【小説】面白いほど退屈な世界
ここはとても退屈な世界。
それがあなたに想像できるだろうか?
テレビも無ければ映画も無くて、本も無ければ遊園地もない。そんな世界を。
そう、面白いほど退屈な世界である。
この世界に暮らす人々は毎朝起きると、歯を磨いて、朝食を食べて、歯を磨いて、仕事に向かう。
仕事を終えると家に帰り、歯を磨いて、夕食を食べて、歯を磨いて、眠りに就く。
仕事が休みの日は朝に起きて、歯を磨いて、朝食を食べて、歯を磨いて、昼食を食べて、歯を磨いて、夕食を食べて、歯を磨いて、眠りに就く。
仕事というのは歯ブラシや歯磨き粉の製造・販売がほとんどを占める。残りは葬儀屋だ。
彼らには僕たちが考えるような娯楽はない。
娯楽がなく時間の有り余った生活の中で、彼らは歯に思いを巡らせる。
時間をかけて(平均1回2時間ほど)丹念に磨くことはもちろん、歯の一本一本を子供のように可愛がり、手塩をかけて育て、歯が抜けたときは葬式を挙げてやる。
あまりに愛情をかけて磨きすぎると歯肉炎を起こす。彼らはこれを歯の反抗期と呼んでいる。
ちなみに、彼らにとって入れ歯は養子だ。
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