新首都候補地はどのような土地なのか

2019年5月10日発行の『よりどりインドネシア』第45号所収の「首都移転の閣議決定とその背景」で述べたように、2019年4月29日に首都移転が閣議決定されましたが、それを受けて、インドネシア政府はさっそく移転候補地の選定に入りました。

その結果、8月26日、ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領は、東カリマンタン州北プナジャム・パセル県(Kabupaten Penajam Paser Utara)とクタイ・カルタヌガラ県(Kabupaten Kutai Kartanegara)とにまたがる地区を候補地とすることを発表しました。

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北プナジャム・パセル県の新首都候補地付近の風景
(出所)https://kaltim.tribunnews.com/2019/10/02/kepala-bappenas-tinjau-lahan-ibu-kota-baru-yang-dikelola-perusahaan-sukanto-tanoto-pasti-di-sepaku

その後、国家開発企画庁(BAPPENAS)や公共事業・国民住宅省などからなるチームが候補地を視察しました。まだ確定ではありませんが、現時点で、新首都の中心は北プナジャム・パセル県スパク郡(Kecamatan Sepaku)プマルアン区(Kelurahan Pemaluan)付近となる可能性を示唆しました。

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新首都候補地の北プナジャム・パセル県とクタイ・カルタヌガラ県の一部を含む地域の位置(上図)。及び、北プナジャム・パセル県の行政区分(下図)。行政区分の上部の赤い部分がスパク郡。その右下がバリクパパン市になる。
(上図出所)https://www.hitekno.com/internet/2019/08/26/145113/resmi-ibu-kota-baru-di-penajam-paser-utara-dan-sebagian-kutai-kartanegara
(下図出所)https://petatematikindo.wordpress.com/2014/09/04/administrasi-kabupaten-penajam-paser-utara/

本稿では、この新首都候補地がどのような土地であるのかを分析します。政府の説明では、土地収用の必要がほとんどない国有地で、あまり住民が住んでいない土地ということですが、その国有地を誰がどのように利用してきたのか、その権益を持つ人物はどのような人物なのか、そこから何がみえてくるのか、を考えてみたいと思います。


新首都候補地について

新首都候補地の中心となりそうな北プナジャム・パセル県スパク郡ですが、面積は1,172.36平方キロメートル、人口は3万1814人(2018年)、人口密度は1平方キロメートル当たり27人という、わりと閑散とした地域です。標高は海抜500メートル程度のところで、5つの河川が流れています。

スパクは1960年時点ではバリクパパン市に属し、同市バリクパパン・スブラン郡にありました。バリクパパン・スブラン郡は、現在の北プナジャム・パセル県スパク郡及びプナジャム郡を含む領域に当たります。

その後、1988年にバリクパパン・スブラン郡の所属がバリクパパン市からパシル県へ移り、名前もプナジャム郡に変わりました。そして、パシル県から北プナジャム・パセル県を分立させるために、プナジャム郡からスパク郡が分立されました。ちなみに、北プナジャム・パセル県は2002年に分立しました。

スパク郡に住む住民の多くはダヤック族の一種のパセル族ですが、1977年、1991年、1998年の移住政策によってジャワ族などが入ってきました。スパク郡には11村(desa)と4区(kelurahan)があり、中心地と目されるプマルアンは後者の一つです。

プマルアン区には、1995年に建てられた高さ20メートルの火の見やぐらがあり、当時の副大統領の名前にちなんで「スダルモノ・タワー」と呼ばれています。このタワー付近が新首都の中心、すなわち国内の道路距離の起点となるゼロ地点になるのではないかという話が出ています。

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プマルアン区に建つ火の見やぐら「スダルモノ・タワー」
(出所)https://poskaltim.com/menara-sudharmono-diperkirakan-titik-nol-ibu-kota-negara


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