コナウェ県の架空村騒動と村落資金

はじめに

2019年11月4日、スリ・ムルヤニ財務大臣が国会第9委員会において、「村落資金(Dana Desa)を受け取るために、実体のない架空村が作られているとの報告がある」と発言し、注目されました。

村落資金とは、国家予算から全国のすべての村へ供与される資金のことで、2015年から開始されました。2019年予算では、総額7兆ルピアが全国7万4,953村へ均等に、1村当たり約10億ルピア(約780万円)が配分されます。

村落資金の使いみちは村ごとに自由に決められます。その多くは、村道などのインフラ整備や様々な経済活動の活性化に使われ、「周辺からインドネシアを開発する」といったスローガンが唱えられています。日本でも、かつて平成の初期、竹下内閣のときに「ふるさと創生一億円事業」と称し、使途を定めずに、全国の各村に1億円を配分した事業がありましたが、それを思い出させます。

村落資金を受け取るために架空村を作ったとすれば、それはまさに汚職や詐欺に当たります。冒頭のスリ・ムルヤニ財務大臣の発言は、そのような文脈での発言のようでした。矛先が向けられたのは、東南スラウェシ州コナウェ県です。

スリ・ムルヤニ財務大臣の発言を受けて、内務省は2019年11月12日、省内の全総局からなる13人のチームをコナウェ県へ派遣し、関連データを押収し、本当に架空村が存在しているのか否かについて、調査を行いました。

2019年11月19日、内務省はその調査結果を発表しました。すなわち、2015年と2016年の村落資金は100%配分済みではあるものの、受け取っていない村が1村ありました。

2017年の村落資金も100%配布済みではあるものの、受け取っていない村が3村ありました。この3村は2018年も村落資金を受け取っていませんでした。これを受けて、この3村の内務省への登録は抹消されました。この3村が架空村なのではないか、との疑いが持たれたのでした。また、ほかの31村は、後づけで日付を改ざんした、偽造を疑わせる文書で設立された形になっていました。

いったい、なぜ東南スラウェシ州コナウェ県でこのような架空村の疑いが起こったのでしょうか。今回は、この問題を見ていきます。

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架空村の一つとされる村の行政オフィス
(出所)https://news.okezone.com/read/2019/11/06/340/2126310/desa-fiktif-ditemukan-di-konawe-terima-dana-desa-sejak-2015

村落資金を受け取る2条件

前述のように、村落資金は、国家予算から各村へ、使途を定めない一定金額を配分した資金のことです。2019年は総額7兆ルピアを7万4,953村へ均等に配分します。配分は3段階に分かれ、最初に全体の20%、次に40%、最後に40%が配分されます。

村落資金を受け取るためには、次の2つの条件があります。第1に、県・市予算に関する地方政令(Perda)があること、第2に、村落資金の配分方法と内訳に関する地方政令があること、です。

すなわち、国家予算からの村落資金はいったん県・市政付が受け取った後、県・市政府から各村へ配分されます。

ちなみに、村(Desa)と同じような用語に区(Kelurahan)というのもありますが、意味は異なります。前者は自治機能を持つのに対して、後者は県・市の下にある郡(Kecamatan)の下部組織で、自治機能を持ちません。通常、農村部では村、都市部では区となる傾向が強く、村が区になると都市化、近代化したようなプラス・イメージで受け止められる傾向が強いようです。

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