【小説】いつかのアサガオ
重い。
荷物、もっと、計画的に持って帰ってくるんだったな。
今にもはち切れそうなくらいに膨らんだランドセルが背中をいじめる。
手提げに入った絵の具が腕にぶらさがる。
何より両手に抱えたこのアサガオの植木鉢が、信じられないくらい重い。
夏休みだからって、なんで家に持って帰らなきゃいけないんだろう、面倒くさいな。うわ!
ゴトン。手がすべった。
僕の手を離れ、バランスを崩したアサガオは地面に不時着し、横たわった。
僕はそれをただ見つめるしかなかった。
雑木林にしがみつくセミたちが僕を強く攻めたてた。
なんだかもう、嫌になっちゃったな。
「ちょっと!大丈夫?」
制服姿の女の人が僕に駆け寄ってくる。
そして手際よくアサガオを起こし、周りの土をすくい上げて戻していった。
「植物もね、生き物なんだ。だから大事にしてあげてね。重たいけれど、頑張ってね。」
「ありがとう。」
あともう少し頑張ってみるよ。
僕は家にたどり着くと、お昼ご飯も食べないで眠りについた。麦茶にも目をくれずに。
風鈴の音で目がさめる。
気づくと僕は大人になっていた。
いや、小学生だった頃の夢をみていた。
ベランダには、いつか妻が買ってきたアサガオが弱々しく咲いていた。
「喉、かわいてたんだね。ごめんな、気づいてあげられなくって。」
「ありがとう。」
長く深いお辞儀をしながら、アサガオはそう言った。
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