久々にまとまった量の蔵書を整理することにした―読書月記番外編

蔵書の整理・処分をすることにした。ちょろちょろと処分はしているのだが、かなりまとまった量を処分する状況になっている。

整理・処分とは、要するに、売るもしくは廃棄である。本が増えてすぎてしまい、スペースが不安になってきた。金銭的に多少でも余裕があれば買うので積読が多い。これは、1970年代から1990年代の前半までに経験したことが大きく起因している。書店に並んだ時に買いそこない、気付くと品切れ・絶版になってしまって、たまに古書店で見つけるととても高価。さらに当時はネットがないため、神保町や早稲田の古書店街を1日かけて歩いても見つからない、という経験も嫌というほどした。例えば、10月中旬、中村真一郎の『あまつ空なる』は「日本の古本屋」とAmazonの「中古」で併せて6点ヒットしたが、それが1990年代にどうしても見つけられなかった。
そこで、読みたい本だけではなく、この先読みそうな本をどんどん買う習慣がついてしまった。もちろん、お金とスペースの問題はあるが、それが許すが限り、とにかく買った。近所の公立図書館にあればいいけど、あまりに分厚い本で県立図書館にしかない本も可能な限りに購入した。
それと10代は読む本のほとんどが小説だったが、年を重ねるに従い、守備範囲が広がっていった。そして小説を読む量が減ったのに、上に書いたようなことで小説もそれなりに買い続けた。結果として、家に本が溢れている。

まずは、どの本を手放すかを決めるところから始める。
基準の一つは、読む気で買ったけど、まず読むことがないだろう、というもの中から、簡単に入手できるものについて手放す。もちろん、相当に思い入れのある作品や本自体に思い出があるものは例外だ。読むことがないだろう、という判断の前提には、嗜好の変化もあれば、その本に対する評価が変わった(下がった)ため、読む必要性がなくなったものもある。新資料が出てきたり、研究が進めば当然に起こり得ることだ。また、スペースの問題を考えるならば、文庫本や新書ばかりではなく、単行本もある程度の量を選ぶ必要が出てくる。
選別は、不要な本を選ぶよりも、絶対に手放さない本を選ぶことから始める。これは、今の価値観が大いに反映される。だから小説よりも、江戸時代の出版・読書、旅行記・紀行などを含む人の移動に関わるもの、さらにはバレエ関係が優先されていく。
『ジャン・クリストフ』『失楽園』『デカメロン』『ボヴァリー夫人』『死せる魂』などはもうない。光文社古典新訳文庫をほぼ買っているので、『戦争と平和』『赤と黒』などはあるが、世界の名作は入手しやすいのでかなり減っている。ドストエフスキーやバルザック、ゾラなどの特定の作家に加え、改めて入手するのが難しいもの、図書館で長期に借りることになってしまう分厚い本などを優先し、さらには、記録的要素の強い日記や書簡集も残す。大手の出版社よりも中小の出版社、復刊・重版に力を入れない出版社の本などは、復刊や新装版を出す確率が低いので、同じく残す条件になってくる。
現在継続中のシリーズものも思い切って断念する。全集を持っていても、場合によっては、必要な巻だけを選択する。こういう作業をやって残ったものの中から整理・処分するものを選ぶ。
ちなみに私の場合、エクセルを使って蔵書リストがあるので、それを使って整理する本のリストを作っている。
今回は全体の2割近くが整理の対象になったけど、実際に手元からなくなるまでには半年ぐらいはかかりそうだ。

売り先は、古書店、ブックオフ、ヤフオクとなる。お金だけを考えると、ヤフオクがいい。古書店やブックオフに売る場合は、どうしても買取価格が実際の販売価格よりも低くなる。しかし、ヤフオクの場合、売れなければずっと家にある。本来の目的は「整理」なのだから、お金にひたすら拘りはしない。
ただ、通常の古書店の場合、例えば、5年ぐらい前のベストセラーばかりを持っていっても相手にされない。全集やシリーズものなどまとまったもので、状態の良いもの、さらにある程度の値がつきそうだけど、すぐに売れそうにないものを選択する。そして、リストを古書店に送る。首都圏に住んでいないので、こちらで送料負担して宅配便で送る。幾度か買ってもらったことのある古書店なので信頼関係もあり、身分証明も不要だ。
ブックオフの場合、カバー付きが基本で、書き込み・蔵書印があるのものは不可なので、それを避けて送る。以前に比べ古いものでも、市場価値があるものは買い取ってくれるようになったようなので助かっている。ブックオフオンラインで検索をかけて、在庫がなくても書名がヒットする本は買い取ってくれると考えていい。こちらはベストセラーもOKだ。
さて、ヤフオクだけど、単品で古書価が高そうなもの、できれば2~3か月ぐらいで売れそうなものをまずは選ぶ。さらに蔵書印などがあってブックオフは不可だけど、10冊以上のシリーズもので全巻揃っている場合は、意外と売れる。これはブックオフで全巻揃わない場合がちょこちょこあるからだ。以前、柳田國男や折口信夫の文庫版の全集を蔵書印付、カバーや帯があるものの色褪せという状態で出品したけど、すぐに売れた。あと雑誌も意外と売れる。ただ、ヤフオクで難しいのは値段をつけることだ。オークション期間がほぼ1週間。開始価格を安くつけすぎ、その商品に気付く人が少なければ、開始価格のままで落札される。かといって、高くつけ過ぎると、売れない。価格の参考になるのは、ヤフオクですでに同じものが出品されていれば、それがまずは参考になる。ただ、それがない場合は、「日本の古本屋」というサイトとAmazonの中古を見てみる。Amazonの中古で1万円ぐらいのものが、「日本の古本屋」で2000円ぐらいの場合もあるからだ。ただ、出品の段階で、写真を撮る必要もあるし、落札されれば、梱包と発送という作業もある。古書店やブックオフはこの部分をやってくれるのだから、買取価格が実際の古書価の4~6割ぐらいであっても仕方ないのだ。

ちなみに、古書の世界は「需要」と「供給」で価格が決まる。元値が高いとか安いとかは関係ない。夏目漱石や太宰治は人気があるけど、彼らの全集の古書価が高いかといえば、そうでもない。人気作家なので供給量が多いのだ。購入価格が高かったからといって、人気作家の本を古書店に持ち込んでも安い価格でしか買い取ってくれないことが多い。むしろ、すごく人気があるわけではないけど、強固な固定読者3000人ぐらいの作家の本が高くなったりする。この作家の全集や豪華本を出す場合、出版社は価格のことも考えて1500~2000部ぐらいしか印刷しない。ひょっとする1000部の可能性もある。そうなると、次の世代のファンがその本を買おうとしても、古書市場にほとんどない。当然だが元値よりも高くなる。

さて、問題は売れない本だ。近くの図書館か公共施設に寄贈しようと考える人も多いようだが、今時の図書館、本が多すぎてなかなかまとまった寄贈は受け付けない。2~3年前に地方の大学図書館が重複本などを処分したときに、情報が正確に伝わらなくて大騒ぎになったけど、それぐらい公共図書館も所蔵には困っている。古書をそれなりに買う人は見たことがあると思うが、「除籍本」という形で売られているものもある。図書館の出入り口に、ご自由にお持ちくださいと置いてあるときもある。発売してから2~3年以内のエンタメ系ならともかく、20年前ぐらいのベストセラーはまず受け取ってくれないと考えた方がいい。だから、最終的には廃棄しかない。本を捨てるというといきり立つ人もいるけど、持ち主の生存権と引き換えにするような話ではない。貰ってくれる人もいない以上、どうしようもないのだ。

ちなみに、この廃棄を完全になくすのは難しいが、限りなくゼロに近づける方法がある。電子書籍だ。少なくとも電子書籍は、スペースを侵食しない。金に困って売りたいという発想はあるかもしれないが、家が狭い、床が抜けそう、引っ越しの時に不便だ、みたいなことで整理・処分することはない。上に書いた柳田國男や折口信夫の文庫版の全集を売る気になったのも、電子書籍があったからだ。

ただ、上にも書いたように、売るのもかなり手間だ。できれば、大きな整理・処分は今回で終わりにしたい。

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