願い事の代償(短編小説 note)
1. 出会い
東京の片隅、雑然とした商店街にひっそりと佇む古びた骨董屋があった。店の名前は「夜明けの骨董店」。誰もその店がいつからあるのか知らず、店主の顔さえも見た者はいない。だが、その店には不思議な噂があった。「どんな願い事も叶う品が手に入る」というのだ。
ある日、大学生の健一はその骨董屋の前を通りかかる。就職活動がうまくいかず、将来に不安を抱えていた彼は、ふとした好奇心から店に足を踏み入れた。古い木製の扉を押し開けると、中は静まり返り、埃っぽい空気が漂っていた。店内には無数の古びた品々が並び、ところどころに薄暗い照明がかすかに光を放っている。
「いらっしゃいませ」
突然、背後から声が響く。驚いて振り向くと、店の奥から老人が現れた。しわくちゃの顔に微笑を浮かべたその老人は、まるで健一の心の中を見透かすかのような眼差しをしていた。
「あなたのお望みは?」
老人の問いに、健一は一瞬戸惑ったが、次第に自分の悩みを話し始めた。老人は静かに頷き、棚の奥から小さなガラス瓶を取り出した。その中には、砂時計のように細かい砂が詰まっていた。
「この砂を一粒使うたびに、一つの願いが叶う。ただし、代償として何かを失うことになる。それを理解したうえで使いなさい」
健一は半信半疑でその瓶を受け取り、代金として5000円を差し出した。老人は微笑みながらそれを受け取り、健一を送り出した。
2. 願いと代償
最初の願いはささやかなものだった。健一は「明日の面接がうまくいきますように」と念じ、一粒の砂を瓶から取り出し、手のひらに置いた。すると、砂は瞬く間に消え、同時に健一の体が少し軽くなったように感じた。
翌日、面接は驚くほど順調に進み、健一は内定を獲得した。しかし、帰り道でふと気づくと、彼は大切にしていた腕時計を失くしていた。気にしないようにしようと努めたが、心のどこかで不安が募る。
次に彼は、「好きな女性が僕を好きになりますように」と願い、再び砂を一粒使った。結果は期待通りだった。彼女は健一に急に興味を示し、二人はデートを重ねるようになった。しかし、その代償として、健一は自分の親友との関係を失うことになった。親友は突然、健一に冷たくなり、理由も分からず疎遠になってしまった。
3. 代償の重さ
願いが叶うたびに、健一は少しずつ何かを失っていった。成功を収めるにつれて、周りの友人や大切な物が次々と消えていく。彼は成功と引き換えに、孤独と後悔に苛まれるようになった。
最後に残った砂粒は一粒だけだった。健一はそれを手に取り、最後の願いを考えた。彼が今最も望んでいること、それは失ったすべてを取り戻すことだった。しかし、それが可能なのかどうか、彼には分からなかった。
「この最後の願いで、全てを元に戻したい」
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