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キネマ備忘録

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映画を観て、広がった世界のこと
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#おうち時間を工夫で楽しく

今も、気がつけば側にいるような

 僕の伯父さんは変わっている。少し、いやだいぶ変だ。  今のこの時代、安定した職を持つ事が当たり前。貯金だってそれなりに持っているべきだということは、見通しのつかない将来を考えてみても世間一般の通説だ。決まった仕事もなく、年がら年中どこほっつき歩いているのかわからない人がいるのであれば、その人は否でも応でも世間では白い目で見られる。生きづらいことこの上ない。  そんな風潮にも関わらず、伯父さんはひたすら決まった職を持たずに、全国各地を渡鳥のように練り歩いていた。  他の

アメリカン・ポップカルチャーに踊らされる

 昔からコカ・コーラやマクドナルドといった、いわゆるアメリカの資本主義のシンボル的なモノ達が好きだった。  青春時代(あの頃は若かった)、ポスターを集めるのにいっときハマって、アンティークショップに行っては目ぼしいものがないかどうか漁っていた。学生時代、ニューヨークにあるMOMAへ立ち寄った時、かの有名なキャンベル缶がいくつも描かれたアンディ・ウォーホルの作品を見ていたく感動した記憶がある。   感覚的には、きっと古き良きものを愛でる感覚と通ずるものがある気がする。昭和レ

夢の終わりを、見たくなかった。

 最近は少し家でひっそりしつつ、時間があればぶらぶらと近所を散歩し、それから気が向けば映画を観るといった反復運動の中で生きている。  私はこれまで一度読んだ本、そして観た映画というのは基本的には見返さないという生き方をしてきた。それはなんとなくあらすじも結末もわかっている話を再度見直すというのは、時間が勿体ないという考えが頭の中にあったから。それがここ最近は、少しずつだけれど昔見て"記憶の中を掘り起こす"という活動をしている。  そして今年最初に観直したのは、ジュゼッペ・

さよなら、ドビュッシー

休みの日、なかなか表立って外に出づらくなってしまったので、とりあえず映画を見よう!と思い立ち、契約しているネットサービスを漁っていたらなんとも懐かしいタイトルを見つけた。 『さよなら、ドビュッシー』<あらすじ> ピアニストを目指す16歳の遥は、両親や祖父、従姉妹らに囲まれ幸せに暮らしていたが、ある日火事に巻き込まれ、ひとりだけ生き残る。全身に火傷を負い、心にも大きな傷を抱えた遥は、それでもピアニストになることをあきらめず、音大生・岬洋介の指導の下、コンクール優勝を目指してレ

#5. 人とのつながり。(『しあわせのパン』)

急にお腹が減った。最近朝ご飯はもっぱらご飯ばかりを主食としていたのだが、そろそろパンを食べようと思う今日この頃。そんな中、友人から教えてもらって見た映画。田舎暮らしの素晴らしさを再認識させられる作品でもある。 あらすじ北海道・洞爺湖のほとりの小さな町・月浦を舞台に、宿泊設備を備えたオーベルジュ式のパンカフェを営む夫婦と、店を訪れる人々の人生を四季の移ろいとともに描いたハートウォーミングドラマ。りえと尚の水縞夫妻は東京から北海道・月浦に移住し、パンカフェ「マーニ」を開く。尚が

#4. 喪失の向こう側(『Perfect Sense/世界から猫が消えたなら』)

コロナウイルスに罹るとその症状のひとつとして、嗅覚と味覚が低下するということが挙げられるという。そんな時にぱっと思い浮かんだのが、『Perfect Sense』という映画だ。2011年イギリスにて作成されたデヴィッド・マッケンジー監督によるパニック映画。 少しずつ感覚が消えていくことこの映画は少し、今の状況と似ている。 ある日突如として、全世界の人々の間で原因不明の感染症が広まり始める。嗅覚を皮切りにして、味覚、聴覚、視覚が失われていくという話である。(触覚は最後まで失わ

#3. 心揺らすもの(『あやしい彼女』)

「あの頃はほんとうに良かったなぁ」 と、わたしの父親世代の人たちは時々お酒片手にぼやく時がある。1960年代後半から1980年代にかけて、日本の音楽シーンで一台ムーブメントを興したフォークソング。どこか胸を締め付けられるような、かつ懐かしくなるような気持ち。わたしは彼らがそう呟くのもなんとなく理解できる気がするのだ。 わたしがまだ幼い頃から、父親の車の中ではいつもチューリップが流れていた。その影響からか、わたしも自然と物心ついてからもその時代に流行ったほかのフォークソ

#2. 夜明けの星(『恋する惑星』)

あの、なんとも言えない熱気だとか空気感はどこからやってくるのだろう。 最近ゆったりとした時間ができたので、ひたすら映画を見続けている。面白そうだな、と思ったものはかたっぱしから。4年ほど前に、水原希子さんがアナザースカイに出演されていたとき、行き先は香港でその際に影響を受けた映画のひとつとして『恋する惑星』を挙げて以来、密かに気になっていた。(ちょうど前回のオリンピック開催のとしだ) そのため、早速TSUTAYA DISCUSという郵便でDVDが届くサービスを使って送って

#1. 歩き続けた果て(『星の旅人たち』)

noteを始めたときに、フォローしている方の記事の中にこの映画の話が出ていてなんだかとても気になった。そのため、観てみたのだが個人的にすごく好きな映画の部類。特に劇中大きな転機みたいなものはなかったが、しみじみと情景が入ってくる感じ。良きでした。 あらすじアメリカ人の眼科医トムは、ひとり息子のダニエルが、スペイン北部ガリシア地方の聖地「サンディアゴ・デ・コンポーラ」を巡る旅の途上で不慮の死を遂げたとの報せを受ける。妻の死後、疎遠になっていた息子が何を思って聖地巡礼の旅に出た