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Review : Brutal Truth / Kill Trend Suicide(日本盤)

’96年にリリースされたNYのハードコア・バンド、Brutal TruthのEP "Kill Trend Suicide"が発売から25年を迎えた。この作品を日本で発売した、トイズ・ファクトリー盤について個人的な想いを書いてみようと思う。

このEPは、私が高校1年生の時に発売された。
その数年前、彼らの2ndアルバム"Need To Control"を聴いて衝撃を受けており、今まで聴いてきた音楽とは全然違う質感を纏ったアートワークや、メタリックではあるが異質そのものであるサウンド・プロダクション、何よりその尋常でないスピード感に心の底から興奮し、発狂とはこの事だ!と実家で暴れ、のたうち回っていたのを記憶している。

同時期、ScornにPainkiller、Naked CityやBurzum等の日本盤がトイズ・ファクトリーから発売されており、大阪の片田舎のCD屋でも容易に入手できたので、恐ろしいアートワークのものは片っ端から全部買っていったものだ。

Earacheを離れ、Relapseと契約したBrutal Truthの新作が出ることを雑誌で知り、発売と同時に買いに走った。
前作もそうだったが、まずアートワークに強烈な違和感を感じる。
自分の中でイメージしているハードコア/パンクやヘヴィ・メタルの定番とはかけ離れたものだ。
アート・ディレクションを担当したEric HorstはExit-13、Mindrot、Human Remains、Neurosisなども手掛けた人で、Kill Trend Suicideのアートから感じられるのは、まるでヒプノシスの様な質感を思わせる、精神異常的作風だ。高校1年のクソガキであった私には刺激が強すぎるものであった。

肝心の音楽に話を移そう。
再生した瞬間の事は今でも鮮明に覚えている。
違和感がアートワークの比ではなかった。
バンドと共同プロデュースしたのは、Billy Anderson。
彼がエンジニアを務めている作品で初めて聞いたのは、本作かSick Of It Allの"Scratch The Surface"だ。(もしかすると、Sleep "Holy Mountainも同時期に聴いていたかも知れないが、失念)
しかし後者に関しては、音楽性もありそこまでの違和感は当時感じられなかった。

96年に彼が手掛けた作品は、Neurosis "Through Silver In Blood"、Eyehategod "Dopesick" (翌年は、Logical Nonesense "Expand The Hive" 、Sleep "Jerusalem" 、Brutal Truth "Sounds Of Animal Kingdom"という傑作群を手掛ける。)等があり、いずれも未だに頻繁に聴く作品ばかりである。

95年以降にBillyのプロダクションで顕著になる、ライブに行った帰りの耳鳴りがする状態で聞くような、高音域の削り取られたモコモコの音に、意図的にこういう音を作る人がいると認識した初めてのものだった。
それに加え、冒頭の"Blind Leading The Blind”の最初のギター・リフからして違和感が凄まじいもので、とてつもなくアヴァンギャルドなものになっているが、あくまでハードコア・パンクを主軸にデス・メタル、ノイズ、ジャンク、フリー・ジャズと大量の大麻をグラインドしてから加熱し、ぐちゃぐちゃに混ぜて出来たコンセントレートの様な粘度の高い音像は、曲がるような感覚さえも状況によっては感じられる。(その辺によく居る、ストーナー憧れのフェイクな量産型ボンクラが謳う、「シラフでも飛ぶ音楽」みたいな童貞丸出しの表現は大嘘でしかないから大嫌いである。)

その要因としては、リッチ・ホークのドラミングに依存する部分が大きい。
まるで、Max Roachをグニャグニャに曲がらせた様な全く今まで聴いた事のない奏法であった。
リリース当時、某メディアでこのEPの音質とドラミングを揶揄するメタルのアーティストが居たが、わかってないなと憤慨した記憶がある。

グラインドコアか否かの議論は全くナンセンスで、個人的にはどうでも良い。
’90年代中盤以降に、世界各国のハードコア・パンクが新しいものを産み出して行く過程に興奮を覚え、最早カテゴライズは無意味だという認識を得た。
その中でも特にカルフォルニアや、NY周辺、メンフィスやニューオーリンズ、フロリダ辺りは先鋭的なバンドが多かったので、意外な組み合わせのSplitが数多くリリースされた事は歴史的に非常に重要だ。
'00年以降、第二次パワーヴァイオレンス・ムーヴメントがあり、現在もパワーヴァイオレンスを掲げるバンドは世界中に増加しているが、カテゴライズが先行し実体は全く違う物も存在するので、その辺りも精査の余地があると私は考えている。
Brutal Truthは、そういったままごとの様な幼稚さとは無縁だから素晴らしいのだ。

そして、歌詞にも注目してほしい。
タイトル曲からラインを引用すると(トイズ盤に付属の対訳は間違っているので注意)、コーラスは"Kill Trend Suicide, False-Core Genocide"で、ヴァースの最後が"Fuck Off Trend Casualties"、その後のブリッジで"This Way, That Way, No Way, Well Anyway"と展開し、またコーラスに戻って終わるという素晴らしい構成だ。

歌詞がない、歌詞を歌わない音楽にも素晴らしいものは幾多もあるが、ハードコア・パンクのヴォーカルに於いては、作詞と譜割、押韻、構成が卓越しているものが好きだ。

Brutal Truthは、活動のスタンスとしてはアンダーグラウンドではないだろう。
しかし、音楽性は極めてアンダーグラウンドでマニアックなものを志向しており、この当時全盛であったニュー・メタルやモダン・ヘヴィネス(Lee Dorrian曰くスポーツ・メタル)に対する猛烈な皮肉が込められている。

この国内盤には5曲のカヴァーが収録されており、原盤にはYDIの"I Killed My Family"、国内盤の為にレコーディングされたという、MDCの"Born to Die"、SxOxBとのスプリットEPとしてリリースされるはずだったSxOxBの3曲だ。

全て80年代のハードコア・パンクという点、そして日本の音楽に敬意を表す彼等に驚嘆したし、自らのルーツや嗜好を惜しげもなく曝け出す姿勢は、啓蒙であり教育なのだ。

要は、演者としてもリスナーとしても一流なのである。是非、中古でも探して手に取って欲しい。

YouTubeやストリーミングで音楽を聴く事が主流になり、盤や紙の匂い、ブックレットに記載されている歌詞やクレジットにサンクス・リスト、ライナーノーツで脈略を探す文化は死に絶えようとしている。
自分自身もストリーミングは利用しているし、フィジカルで音楽を聴く事が正義だとは考えていない。

しかし、こんな事を思い出せる音楽との出会いが、この先いくつあるだろうという悲しみを感じるのも事実だ。

ボーナス・トラックに人生を変えられる事もある。

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