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≪Spiral≫自作解説

タイトル ≪Spiral≫

2020年制作、素材:楮・雁皮混合紙(手漉き、6匁)、本藍染め阿波和紙

コンセプト文

渦潮や台風、竜巻、銀河といった自然界のなかでもかなり速度を持ち、動的なシルエットとしてスパイラル(螺旋)を描きました。
中心へと渦巻く形には、視覚的にもそして感覚的にも、果てしなく続いてゆくという崇高さがあり、聖性が宿っていると考えています。 

さて、本作品に使った手漉き和紙ですが、これは知人の有澤悠河氏が漉いてくださった、楮と雁皮の混合紙です。彼の工房では、植物の段階から栽培を行っており、一切の化学物質を使用していない、ほぼ間違いなく日本で最高品質の紙です。光に当たると紙って黄ばむじゃないですか。実はこの紙、光を当てることでどんどん白くなっていくんですよ。紙が黄ばむ原因は、化学物質の変色で、この紙にはそういう類いのものが入ってないため、繊維の色はむしろ日光で分解され、より白くより強くなっていくのです。時間変化があるんですよ。(同じ紙が、彼の工房であるCosoyardのHPから購入できます。全紙サイズだとたしか7000円くらいです)

この時間変化がある点も、この素材を選んだ理由で、渦巻き状の形状はロバート・スミッソンの≪Spiral Jetty≫を想起させます。ちなみにこの作品は自然により時々刻々と変化し、今はソルトレイクに沈んでいるのですが、僕の≪Spiral≫も崩壊するときは人工物質ではなくおそらく虫害でしょう。書き手は忘れてしまいましたが、以前、1990年代に論文雑誌「美學」でスパイラルジェッティの作品の聖性を指摘した文章を読んだ記憶も、制作するときに少しだけ頭にあったりしました。もちろん直接的関係性は少ないですけど、微々たる影響は受けていたのかもしれません。

次に、紺色の背景についてです。僕は、このスパイラルの形状に対して、銀河と渦潮と台風を同時に見たわけですが、この紺紙からはイメージ上の宇宙(実際には宇宙は真っ暗なので黒)、そして大気圏と宇宙の中間の空、そして深海がイメージされるように思えます。もちろん、聖性や崇高さといった大きなテーマではあるんですが、自分の実体験だったり、僕という人間にもう少し近づける意味でも、概念的で見たことのない世界観だけじゃなくて、どこかの場所と結びつける試みもしてみたかったんですね。そこで、本藍染めの紺紙(一番濃いもの)は「阿波和紙」を選びました。美濃でも土佐でもなく阿波であることで、この作品の背景の紙は一気に鳴門の海、海面としての性質を持つことになります。

そしてもう一つ、こんなことたぶん作者が言っとかないと気付かれなさそうなので。下の画像、最初の作品画像をネガポジ反転させたものです。

この作品を描く時、渦潮や台風の航空写真、銀河だけでなく、クレーターや地割れなんかも参考にしてというか、全てから要素を抽出するようにしました。だから、特に、外縁部なんかは水面にしては荒々しくて、台風にしてはこまやかすぎる。色を反転させたら理解してもらいやすそうです。クレーターや地割れはそれそのものはエネルギーだとか動性は持っていないですが、違う表現をすると、エネルギーなり巨大な力なりの記号ってわけです。

構図や絵自体で具象と抽象、さらにモチーフとしても銀河や渦潮、台風、大地の地割れ、そして額装された画面で現実と想像的な空間が交錯する。どこまで実現できたか自分で正当な評価は下せないですけど、色々な見方や解釈の余地を孕ませておいたつもりです。

技法について

さて、このままコンセプトについてダラダラ深掘りするのも楽しいのでいいのですが、書ききれそうにもないので早々に切り上げて技法の話をします。

僕は2017年ごろから、ドローイングカット(と呼んでいる)という手法を選んでいます。下描きの筆線をそのまま切るという方法です。

なぜこれをし出したかというと、下絵を描く時に描いたすべての線は自己の表出であると考えだしたからです。そうであるならば、切り絵というのが下描きをナイフで追随し、支持体から引いていくという技法であるので、下絵ではみ出た線を修正するかのごとく切り落とし、切り絵作品的には無かったことにする従来的なやり方は、個人的にはその、自己の表出を削ぐ行為と感じてしまい、違和感を覚えたんですね。だから、全てを最後の切り絵に持ち込むために、画面を複雑化させ、そして大きめに描くことにしました。こうすることで、≪Spiral≫で言えば、外縁部の線が2重になっている方が、不自然ではなくむしろこの絵のなかであれば自然な状態であるようにしているのです。

ここで、別の作品≪Yamanami≫という作品を過去に制作し、その作品において表明した僕の現在の制作の態度(スタンス)があるのですが、この作品にも共通するので、それを紹介します。

この引用文に共感してくれる方がいたら、ぜひ何かの表明文でも一緒に出しませんか。(笑)

作品の発表

Twitter等ですでにご覧いただいてる方はご存じかもしれませんが、この作品は今年の2月に放送された、NHKの「沼にハマってきいてみた」という番組内で新作発表をしました。いや、実は書ける範囲の裏話を書こうと思っていましたが、既にこの記事の文量が地の文だけで2000字を超えてしまったので割愛して、またの機会にそれだけで記事を書こうと思います。

切り博での展示風景

やっと切り博という言葉が出てきました。すでに別記事にレポート編やレビュー編(これから書く)があるので、他の方の作品はそちらで概観できます。

やたら後ろの壁面とマッチしていていいですね。自分でも少しにんまりしてしまいます。左右には斎藤洋樹さんと濱谷宗慎さんという、平素より親しくさせていただいてるお二方。個人的には、展示会全体を見ても、自作のサイズはちょうどいいなと思っていたりします。

最後まで読んでくださった方、誠にありがとうございました。Twitterなどでコメントいただけると嬉しいです。

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