アメリカ先住民族に味方し、母国の政策を批判し続けたラス・カサスの生涯を描く―『ラス・カサス伝―新世界征服の審問者』(染田秀藤/岩波書店)

16世紀、スペイン人でありながら、スペインがアメリカ大陸で先住民に対して行った不正行為・残虐行為を厳しく批判したカトリック司祭ラス・カサスの伝記(後にメキシコでは司教となっている)。

生い立ち、若き日にアメリカ大陸で奴隷を所有し農場経営をしていたこと、先住民の悲惨さを認めてからの「回心」、最初は先住民を守るために黒人奴隷の導入を認めたこと、さらに第二の「回心」、公然たる征服批判、事実を知らしめるための『インディアス史』を含む執筆、征服を支持する者たちとのバリャドリード論戦、先住民保護政策が実現されないことを嘆きながらも晩年まで続けられた執筆活動、そして若き日に征服政策に加担したことや黒人奴隷を認めたことなどに対し、晩年にいたるまで強い悔恨を持ち続けたことなどが丁寧に描かれる。

本書を読みながら驚いたのは、ラス・カサスの批判に同調した人が16世紀にも少なからずいたことである。当時のスペイン国王のカール1世からも、ラス・カサスの目指す政策への支持をとりつけている。また、教皇を含め、ドミニコ会員などキリスト教関係者にも、ラス・カサスの「大義」を支持した人はいた。にもかかわらず、様々な事情から彼の批判は生かされることなく、先住民に対する圧政が続いたことは、残念としかいいようがない。

しかも、彼は死後、スペインの征服政策を批判したことで、対立する国々にスペイン攻撃の材料を与えたとして、スペイン人から批判される。さらに、大陸へのスペイン文化の流入が、その意図はともかくとして結果としては「功」となった部分を評価する人々からも批判されている。しかし、当時のスペインと利害関係の全くない現代を生きる私から見る限り、ラス・カサスの批判は正しい。彼はキリスト教に携わる人として、アメリカ大陸での布教をずっと願っているが、それもきちんとした説明などがなされた正統な布教のみを認めているし、先住民たちの権利が守られるべきであることを主張し、先住民をスペイン人(ヨーロッパ人)と対等な人間として認めているのだ。

その時代が過去になると分かるのだが、いつの時代でも、真っ当な意見を述べる人は必ずいた。場合によっては、そういった人が少なくない場合さえある。にもかかわらず、人類は過ちを繰り返してきた。だからこそ、「多数派」の意見や今は「正しく」見える考えを批判する人は必要なのである。描かれたラス・カサスの生涯を見ると、そう感じずにはいられない。
そして、不当・残虐かつ卑劣な行為で人間を傷つけた時、その加害者となったのが母国であっても、臆することなく批判し、闘い続けたラス・カサスの生涯に強く感動する。

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