Column : 拝啓、クリス・レイファート様。

クリス・レイファートは、Autopsyのリーダーとして知られるカルフォルニア生まれのドラマーで、Deathの大傑作ファースト・アルバム「Scream Bloody Gore」は彼がドラムを叩いている。

「Scream Bloody Gore」は、初めてメジャーの息がかかったレーベルからリリースされたデスメタルのアルバムだ。
コンバットからリリースされ、ランディ・バーンズのプロデュース、アートワークはエドワード・レプカ。
当時のアンダーグラウンド・メタル・ネットワークの最上級の仕立てで後押しされたアルバムなのだ。

内容は言わずもがな、ではあるのだが少し触れておこう。このアルバムは1986年の11月に録音されている。同じく1986年の10月7日にスレイヤーの「レイン・イン・ブラッド」が発売。スラッシュ・メタルとデスメタルが実は同時進行で進んでいた事の証明である。「Scream Bloody Gore」はデスメタルというよりスラッシュだと言う意見もよく聞くが、これこそ紛れもないデスメタルであり、全く新しいヘヴィメタルの形を提示している。

それほどチャック・シュルディナーの天才的な演奏と作曲能力は群を抜いていた。
才能の塊の様なギタリスト/コンポーザーだったので、逝去された事が今でも悔やまれる。

それにしても本当に全曲名曲のマスターピースだ。
非の打ち所のない緊張感漂う残虐なギターを中心に、リズム隊は独特のもっさりとした篭り気味の演奏をしており、そのコントラストがデスメタルという新しいカテゴライズを生み出した要因となっている。

改めて言うが、その傑作でドラムを叩いているのが、この話の主役クリス・レイファートである。

天才のチャックとクリスの演奏の相性は素晴らしく、とにかくジャストで、流麗なギターを弾くチャックに対し、クリスのドラミングが独特のもたりを持った揺れ幅の広いグルーヴを持っているので、メタルの教科書通りではない異形の組み合わせが、ダーティーでナスティーなアンダーグラウンド・メタルの真髄を聴かせてくれる。

すなわち、クリスこそがデスメタルの象徴なのであるという考えに至らないか?という話である。  

TerrorizerをはじめとしたLA近辺のグラインドコアに影響され、ブラストビートを導入した当時で言う所のブルータル・デスメタルではなく、よりプリミティヴなメタルにアプローチしていた彼は、Deathを脱退しAutopsyを結成する。

そして作られたデモのサウンドは、非常にグルーミーでドゥーミーな腐臭漂うものだ。
チャックが指向する、ある種インテリジェントなデスメタルとは真逆の方向に進む意志を提示してみせた。
1987年リリースのデモに入っている、「Mauled To Death」はスローでホラー映画を彷彿させる様な緊迫感漂う導入部から、錆びたノコギリの様なギターサウンドを掻き鳴らしながら疾走してゆく。
当時最も猟奇的で、徹底的にデスメタルを追求する彼らはすぐに話題となり、イギリスのPeacevilleと契約する事になる。  

Peacevilleと言えばアナーコ・パンクから派生したレーベルで、Devitated Instinct、Axegrinder、Civilised Society?などのクラスト・パンクをリリースしていた。

同レーベルが1989年に初めてリリースしたデスメタルのバンドがAutopsyだ。デビュー作「Servered Suvival」から目下の最新作、「Puncturing the Grotesque」まで一貫してPeacevilleがリリースしている。

イギリスのレーベルからのリリースという事もあってか、欧州方面に与えた影響は凄まじく、デモの時期から相当北欧のデスメタル勢を魅了していた。
EntombedやDismemberら当時のスウェーデンの若手達がこぞってAutopsyの名を挙げ、特にGraveは明らかに多大な影響を受けており、「Tremendous Pain」EPはかなりAutopsyライクである。その他にもPungent Stenchのデモや(「Survered Survival」と同じく89年リリースの)「Extreme Deformity」EPも何処か近しいものを感じる。
他にもGorementやフィンランドのDemigod等枚挙に厭わない。

80年代後半のアメリカのデスメタルで、HellhammerとCeltic Frostの影響を多大に受けたバンドは、メジャー所で言うとObituaryが最大手と言えるが、Autopsyの他にもIncantationらが、もっと過激なファスト・パートと腐臭漂うスロー・パートの振り幅の大きい禍々しいスタイルを形成していくようになる。その一方で、ニューヨークからクラスト・パンクからの流れを汲むWinterが登場し、HellhammerやAmebixを思いっきりスローダウンさせた様なサウンドは後のスラッジコアにも影響を与えた。

ドゥーム・メタルやゴシック・メタルといった別の方法論でのスローなメタルもあり、デス・ドゥーム/ドゥーム・デスメタルと呼ばれ、当時台頭してきたフロリダ、ニューヨークなどのブルータル・デスメタル勢とは一線を画した。

それくらい独創的なデビュー・アルバムは、デスメタルの金字塔として未だフォロワーを生み続けている。

その後もクリスはAutopsyで4枚のアルバムをリリーし、95年に一度解散する。その後AbscessやThe Ravenousといったプロジェクトで活動し、どんな名義でも徹頭徹尾Autopsy節全開のデスメタルを追求していた。

その後09年にAutopsyは再始動し、現在も活動は続いている。彼らが拠点にしているオークランドやサンフランシスコを始めとするベイエリアは、通好みのマニアックな音楽性を構築しているバンドが多い。所謂「ベイエリア・スラッシュ」と呼ばれる連中の中でも、Possessedの存在は圧倒的で、初期Slayerの影響たるや凄まじいのだが、Venomがブラック・メタルならこっちはデスメタルだと言わんばかりの強烈なインパクトのデビュー・アルバムは、その後のノーザン・カルフォルニアのメタルやハードコア・パンクにも多大なる影響をもたらした。

その影響はPossessedからDeath、DeathからAutopsyへと受け継がれている。
デスメタルとは?と聞かれて明確に答えるのは現在では非常に難しい。多様化されすぎていて難解になってしまうのは、どんなカテゴリーであっても現在のインターネットによる情報過多によるリスクだ。
だからこそ、はっきりと言い切る必要がある。

すなわち、私にとってクリス・レイファートとAutopsyこそがデスメタルの真実で、象徴だ。

ベイエリア周辺はToo $hortをはじめ、ギャングスタ・ラップの名産地としても知られる街だが、ギャングスタ・ラッパーは必ずしもギャング・メンバーとは限らない。しかし、ギャングをレプリゼントしている。

その街特有の薫りを感じさせる音楽は、メタルでもハードコアでもラップでもノイズでも鼻腔にこびりついて決して消えることはない。

クリス・レイファートは、死をレプリゼントする音楽家である。

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