃつまんねえ… 堂々と自分なりの流儀で消費してしまえばいいんだ… カッコつけなんかやってる場合じゃないんだ… キューバの葉巻は確かに旨い… 植民地主義の産物の粋たる、その風味を味わえばいいんだよ…。

 味の分からねえヤツが… 分かろうともしないヤツが損得に走るんだ… 中身の分からねえヤツが… 自分で判断できないもんだから金額だのブランドだの評判だので裁こうとする… 子供の頃から塾に通わされて条件のいい学校に行って… 少しでも選択の可能性が多いことが条件の良さだって気になって… 結果として何も選べやしない… 条件の良さってのは何も選べないってことだったんだ…。損得勘定/感情で条件を選んでるだけで… 自分で選んだ気になっても何も分かりやしない… 損得で動く人間は… 無駄を嫌うんだ… お酒もタバコも音楽芸術も… 無駄でしかない!… 生きるために必要不可欠なんかじゃない… 損得の逆は無駄だ!… 無駄を愛せない人間は、何も選ぶことができないし何も味わうこともできない… 無駄を恐れて… 無駄さえも損得で考えてしまう… 経済効果と勝ち負けと… なんらかの損得効果がないと自分の行動の言い訳にならないんだ… 恋人や伴侶を選ぶにしたって… なんらかの〈高さ〉がないと不安で… それが人生の不安に直結するにもかかわらず…。

 だから〈味わう〉ってことが大事なんだ… お酒という無駄なものを味わうことから始めたっていい… 音楽を味わうことでも… 酒場はそのためにあって… 損得から抜け出すために… 損得の経済主義から一時でも避難するために… 無駄を味わって…。食事は生命維持として無駄じゃないから困るんだ… 言ってみりゃあグルメが塩と油脂と味の濃さで身体に悪いのは、つまるところ無駄でなきゃならないためで… 健康にいいとか言ってる時点で損得なんだよ… バランスの良い食事なんていうのは身体に聞けって話さ…どっかで聞いてきたような話で判断して… お酒やタバコを害悪と裁定して… 無駄を愛する者を断罪することなんて… 他人を断定することなんてできるはずがないんだ…。

 無駄を愛することとは… 何かを味わうこととは… いったい何なのか… そんな何かを持っていなかったら… コロナ下のこの無駄な日々を見失ってしまう… 努力や目標や元通りの生活や… 損得ヤロウは無駄な時間に今後役に立ちそうな資格でも取ろうかとか考え始める… そんな資格が何かの条件を高めてくれるような気になって… 今後の価値観がこれまでと変わらないことを信じて… これまで通りの損得感情に負けてしまう…。無駄を通して培った友だち… 無駄な酒場で出会った仲間たち… 友だちや仲間ってのは無駄が介在している… 共通の利害や勝ち負けの下に共に闘えた仲間意識ってものもあるかもしれないが… それは利害や勝負が実は無駄であったことに起因している… 人類の歴史でさえ… ほとんど無駄…。文化技術が進歩したと言ったって… 地球環境まで含めた総幸福量は進歩したとは思えない… むしろ退行している… せめてもの医療技術の進歩でさえ… 損得の経済効果に巻き取られてしまったではないか… 世界はグローバル医薬経済損得主義の下に管理されて…。我々庶民に対抗できる手段があるとすれば… それは〈無駄〉だ!… 無駄を文化としなければ… 損得エンターテイメントの損得感動主義なんかを文化としてきた時代は終わりだ!… 音楽芸術はアマチュアリズムに原点回帰すればよし… オリンピック・スポーツだってアマチュアに帰すべし… 酒場は儲からなくても維持することでお金じゃない利益を採ってゆく… 利益とは… 無駄を介した人間関係ってことになる… 音楽だってスポーツだって詰まるところ人間関係っていう意味で…。

 《空也の最中を予約できたんで持っていきます》との連絡あり… 頼んでもないのに… それは思い出のある最中で… 亡くなったTさんの命日を憶えてた…。この店を愛してくれて… 最後のモーレツ・サラリーマン… 銀座で外回りのお土産にいつも空也のお菓子を持ち歩いてた… いつも終電頃の時間になると《そろそろかな》って… おそらく使い途のなかったときに一箱開けて… もう一箱は《お母さんに食べてもらって》と手渡された… 母は《Tさんって人はヤラシイ人だねえ》って言いつつ喜んでた…。スポーツ全般を愛してて… ちょうど前回のオリンピックの直前に突然列車を待ち続けたままになった… スーツを着たデスペラード…。どんなに仕事絡みで飲んで帰っても… うちに寄って… 帰宅しても奥さんとの晩酌を欠かさなかった…   そりゃあ早世しても仕方なかったかもしれないけど… 《ゲンちゃんの店は僕が守ります!》っていつも言ってくれてた…。そんな言い方… 《またいい加減なこと言って》って思ってたけど… 死んじまったら誰が守ってくれるんだよ!って… 葬式で固まった表情を初めて見て涙が止まらなかった…。でも確かに… 今でも守ってくれてる気がするんだ… 窓から蟲なんかが這入ってきたりすると… 〈あ、来たな〉って…。Tさんの生き方をみんな愛してて… そんなデスペラードな生き方を彼は止めることができなかったかもしれないけど… それは全く無駄ではなくて… 無駄が無駄ではないことを身をもって教えてくれた…。

 そんな無駄を… 頼んでもないのに大事に思って… 大量の最中を買ってくるヤツがいて… 勝手に… 僕に叩きつけてくるんだ… 忘れるんじゃねえよって… そいつは酒の飲めないミュージシャンで… 無駄の大事さを僕以上に分かってて… それで僕らはいつも無駄な音楽の話をするんだ… 録音のミックスとか周波数の帯域だとかリヴァーブのちょっとした具合とか…。最中のアンコの甘みの低音域と皮の香ばしい余韻のリヴァーブには、やっぱりビールだよね… 献杯…。

<参考音源>
Guy Clark “Desperados Waiting For The Train” from the LP ”Old No.1” (RCA Records) 1975

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